26.お茶会は進化した
よろしくお願いします。
キャップは顔面蒼白なまま、ドナドナされていった。
いや、多分お前は告発者だから何もされないと思うけど。
俺はそんなかわいそうな男を見送り、急ぎパンナちゃんの部屋に戻る。
材料を届けろってことなんだろう。
それが終わったら俺もキャップと同じように色々聞かれるんだろうなと思うとかなり面倒だ。なんであんなの拾ってきたかな。
ふわふわとそんなことを考えていたら、パンナちゃんの部屋の中が何やら騒がしい。
ユーカとパンナちゃんだけではなく、ほかに誰かがいるようだ。
なんとなく、そうっと部屋に入る。
「やったー!お姉ちゃんたちと攻城戦に出られる!」
「待ってラトさん、それはアリなの?私たち一般人だし、パンナちゃんはNPCでしょう?」
「これは運営の企画の1つでもあるので、姫様が出るのは問題ありません。詳しい説明は省かせていただきますが。それと、若干認識を阻害出来るような特殊装備を運営からお渡しします。オーブは隠せませんが、運営のスタッフということで行動を共にするのは問題ないかと思われます」
ん?な、何の話だ?
なんか、人多くね?混乱を極めてるぞ。どうした。
「私のスタッフの中には、男性もいるし、だいたい大丈夫よ。それに、コータ君は強いらしいし、カゲツ君はアリスちゃんの主人なんでしょう?居てくれたらありがたいわ」
「俺よりもラトさんの方が全然強いすけどね」
「いえいえ、私は対人戦特化型のオーブですから。コータ様のオーブとは系統が違いますよ」
「2人とも居てくれたらいいのよ!みんなでやった方が楽しいわ!」
どういうことだ。さすがに俺も話に混ぜてもらわないと困る。
「ちょっと、帰ってきたんですけど、どういう状況?」
「あ、ようやく帰って来たわね。外に出たら2人とも面倒なこと持ってきて!どういうことなのよ」
「いや、俺が状況理解できてないんだけど。つか、俺たちが会えるはずないバーチャルアイドルもいるし、なんなんだよ」
部屋に入ってきた俺を見る視線は5つ。
コータ、ユーカ、パンナちゃん、ラトさん、そして、<不敗天使>クーレ。
これは、何だろう。どうしたらいいのか道筋が見えない。
クーレさんに至っては会話したこともない殿上人みたいな存在だから、接し方の糸口もわからない。
「まずは、私たちの状況を整理する必要がありますね」
ラトさんがその場を仕切り始めてくれた。
これでとりあえずは安心だ。
「初めに、私とコータ様が交わした契約のことを話しましょうか」
「え?何それ」
「いや、まあ、ちょっといろいろあってな。結論から言うと、俺たちのチーム“白うさぎ”は今回のイベントの攻城戦に出場することになった」
ん?どういうことだ?
イベントに出場するのはいいけど、攻城戦は六人じゃないとできないんじゃなかったか?
「私は実は運営側の人間でして、このあたりのエリアの管理をしております。その中である企画がありまして、その一部として私とパンナ姫とクーレ様と“白うさぎ”の皆様で攻城戦を戦っていただきたいのです」
「それはまたどうしてなんです?」
「あなたたちは少人数ながら全体の実力がなかなかに高い。しかも、姫様と仲が良いというところが今回の企画において大切なことなのですよ」
ラトさんが運営サイドなことに疑問はあまりない。最初から立ち回りがすごかったから。
しかし、この話にパンナちゃんとの関係性が出てくるところに、俺とユーカは首をひねった。
どうしてそんなことを気にするのだろうか。そもそもパンナちゃんは何者なんだろうか。
ユーカは特に気になっていたようで、質問を重ねていた。
「ねぇ、ラトさん。企画とかこちらとか言うけど、パンナちゃんに何があるの?」
ラトさんが口を開く直前、パンナちゃんがユーカに向かって言い放った。
「あのね!私はOLA実験用特殊AIなの!だから、いろんなことを学んで、体験して、ちょっとずつ賢くなってるの!今回はイベント初参加なのよ!」
その口ぶりは、賢く幼い純粋な女の子そのもの。
俺にはAIには見えないけど、その辺が特殊なのだろうか。
「…と、いうことでございます。パンナ姫様が成長するには、やはりプレイヤーの、本当の人間と触れ合わなければいけないのです」
「そんな研究があったなんて…。だから仲のいい人が一緒なのがいいのね」
ユーカは一人納得したようにつぶやいた。
いや、多分納得はしてないだろう。
この場ですべてを理解することをあきらめたんだな。
じゃあ俺も話を進めようか。
「なるほど。ラトさんとコータの契約っていうのはそれが内容でいいんだよね」
「ああ、だいたい全部終わったな。あとはこの内容を外部に漏らさないってことだけだ」
確かに企業の企画にかかわるっていうのは、そういうこともあるんだよな。
アイドルであるクーレがいるのもその辺の問題があったりするからなんだろう。
もう今回はそうやってテキトーに納得していこう。
無理だ。真剣に考えたら頭がパンクするわ。
「それでは、次にカゲツ様の方から上がってきた案件に関してですね」
「え?上がってきたってどういうことですか?」
素で聞き返してしまった。
本当によくわからない。
後でどこかに連行されて報告させられるのかと思っていたらラトさんまで知っているなんて、キャップのやつ、そんなヤバいことをしたんだろうか。
ユーカがなぜか切れ気味で聞いてくる。
「ちょっと、あんた何をしたのよ」
「なんもしてないよ。ちょっと妄言チックなことを言ってた知り合いを拾ってきただけで」
「その行動がとても大切だったのです。イベント妨害の工作は実は少し前から、国内のあちこちで散見されていまして、ちょうど犯人捜索をしていたところなのですよ」
なんと。まさか、キャップが犯人だったのか。
それは恐ろしいな。
「そして、今回のカゲツ様のお知り合いの方は、本当に犯人につながるような重要な目撃情報を提供してくれました」
良かった。あいつは悪い奴じゃなかったのか。
俺は信じてた。うん。
憎めないとか一度思うとなかなか見捨てられないんだよね。
その後にラトさんが話してくれた展開に、俺たち全員が驚いた。
キャップにはそのままスパイ的に活動してもらい、攻城戦に出場してもらうらしい。
それも、臨時で雇った犯人もろともだ。
イベントに出るとなると、基本的には開催期間中の居場所が割れるようになっている。
イベント自体を台無しにしてくるなら、どこかで行動しなければいけないので、対応をするためのリードをつけておきたいということらしい。
「さらに、今回のイベントには私たち特別チームが出場します。裏のルートでは、姫様が出場なされることは、既に拡散された情報かもしれません。私たちは、下手に奴らを警戒させず、攻城戦内エリア内で取り押さえて情報を聞き出そうという作戦を取ります。そのためにも、私たちの攻城戦出場は急務なのです」
ラトさんの説明は、もはや俺の案件というより、運営的な案件だと思うが、やりたいことはわかった。
人手が必要なのも確かにそうだろう。攻城戦の参加人数は六人。ラトさんたちだけでは足りないのだ。
攻城戦のためなら、不足している人数を補うっていうのは攻城戦界隈では割と有名な手段なのかもしれないからな。
ただ、それでも、解決していない問題が一つある。
バーチャルアイドルのクーレがここにいるのはなぜなのかという問題だ。
パンナちゃんと仲がいいプレイヤーはほかにもいるかもしれないし。
<不敗天使>はイベントもありいそがしそうなのに…。
「さて、私からはほとんど以上ですが、質問などありますか?なければ、証言者の元へ行き、攻城戦講座を行います。攻城戦はその道のプロがいたほうが安全ですから」
「キャップに教わるんですか!?」
「はい。しっかりと履歴を見ましたが、彼はそれなりに腕が立つ、攻城戦イベントの常連でしたからね」
「マジですか…」
びっくりして反射的にしゃべってしまった。
俺があいつから攻城戦について教わることになるのかあ。
結構聞いたけどなあ。あいつの一人語りは。
「攻城戦は、チーム力が試される競技です。当然、しっかりとした知識をつけなければ何が起きたのかわからないうちにやられてしまいます」
周りのみんなもそういうものなのかと納得しているようだ。
俺はあいつに教わるのは抵抗感があるけど、みんなは知らないからなあ。あいつのうっとうしさを。
そういえば、コータとユーカはいいのだろうか?
ちらりと盗み見ると、釈然としない顔をしていた。
そうか、こいつら忘れてるだけだ。
まあ、話に上がる名前だけじゃ、思い出せないのはわかるけど。
真実を伝えようか迷ったが、ラトさんが話を前に進めてしまう。
なんか、ごめんな。
「ということで、私たちの目的は、二つ。パンナ姫様の成長を促すということ、攻城戦にて、イベントを妨害してくる輩を捕縛するということです。皆様、よろしいですか?」
もう疲れてしまって反対する気にもなれず、何となく頷きかけたとき、凛とした少女の声が場を支配した。
「私は、もう一つ目的を追加するよ!」
ピンと手を挙げて宣言するのは、バーチャルアイドルの少女。
彼女は勝気な笑みを浮かべて言った。
「私のライブを、イベントを、大成功に終わらせるの!」
この確固たる自信のようなものが、アイドルという存在には不可欠なものだろうかと、俺はぼんやり考えた。
そして思い出した。
俺はこの人たちがお茶会とやらをするためにお使いに行ってきたのだと。
なにか、やるせない気持ちを抱き、ふとテーブルに目をやると、アリスが気持ちよさそうに寝ていた。
いつの間にやら青いリボンをつけており、あまりの可愛さに心のシャッターを切り続けた。現実から目を背けるために。




