17.空を行く二歩目
すみません!昨夜更新したはずだったのですが、なぜかできていませんでした…。
今日の分は夜に上げます。
よろしくお願いします。
夜のお菓子の国は、中に入ってもメルヘンチックだった。
ただ、国というからにはやはり相応の施設があり、暮らしている人々がいる。
まず俺たちは、次のログイン地点をこの国にするために、時計塔に向かった。
「この国の時計塔は残念ながら1つしかない。だから、人も多いし、周囲も賑やかだ。はぐれないようにしろよ?」
「はぐれないよ、子どもじゃないんだから。でも、それにしても人が多くない?」
「やっぱりイベント効果よ。普段はこの半分くらいじゃない?イベントのエントリーが明日からだからみんな張り切ってるんでしょ」
周囲のプレイヤーはみんな、グループで固まって談笑している。
なんとなくみんな強そうに見える。やっぱり、イベントには高レベルの人たちが来るのだろうか。
「何を突っ立ってるんだよ。早く時計塔に入るぞ。内部はほとんど同じ構造だから、少しは落ち着くだろ」
若干浮き足立ってたのがバレたのか、コータがそんなことを言う。
見透かされたようでムカつく。でも、正直助かった。
人が多いのはあんまり得意じゃないし。
時計塔の中はいつも見ている景色とほとんど変わらなかった。
ログイン地点の登録をさっさと済ませ、掲示板の近くにあるラウンジスペースに3人で座る。
当然、話すことは、これからどうするのかだ。
「とりあえず、イベントのエントリー開始は現実時間の明後日だ。それまでは暇ってことなんだが…」
「何もしないっていうのもなんか、しっくりこないわよね」
「でも、何をする訳?周辺の散策でもする?」
机の上で、“フェアリーランプ”のランタンを不思議そうに眺めるアリスを撫でる。
オレンジのきらめきがアリスの瞳の中で揺れていた。
「なあ、こんなにアリスが興味を示してるんだから、この“フェアリーランプ”のランタンを買ってみないか?“タルトレット”のいくつかの店では普通に売っていたはずだが」
「あー、確かにそうだったわね。アイテムとしてもなかなか優秀じゃなかった?」
「ああ。確かそこそこ効力の高いモンスター避けだな。虫系のモンスターに特に効果があった気がする」
「へぇ、それでいくらくらいなの?」
「高い奴で10万イェンそこいらだった気がするが、安い奴だと2千イェンしないくらいじゃなかったか?」
結構幅があるみたいだな。
「なんでそんなに値段に開きがあるの?」
「確か、芸術性と採取の完全性に影響されていた気がする…。芸術性はよくわからないが、採取の完全性は技能のレベルによるからな。レベルの高い技能を持ったプレイヤーに依頼して採ったものは値段が高いんだろう」
「採取の完全性が高いとランタンにしたときに何か影響するの?」
「確かランダムで、何かの効力が上昇したはずだ」
「なるほどね。ほんとに買うなら、ちょっと高めのを買ったほうがよさそう」
何となくそんな話をしていると、不意に後ろから肩をたたかれた。
振り向くと、白髪交じりの誠実そうな執事が立っている。
穏やかな声で、彼は口を開いた。
「少し、よろしいですかな?」
「は、はい…」
おっかなびっくり俺が答えると、優し気に微笑みながら、執事はお辞儀をした。
「突然申し訳ありません。私のお仕えしているお方が、あなたたちのことを屋敷に連れて来いと仰っているのですが、お時間よろしいでしょうか?」
「おい、ちょっと。あんた、そんなこと言って俺たちを騙そうとしているんじゃないだろうな?」
「これはこれは申し訳ございません。全く何の身分証明もせずに、このようなことを言っても怪しいですね。それでは、特別依頼という形で掲示板に提示するのはいかがでしょうか。これなら、私が契約を反故にすることはできませんからね」
コータが少し語気を強めるも、柳に風と受け流す彼は完璧な執事のように見える。
これがロールプレイだとしたらかなり板についている。
「…それなら、心配は要らないな。だが、どうしてそこまでして俺たちを連れて行こうとする?」
「確かに、それは気になるわね。私たちは、別に何も特別なことはしてないし…」
それは俺も気になった。
なんで俺たちに声をかけるのかわからない。
この街には着いたばかりだし、依頼だって何もしてない。
かかわっている人も少ないから、俺たちを知る機会も少ないだろうに…。
「なるほど、確かに。しかし、私の口から申し上げることはできません。依頼書に記述しますので、少しお待ちを」
彼は金縁の丸メガネをかけ、ストレージから出した紙に、ペンで依頼内容と思わしき文章を書きつけていく。
プレイヤーが依頼するときもこの世界では、ちゃんと紙に文字を書き付けなければいけないというのが、ルールだ。
面倒だが、プレイヤーで依頼を出す人間がまず少ないから、あまり気にされていないらしい。
執事さんのペン先はさらさらと動き、依頼書はほとんど一瞬で完成した。
「どうぞ、お確かめください」
そこには、衝撃の内容が記されていた。
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<特別依頼>
内容:“アルカディアドラゴン”の幼竜を依頼主の元へ連れていく。(生きたまま、なるべく負傷させずに連れてくるように)
条件:【筆頭執事】ラトに認められること
報酬:要相談
補足:依頼主は“タルトレット”の姫であるパンナ様です。成功の暁には相応の対応がなされるでしょう。
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「は?」
さすがのコータも口を開けて固まってしまう。
ユーカはなぜかせき込んでむせ返っている。
俺も何か状況が飲み込めず、ぼーっとしていた。
当の本人であるアリスは、キューという声を上げながら、相変わらずランタンに向かって前足を伸ばしてじたばたしていた。
のんきなものだ。
「いかがでしょうか?悪い条件だとは思いませんが」
「…少し、考えさせてくれ」
コータのようやく絞り出した言葉がそれで、その後の話し合いはかなり内容のないものになった。
現実味がなさ過ぎて、嘘であるという結論しか出てこなかったのだ。
しかし、依頼を受けて受理されると、依頼を出した側はシステム的に虚偽が許されないものとされる。
ラトとかいうこのプレイヤーがわざわざ嘘をつく可能性は低い。リスクが高すぎるからだ。
こうして考えてみると、はずれを覚悟で行ってみてもいいのではないかと思えてくる。
焦りすぎて訳が分からなくなってしまった俺たちは、すべてをコータに投げることにした。
「…遅くなってすまない。俺たちは依頼を受けようと思う。ただし、条件がある」
「ほう、何でしょう?」
「アリス及び俺たちを傷つけないこと、自由を妨げないことだ」
「なるほど。警戒は解けないということですな。良いでしょう。こちらとしては全く問題ありません」
「ならば、契約成立だ。依頼を受注する」
「ありがとうございます」
2人が依頼書にサインをする。
個人間の依頼のやり取りはこうするのが一般的だと、さっき教えてもらった。
お互いがそれを終えると、依頼書は光の粒子となって消える。
これが、システム的に依頼を受けた状態に変わった証拠なのだそうだ。
「さて、それではお城へ向かいましょうか」
「何で移動するんですか?」
「専用馬車を呼びます」
俺の問いに答えて、ラトさんは高級そうな箱を取り出した。
中にはホイッスルほどの大きさの笛がある。
彼はおもむろにそれを吹いたが、全く音が鳴らず、見ていた俺は驚いた。
何も起きないと視線を彷徨わせていたが、やがて、バサバサと羽ばたく音が耳に届いた。
何かと思い視線を上にやると、空飛ぶ馬車が下りてきていた。
「ご覧ください。我が国の貴族専用馬車、“天馬車”です」
俺たちはそれを見て、とりあえずは騙されずに済んだと胸をなでおろし、同時にこれから起こることが何なのかに恐怖した。
「王族がらみって、やばいイベントの入り口とかじゃないわよね?」
「さぁ?王族なんて普段かかわらないからわからん」
「これは別に、理不尽に死んだりしないよね?」
「キューイ」
何も知らないアリスだけが、のんきにランタンの明かりを見ていた。




