28.くっしょん
よろしくお願いします。
<DUEL START!!>
視界にメッセージが表示される。
さすがに俺も覚悟を決めた。
こうなったら徹底的に抗ってやる。
ルールは標準。
つまりオーブあり。ということは、最初にやるべきことはただ一つ。
「“拓く航路、反転する潮流、燃え盛る灯は此方に…盟友たる白き竜の魂よ、泡末の現へ” <外ツ國、還リ來タル禍ツ舟>!!!」
指輪から迸る光が天空へと昇っていく。
眩い光が瞬き出現した魔法陣は、この前とは形を変え、竜のモチーフらしきものが浮き上がっているようであった。
地面に下りてきたそれは、黒い光を放って竜の姿を形作る。
「ふーん、それがあなたのオーブの力なのね?」
「そうですよ。正確には竜を召喚する能力じゃないんですけどね」
黒い光が収まり“アルカディアドラゴン”の全身が現れた。
白くきれいな身体は生きていたころとなんら変わらず、その優し気なまなざしはアリスを預かってからずっと変わらない。
「カゲツさん、お久しぶりです。私を確実に呼ぶことができるようになっているようでよかったです」
「うん、来てくれてありがとう、キャロン」
「はい。…まだその名前にはなれませんね」
キャロンというのはこの“アルカディアドラゴン”の名前。
アリスだけではなく母である彼女にも名前がないといけないと思ったのだ。
キャロンに名前を付けることになったのは、オーブの研究をしていたからだ。
さすがにこの間の“森の王者”との闘いのように、偶然いい感じにオーブが発動するわけはないだろうから、保険として使い方を熟知しておきたいと思ったのだ。
そして、その成果が今の詠唱だ。
俺のオーブは本質的に、倒したモンスターを召喚するというもの。
ただし、制限としてどんなモンスターが召喚されるのか確定できないということがある。
コストの消費量と、イメージを調整すればそこそこモンスターを絞ることができるが、確実に決められたモンスターを呼ぶことができない。
さらにはモンスターを一度呼ぶと、成仏してしまうのか、基本はもう呼び出せなくなる。
今回の詠唱を発見したのは、どうにかキャロンを呼び続けたかったからだ。
オーブには隠し要素的なものが多いので、往々にしてこういうことはあるのだが、相当役に立つ。
正直に言って、竜種の力が強いからだ。俺の槍とかなくても十分すぎるのだ。
自身の能力が低いのをカバーするために、コータに言われて、こういう戦法を採れるようにした。
「あら、話せるの?その子は」
「ええ、私は長いこと生きていましたから」
「クーレさん、言っときますけど、キャロンはかなり強いですよ?」
俺は内心ひやひやしつつも、強気で声をかける。
クーレさんは臆さずに、むしろ楽しそうに言った。
「いいわね。私も頑張らないと!」
彼女は胸にあるブローチをひと撫でした。
俺はキャロンに声をかける。
「キャロン、今回はあの人が相手だ。めちゃくちゃ強いらしいから、全力でよろしく」
「わかりました。最初から全力で行きますね」
キャロンが口に炎を溜め始めた。
ブレス攻撃は竜種最大の特徴で、かなりの攻撃力を誇っている。
広範囲に向けて大きなダメージを与えることができるこの技は、様子見には過激だ。
しかし、これくらいで丁度いい。
なぜなら、それなりの戦闘力があっても苦戦するはずの竜種に対して、クーレさんは全く余裕を崩さないからである。
「いきます!」
キャロンのブレスが、ごおという音を伴って放たれる。
その熱量は周囲の空気を焼け焦がしていくかのようだ。
さすがに素で受け止めてはどうにもならない。
ただ、これを見ても彼女の笑みは揺るがない。
そればかりか、明るい声で言いのけた。
「私にそれは、通じないわ!」
彼女は胸のブローチを改めて握りしめた。
「“ふわふわ!やわらか!低反発!”<無限くっしょん>!!」
オーブが起動したようだ。
ピンクの光が、炎に負けない輝きを放ち、クーレさんの目の前に広がった。
そこへ、キャロンのブレスが直撃する。
何かに当たったのか、衝撃で爆発が起こる。
その爆風は俺の元までやってくる。
だが、ブレスを止めるような遮蔽物はついさっきまでなかったはず…。
一体どうやって?
煙が少しずつ晴れて、その正体がわかる。
クッションである。
ピンクを基調としたクッションに、かわいく星が散りばめられている。
注目すべきはその大きさ。
俺の身長の二倍は軽くあり、それが若干宙に浮いている。
正直摩訶不思議である。
オーブは皆そういうものだが。
今のところ“魔術型”ということくらいしかわからん。
「これが私のオーブよ!」
どや顔でクッションの後ろからひょっこりと顔を出すクーレさんは、若干すすけていた。
ほとんどダメージを食らっていないようだ。
つまり、あのクッションは盾のような役割を果たしていると仮定したほうがいいだろう。
「竜種の攻撃食らってそれだけピンピンしてるって怖いですよ」
「乙女に怖いって言っちゃダメ!今回は許してあげるけど次はないよ?」
これはまずいんじゃないか?
ブレスまでほぼノーダメージにできる盾となると、攻撃を通すのは相当難しい。
コータにアドバイスをもらいたいところだけど、決闘が終了するまでは周囲の声は聞こえない。
「キャロン、あのブレスより強いものを放てるか?」
「恐らく可能ですが、威力は少ししか上昇しません。あまり効果はないかと…」
「マジでか…」
キャロンの攻撃が効かないとなると俺の勝ち筋はさらに見えなくなる。
対策を考えなければならない。
あのクッションもオーブである以上、どこかに弱点があるはずだ。
俺のオーブにもしっかりと弱点があるように。
それを裏付けるように、先ほどまであったクッションはもう消えている。
とりあえず、手数で攻めよう。クーレさんは自分から攻撃しては来ないみたいだ。
「キャロン、単発ブレスを大量に頼む。俺も近接攻撃をしてみるよ」
「わかりました。お気をつけて」
俺は余裕の表情で煽ってくるクーレさんに向けて走り始めた。
俺の頭上をブレスが飛んでいく。
「<無限くっしょん>!!」
案の定、クッションが出てきてブレスを防いでくる。
しかも、最初と変わって詠唱省略してきた。
ってことは、単発で何度も使える奴か…。
俺みたいなハイリターンな魔法にありがちな長文詠唱は、ほとんど省略できない。
だが、“魔術型”のオーブには戦闘中に何度も使うことを想定されたオーブがあり、そいつらは一度詠唱して使ってしまえば、その戦闘中はオーブ名だけで簡単に発動するという効果を持っているのだ。
「キャロン!もっと威力抑えていい!量を増やしてくれ!」
俺は物量で押し切る戦法を採ることにした。
本当に物量作戦を得意とする人に比べたら少ないけど、二対一を作り出せてる現状をうまく利用するにはそれしかないと思ったのだ。
「おぉ!カゲツ君、頭の回転早いタイプだ!」
そう言いながらクーレさんは全く先ほどまでと変わらず、クッションをうまいこと出しては、攻撃をいなしている。
俺が到達するまでにキャロンが結構ブレスを打ってくれたが、大ダメージにはつながっていないらしい。
「<無限くっしょん>!」
ブレスに対してクッションを発動した瞬間、俺は後ろから槍を突き刺す。
爆発の煙に紛れて、どうにかクーレさんの後ろに回り込んだのだ。
能力を見ている限り、後ろにはクッションが出てこないはず…!
けれど、決まったと思った俺の一撃は、クッションに完全に阻まれていた。
クッションの中にめり込んだ槍の切っ先から、衝撃が伝わってくる。
それをもろに食らい、後ろに吹き飛ばされた。
幸い、そこまで強いものではなかったので、少し受け身を取るくらいで体勢は立て直せた。
しかし、これでは…。
「びっくりしたよ!カゲツ君は初心者って感じの動きじゃないね」
「ありがとうございます…。クーレさんこそ、後ろに目でもついてるんですか?」
「まっさかー。これはオーブの能力の一つ。私のオーブは二段階進化してるからね。コータ君やユーカよりも強いの」
知りたくなかった事実だなあ…。
「さて、どうやって私を攻略するのかな?」
煽るなあ、この人…。
なんか、ここでリタイアしてもいいほどに力の差を思い知ってるんだけど、どうせなら最後まで戦いたい。
「どうにか…この槍か、キャロンのブレスを届かせるしかないですね」
「そっか」
この言葉を言っていたクーレさんの顔がどのようなものだったのか、俺にはわからない。
なぜなら、俺との会話中、ずっと彼女は前を向いてキャロンのブレスを防いでいたからだ。
しかし、そこに攻略のヒントがあるはずだ。
キャロンのブレスから手が離せないということは、確実にブレスが脅威であること、そちらを向いて対処しなければならない理由があるということだ。
俺が後ろから攻撃したとき、クーレさん自身がわざわざクッションを出してきた感じはなかった。
つまり、オートガードに近い何かだと考えていいだろう。
そうすると、わざわざオーブ名を唱えている前のクッションは手動。
この二つの違いはなんだ?
とにかく、考えないと勝利はない。
まともには戦えない。
俺のオーブの制限も近づいている。
時間が来る前に、戦いになっている内に、この引っかかりをどうにか形にしたい。
そんな思いが俺の頭をいつも以上に動かしていた。




