21.コータとラト
よろしくお願いします。
カゲツと別れてから、俺はラトさんとともに闘技場を目指して城の中を歩いていた。
城の内部はいろいろな人が働いており、広さもなかなかある。
結構好奇の目で見られるのが正直つらいけど…。
それよりも今は、ラトさんとちゃんと話してなかったから沈黙がつらい。
初対面で結構失礼な物言いをしたこともあり、何とも微妙な空気だ。
そんなことを考えていたら、ラトさんから声がかかった。
「そういえば、あなたたちの名前をしっかりと聞いていませんでしたが、コータさん、カゲツさん、ユーカさんの御三方でよろしかったでしょうか?」
「あ、あぁ。俺たちの名前ならそうだが…」
「それはよかった。正確に把握できていたようです。それでは、もう一つ質問よろしいですか?」
「あ、あぁ。どうぞ」
なんだ?どうしたんだ?
言葉が少しおかしくなるほどのプレッシャーを感じる。
プレイヤー相手にこんな感覚になるのは、なかなか久しぶりだが、ラトさんが明らかになにかを隠し持っていることはわかる。
「<黒の将軍>とは貴方のことですか?」
「っ!?」
この人、俺がどんなプレイヤーなのか分かって接触して来たのか…!
古参のプレイヤーでも、噂程度にしか聞いてない話を分かっててわざと…。
ラトさんは相変わらず、ほとんど表情を変えない。
その静けさがやはり恐ろしい。
「あんたは、それを知ってどうするんだ?別に、得するわけでもないだろ」
「いえ、将来的に得するかもしれませんから。確認です。その様子だと、本人で間違いないようですね」
「だったらどうするつもりだ?カゲツたちにバラすか?」
できれば、あのことは知られずに過ごしていたい。
面倒ごとが増えるだけだ。
ラトさんは薄く微笑んで言う。
「そうですね。私と、賭け事をしていただきたいのです。“決闘”システムを使って」
「なるほど。色々裏がありそうだな」
「さあ?私が賭けるものは貴方の過去を他言しないこと。貴方が賭けるものは、イベント期間のチームの処遇でどうでしょう?」
えげつねえな。この人。
危険な賭けまでして俺の過去を隠すだけってレートがおかしいだろ。
ただ、“決闘”システムは、勝った方が負けた方に、〇〇してほしいってくらいの軽いお願いをできるようにするのが関の山だったはず。
仰々しいけど、要はお願いがあるって話だ。
つまり、本当の目的は…。
「ラトさん、あんた、決闘イベント何回出てる?」
「この付近でしたら、全て」
「なるほど」
この人、決闘したいだけだ。
決闘イベントは対人戦の極みみたいなイベントだから、好きな奴は大好きだもんな。
闘技場イベントと違って、バトルロワイヤル方式ではなく、一対一の完全トーナメント制。
時間はかかるけどじっくり対人戦が楽しめるってことだ。
時間がかかるってことがネックで、闘技場イベントに比べたら回数が少なかったはず。
この城のプレイヤーは少なそうだし、久しぶりにやりたいだけなんだろうな。
そういうことなら、俺もプレイヤーとして全力で当たらなければいけないな。
「わかった。やろう。ただ、専門ではないから手加減はしてくれよ?」
「なにを仰いますか。救国の英雄でしょう?」
「…カゲツたちに言ったら、タダじゃおかないぞ、さすがに」
「いえ、それは決闘の結果によりますから」
「いい性格してるな」
「私も仲良く出来そうで嬉しいです」
“タルトレット”の闘技場は、闘技場イベントを開催するには狭く、決闘イベントを開催するにはちょうどいいような大きさだった。
訓練中の兵士のような人たちに退いてもらい、決闘用のバリアを張る。
これは、下手にモノを壊さないようにするための措置である。
というか、兵士を簡単に退かせて、何人か戦闘を見学したいって人が出てきてる現状はすごすぎないか?
どんな成果を上げて、どれだけの信頼を得たらこんな立場を確立できるんだ。
やっぱりただ者ではないな。俺は気合を入れなおす。
「さて、準備は整いました。ルールはどうしますか?」
「いや、標準ルールでいいよ」
たまに、オーブ無しってルールを使うことがあり、完全に対人スキルの優劣をつけるのを楽しむ人たちがいる。
俺は、OLAで戦うからには、オーブ込みで戦いたい。
俺のオーブは、対人戦ではほとんど使いものにならないが、それを言い訳にしたくはない。
「かしこまりました。それでは、カウント10で始めましょう」
「わかった」
俺はサーベルを抜刀する。
ラトさんは肉弾戦で戦うか、若しくはオーブ自体が武器のプレイヤーみたいだ。
何も装備せず、身体を臨戦態勢に移行させている。
カウントが視界に表示される。
―――――――――
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
<DUEL START!!!>
―――――――――
俺は開始と同時に全速力で走り出した。
オーブが何かわからないのが怖いからだ。
オーブが起動する前に仕留めるのが一番勝率が高いはず。
ラトさんは、俺のことを見た後で構えの姿勢を崩さなかった。
一度いなして距離を取るつもりだろう。
戦闘に慣れている上に、油断してないからこその判断だ。
さて、俺の力が通じるのか。
勝負だ。
「はっ!」
まずは素早くサーベルを横薙ぎにする。
徒手空拳では守りにくいはずだ。
躱すなら動くしかない。
案の定、ラトさんはバックステップで回避した。
そのまま距離を取るつもりだ。
それはさせない。
振り切る直前のサーベルを返して、もう一歩踏み出す。
そのまま、前へ切り上げる。
「速いですね」
ラトさんは、両の足がついた瞬間に、右手側に転がって回避する。
反応速度が尋常じゃない。
これでは刃が届かない。
一歩踏み込んだことで、方向転換が若干遅れる。
その内に、彼は少し先に行ってしまった。
まずい。
オーブを起動される。
ラトさんは、メガネの淵に手を添えた。
「<賽の宴は死と踊る>」
くっ。詠唱しないってことは、やはり“兵器型”か。
かなり面倒だな。
彼の周囲には光が揺らぎ、それはだんだんと右手に収束していく。
“兵器型”特有の展開の速さで、俺が体勢を整え直したときには、すでに右手に何かが握られていた。
あの右手の中に何があるのか。
俺はそれを気にしながら、行動しなければいけなくなった。
こういうことがあるから、オーブがある戦闘は難しい。
しかし、それが面白いところでもある。
黙って立っていてもしょうがない。
サイズからして、遠距離か絡め手に使う武器なのだろう。
俺は近距離しか戦えない訳で、まずは懐に潜り込むのが大事だ。
そう判断し、もう一度全力で接近する。
今度も、ラトさんは動かない。
しかし、今度は右腕の位置が低い。
腰のあたりか?半身で隠れていて、手元がよく見えない。
注意しつつ、全力で首を取りに行く。
OLAは急所や部位欠損判定がほかのゲームよりも精密だから、早めに決着をつけたければ急所狙いに尽きる。
あと1,2歩で届く。
そのリーチにたどり着いた時だった。
「<5の目>」
ラトさんが何事か言った。
俺の視界に向かってくる白いものが見えた。
かろうじて、体をひねる。
横に転がるような姿勢になりながら、状況を確認する。
バーンと、後方で爆発音がする。
待て待て、爆発はやばい。
対抗手段がない。
「反応もかなり早いですね。避けられるとは…」
「あんた、とんでもない攻撃してくるな…」
「お褒めいただき光栄です」
とりあえずあれはやばい。
接近もいろいろ気にしながらしないといけないな。
それなら…。
俺はもう一度接近を試みる。
今回は蛇行しながら近づくことにより、あの爆発物を食らわないようにする。
「<5の目>」
ラトさんは、さっきのあれを連発してきた。
かろうじて躱せるけど、爆風もやばい。
だが、一撃は決める!
「<2の目>」
踏み込みかけた俺の目の前に、また白いものが飛んできた。
とっさに飛びのく。
その場から、ふしゅーという音とともに紫色の煙が立ち上る。
「さっきと違う効果だと!?」
油断したか。
オーブの効果は全く読めないから駄目だ。
つか、この煙、毒か!?
ステータスに状態異常が表示されている。
これはますます、俺に不利な状況だな。
猛毒ではないようでダメージは少ないが、継続なのが痛い。
短期で決着をつける必要性がさらに増した。
「あんた、強いな」
「それはこちらのセリフですよ」
静かに微笑む執事を前に、俺は焦りを覚え始めた。




