23.姦しい
よろしくお願いします。
私はカゲツをお使いに行かせた後、パンナちゃんとアリスの服をどうするか相談していた。
お茶会の準備?
そんなの、後でいいのよ。
お使いさえ戻って来れば、しっかりできるみたいだから。
「やっぱりアリスには、水色ベースの服がいいと思うのよね。ほら、童話で有名なアリスがそういう服を着てるでしょう?」
「あ、知ってる!そうだね!かわいいわ!でも、せっかく綺麗な白だから、何か、目立つ色がちょっとあってもかわいいかも?多分、ワンポイントっていうやつ!」
「なるほどね。それなら、ピンクベースに赤とかでもかわいいわね。ほら、ショートケーキみたいな」
「お菓子のイメージだね!とってもかわいいと思う!」
はぁぁ…。
癒されるわ。
すごく素直で純粋な子なんだってことが伝わってくる。
アリスの服だから、小さいし、最悪アクセサリーみたいなものでもいいかなとは思うけど、服づくりと言われるとこだわりたくなっちゃうわね。
話が弾んで、結構な時間そうしていたと思う。
私たちは、いくつかの案を出した後、試作をしてみることにした。
材料は、パンナちゃんが提供してくれるらしい。
「私は【蒐集家】だから、いろんなものいっぱい集めてるの!お洋服に使うようなアイテムもいくつか集めたんだ!」
パンナちゃんはそういって、部屋の奥にあった扉を開けた。
そこが倉庫のようになっているらしい。
私もついていき、中を覗き見る。
外から見ればごく普通の扉だったが、その中には相当な量のアイテムが詰まっていた。
ぱっと見、なかなかレアなものもある。
もちろん、固有の技能で採取したであろうものも多くみられ、証明には“フェアリーランプ”のランタンが使われていた。
さながら、宝石箱のような部屋だった。
「すごいわね。これ全部集めたの?」
「うん!ラトとか、侍女のみんなに手伝ってもらったの!」
侍女まで動員して集めるとは。
本当に【蒐集家】としての素養が高いのかもしれないわね。
手伝ってもらったってことは、自分も行ったってことだもの。
「あった!この辺が使えそうなの!布とか繊維がいいよね?」
「そうね。何があるのかしら」
「えっとねー、“空山羊の毛”がいっぱいあるのと、“羽耳うさぎの毛”がいっぱいあるのは、“天空高原”に旅行に行った時に集めたからで…」
それからパンナちゃんが話してくれたことは、まるでおとぎ話のようだった。
そこそこの難度の、ステキな景観のエリアに、何度も遊びに行っているのだ。
“天空高原”という、この世界のエリアで1番高度のある場所で、ピクニックや天体観測。
“もみぢ渓流”という、美しい秘境で、紅葉を見たり、動物と触れ合ったり。
他にも、エジプトがモデルの国に旅行に行った話や、日本をモデルとした国で着物を着た話も聞かせてくれた。
私は自分の経験が、こんなに幼く見える少女に遥かに劣ることに驚いた。
お姉ちゃんって呼んでくれるから余計に。
でも、結構な外出を王女様がしていいものなのだろうか。
「これくらいで、素材は良さそうかしらね。ありがとう、パンナちゃん。お土産話も面白かったわ」
「えへへ、いいでしょ。【蒐集家】になれたのも、ラトがこの城で頑張ってくれるのも、全部クーレお姉ちゃんのおかげなんだ!」
なるほど。
クーレが一枚噛んでたのね。
あの子だって寂しがり屋なのに。
「あのね、さっき連絡して、呼ぶように伝えたから、もう少ししたら来ると思うの!そしたら、三人でお話しできるね!」
「クーレは今忙しくないの?」
「すぐ来るって言ってたから大丈夫みたい!」
すぐにクーレが来ることを知り、私は思い出した。
連絡するって言ったのに、私が“タルトレット”に着いたこと、連絡してない。
やってしまったわ。あの子のことだから、文句の一つでも言ってきそう。
「じゃあ、クーレが来る前に、出来るだけお茶会の準備を済ませちゃいましょうか。お洋服は、私一人で作れるし」
「うん!でも、お洋服できたら私にすぐに見せてね!」
「もちろん、そのつもりよ」
材料を抱えて倉庫から出た私たちは、部屋の一画に材料のスペースを作った。
まずは、部屋の長テーブルをオシャレにして、椅子の配置を変えないとね。
マナーは知らないけど想像力だけはあるから。
パンナちゃんに似合う、可愛くて喜んでもらえるようなデザインをしなくては。
お茶会に向け、そんな決意をしたところだった。
バタン!と扉が勢いよく開く。
反射的にそちらをみたが、何も認められない。
しかし、パンナちゃんが嬉しそうな顔で言った。
「あっ!クーレお姉ちゃん!」
「えっ!?」
さすがに驚きが隠せない。
見えないクーレがそこにいるの?
「久しぶり!パンナちゃん!元気だった?」
「うん!今日はユーカお姉ちゃんもいるよ!」
「知ってる!」
しばらく、何もない空間に話しかけているパンナちゃんを思考停止で見つめていた。
何か、不思議すぎて言葉が出てこなかったのだ。
すると、突然体が押し倒された。
めちゃくちゃびっくりしたけど、何とか手をつく。
腕に掴まれている感触があるから、誰かがいるのはわかる。
誰かっていうか、クーレなんだろうけど。
「ねぇ、私がなんで怒ってるかわかる?」
「…連絡遅れたから?」
「そう!私、ユーカ以外の友達ほとんどいないんだから!」
そんなに怒るほどのことじゃないと思うんだけど。
うーん、ちょっとは反省してる感じを出したほうがいいのかな。
「ごめんね。今日来たのには変わりないのよ。たまたま先にここに連れてこられただけなの。…顔が見えないと話しづらいわね」
「…しょうがないから許してあげる。ちょっと待ってね」
私には表情が見えないから、何とも言えないけど、これはたぶん演技ね。
ころころ感情が動きすぎ。
人で遊ぼうとする癖は変わらないみたい。
私が上半身を起こしたのと同時くらいに、クーレの姿があらわになった。
噂には聞いていたけど、クーレの透明モードは本当にわからないのね。
運営の手が入っているから、当然といえば当然だけど。
私と同じくらいの目線でかがんでいるクーレが、にっこりと笑いかけてきた。
ほら、やっぱり演技。
「ユーカ、久しぶり!今回はびっくりした?」
「久しぶり。透明のほうにびっくりしたわ。本当に不思議なものを見てた気分だもの」
「むー。演技はまだまだってことかぁ…。スーパーアイドルへの道は遠いなぁ」
クーレはそのかわいらしい顔でむくれてみせた。
こりゃ、馬鹿な男子どもはイチコロね。
この子はいつだってあざとい。
知っててもそれがかわいいのだから、神様って残酷よね。
「クーレお姉ちゃんは十分スーパーアイドルよ!」
パンナちゃんもしゃがんで目線を合わせてくる。
「ありがとー。パンナちゃんもかわいいぞー」
「えへへ」
クーレが言いながら頭を撫でた。
嬉しそうにはにかむパンナちゃん。
くっ、私を殺しに来てるわね。
「そうだ。お茶会だって聞いてたんだけど、お茶とお菓子はどこにあるの?」
「あなたは自由ね。けれど、まだ準備ができてないのよ」
「ごめんね。クーレお姉ちゃんが来る少し前に始めたばっかりなの」
何となく流れで、カゲツがお使いに行ってることや、コータという仲間がもう一人いることを話す。
すると、少し考えた後で、クーレは言った。
「じゃあさ、テーブルとイスだけ準備して、お使いが届くまでお洋服作ろうよ」
「いや、でも、アリスのやつは、みんなでできないわよ?」
「違うの。私たちの服よ!出会った記念に、あってもいいんじゃない?」
全く、クーレはお調子者だ。
私に会うと理由もなく、服をせがんでくるくせに、今日は変に頭使って…。
しかも、かわいいパンナちゃんを巻き込むとは…。
「…ユーカお姉ちゃん、作ってくれるの?」
その目、その目はずるいよ。
いつかはちゃんと作ろうと決めてたけど…。
少し早まると考えたら別にいい気がしてきたわ。
「しょうがないわね。二人とも、サイズ教えなさい。作ってほしいデザインがあるなら先に言って」
「やったー!ユーカがやる気だー」
「ほんとにいいの!?やった!私ね、クーレお姉ちゃんとお揃いがいいの!お揃いのかわいいやつ!」
「おー、それもいい!私もそれがいいなー。ユーカ、頼んだ!」
本当に姉妹みたいな息の合い方。
ちょっとうらやましいかも。
私は了解の返事をして、デザインを相談するように、二人に言い含めた。
とっても楽しそうに話している姿は、本当に絵になる。
私もたまに加わって、アドバイスをしたりどうでもいい話をしたりしていた。
三人でやる服作りは、いつもより少しだけ、騒がしくて幸せな時間に思えた。




