27.訓練
よろしくお願いします。
クーレさんの追加した目的は、俺たちや運営が全面的に協力することで達成しようということになった。
<不敗>の名前を汚したくないということで、攻城戦の目標が優勝に変わった。
正直、めちゃくちゃハードル高いからやめて欲しい。
そして今俺たちは、その攻城戦のために訓練すると言われ、城の闘技場に来ている。
さっき聞いた通り、訓練の指導はこいつがするらしい…。
「はっはっは!よく来たな諸君!バーチャルアイドルもいるなんて豪華じゃないか!しかし、ここから先の訓練は俺が教官!しっかりと言うことを聞いて着いて来るんだぞ!」
完全に調子に乗っている。
ムカつくのを通り越して、痛々しいレベルだ。
ユーカとコータの顔がみるみる不機嫌になっていく。
俺は責任取らないぞ。
案の定、コータがキレそうなテンションで話し始める。
「おい、お前はなんでここに…」
「すごーい!しっかり言うこと聞きます!」
しかし、コータの声は元気なパンナちゃんにかき消された。
パンナちゃんは目をキラキラさせながら、キャップのことを見ている。
こんなに純粋に育っているなんて…。
気まずくなったのか、コータは押し黙った。
パンナちゃんはその後も無自覚にキャップを持ち上げ、訓練をいざ始めるとなると、キャップのウザさは最初の5倍くらいになっていた。
「いやぁ、しょうがねぇな!俺はやっぱり攻城戦一筋でやってきたからなぁ!お前らを一人前にするくらい朝飯前よ!よっしゃ、まずは攻城戦のルールから確認する!」
ノリノリなキャップはとんでもなく饒舌に攻城戦のルールを教えてくれた。
口調は相変わらずムカつくところが多いが、内容はかなりわかりやすいものだった。
その内容をまとめてみる。
攻城戦は、六人で行う競技である。
競技自体は陣取りゲームのようなもので、相手の陣地にあるフラッグを先に奪取したほうの勝利だ。
イベントでは基本的に一対一の試合をトーナメント方式で積み重ねて優勝を決める。
陣取りの舞台となるのは、特別に設定されたステージではなく、通常のエリアである。
競技中の敵チームへの攻撃、妨害は自由。
倒されてしまったプレイヤーは競技本部に戻され、その競技中復活することはできない。
また、エリア内に元から存在しているオブジェクトやモンスターは、通常通りの動きをする。具体的には、プレイヤーを発見したときに敵対し、襲い掛かったり、オブジェクトは耐久値を超えたら破壊出来たりというようなことだ。
そして、自陣と敵陣の位置は毎回ランダムで決定する。なお、敵陣までの距離と方向だけはすべてのプレイヤーにわかるようになっている。
ざっとこんなところだろうか。
何となく理解はした。
そして、キャップがやたらエリアを徘徊している理由が分かった。
「攻城戦ってゲームの特質は、エリアで行うことにある!エリアに殺される…つまり、プレイヤーではなく、地形、環境、モンスターに殺されることも十分にあり得るわけだ」
「確かにそうやって戦闘不能になった場合は、相手に損害を与えることなくこちらの戦力が減ってしまうものね…」
ユーカは割と攻城戦に乗り気なようで、かなりしっかりと内容を頭に入れているようだ。
他のメンバーも結構しっかり聞いている。
キャップを説明役に選んだのは実は正解だったのかもしれないな。
「つまりは、攻城戦において重要なのはエリアへの知識ということだな?」
コータの問いに答えたのはラトさんだった。
「もちろんそれが大切でございます。しかし、それだけでは勝てないのが攻城戦なのですよ」
「どういうことです?」
キャップがそれが大事だと何度も言っていたので、俺もエリアをしっかり理解していればいいのかと思ったが、もっと大切なことがあるらしい。
「一言でいえば、指揮系統が大切ってやつだな。陣地の場所はランダム。敵の動きも予想できず、守りと攻めの分担もできないんじゃあ、自陣にひたすらこもるしかない。もちろん、戦闘力極振りのチームは迎撃で敵の頭数を減らす戦法を採ることもある。しかし、フラッグを奪ってしまえばいいのだから、敵の出方次第ではすぐに壊滅する。この辺のバランスを考えた作戦を考え、常に現状に合わせて指揮していく人間が必要なわけだ」
キャップが滔々と語る。
その口ぶりはどこか寂しそうで、されど熱がこもっていた。
キャップのこの言葉を区切りに、基本知識の教授は終了した。
正直、これで訓練は完了だと思っていたが、まだまだ続きがあるらしい。
「よし、今度は全員の特性を把握する!さっきも言ったように、役割分担がかなりカギとなってくる攻城戦で、味方の能力を全く知らないのは馬鹿だ!しかも、臨時で雇ったわけじゃないと来てる!これはもう、お互いを知り、綿密な連携を構築するチャンスだろうが!」
キャップは謎に勢いを取り戻し、こう宣言した。
要するに、何かしらの方法でお互いのスペックを知ろうというわけだ。
そして、さっきからこのチャンスを待ち望んでいた人がいる。
「はい!それじゃあ模擬戦をしましょう!決闘か、乱闘で!」
明るく怖いことを言ってのけたのは、クーレさんである。
彼女の能力を俺は知らないが、他のメンバーはあまりすぐれない表情をしている。
「なによ!みんなして!」
「だって、今日のメンバーの中に、あなたのオーブを破れる人間はいないわ。始まる前から結果がわかっているでしょう?」
「えー、ひどいよ。私だって結構戦うの好きなのに」
「クーレお姉ちゃんは戦ってるとき悪そうな顔してる!」
「うそー。かわいくしてるつもりなんだけどなぁ」
女の子たちのちょっと黒い会話を聞きつつ、俺はコータに小声で質問した。
「なあ、クーレさんってどんな戦い方するわけ?」
「そうだな、一言でいえば理不尽かな」
ん?
頭の中にはてなが沢山浮かんでくる。
めちゃくちゃ強いという意味の理不尽なのか、理不尽な要求をしてくるのか…。
皆目見当がつかない。
ただ、俺のせいでコータのつぶやきがクーレさんの耳に入ってしまったようだ。
女の子の話し合いは一時中断され、コータはクーレさんから怖い目を向けられた。
コータも若干しまったというような顔だ。
「だれの戦い方が理不尽なのかな?」
「いや、賛辞の一つっすよ、それくらい強いっていう…」
クーレさんは先ほどまでとは打って変わって、ねっとりとした背筋の寒くなるような声で話していた。
こうして詰問されてるコータには申し訳ないけど、やっぱりアイドルみたいな活動をする人は多芸なんだなあと感心する。
「ふーん、でも、私と直接やったことないよね?わかるのかな、そんなことが」
「いや、俺は対人戦だとほとんどオーブが機能しないんで、サーベル一本で戦わなくちゃいけないんすよ。勝てないでしょう」
「なるほどねー」
ひきつった顔のコータはなかなか見られない。
レアだなあなんて、のほほんと思っていたらクーレさんの目がいきなりこちらに向いた。
「じゃあ、君で!」
「は?」
素で返してしまった。
油断した。
完全にこっちをロックオンしやがった。
そんな理不尽なら、俺は戦いたくない。
アリスをなでて平和に過ごしていたい。
「聞いてるよ。特殊な能力なんでしょう?“森の王者”圧倒できるくらいだって?それなら私と戦えるよね?」
「いや、でも、俺は初心者なんで、ちょっと遠慮したいなあと。そんなに大層なものじゃないですし…」
俺が必死に弁明していると、外野からいらない声が飛んでくる。
「こいつは俺の能力で強化した“森の王者”を倒しやがったからな!あれにはびっくりしたぜ!!」
「ふーん?」
「あー、そいつはまだ全然強くないですけど、竜種呼べますからね。オーブってすごいっすよね」
「へぇ、竜種を呼べると…」
「クーレ、勝ったらそいつにネコミミをつけたコスプレさせたいから、頑張って」
「はーい。ユーカがそこまで言うなら!」
「ちょ…!」
周りのやつら全員が敵だった。
もう俺の信じられるのはアリスしかいない。
…かわいらしい寝顔しやがって!俺に味方はいないのか!
「じゃあ、やりましょうか」
「いやだ。怖いのはこりごりだ…」
「大丈夫。怖くはないわ。歯が立たないかもしれないけどね」
「もっと怖い!得体が知れない!」
どれだけわめいても、決闘の準備を進められていく。
絶望の淵に立たされた俺に、天使なパンナちゃんがやってきた。
「カゲツお兄ちゃん、同じ【蒐集家】として、応援頑張るね!」
かわいいけど、絶望に落ちるという結末は変わらなそうだよ…。
現実を思い知らせるように、俺の目の前にシステムメッセージが表示される。
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プレイヤー「クーレ」から、決闘の申請が届きました。
承諾しますか?
YES / NO
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あきらめ、覚悟を決めて、俺はYESをタップした。




