10.ユーカ戦線再び
よろしくお願いします。
「戦いを楽しもうじゃねぇか!!」
キャップとかいう男の声が聞こえた。
アイツ、人の気も知らないで黒歴史をばらしてくるわ、しゃべり方がムカつくわ、何なのもう!
しかも、黒歴史をカゲツに知られるなんて最悪っ…!
「これで変なイメージがついたらどうすんのよ!」
目の前の“密林狼”を腹いせになぎ倒す。
「『怪力女王』はさすがだな」
「その名前で呼ぶなって言ってんの!」
崖の上に立つ男が言う。
確かブルトンって呼ばれてた。あいつもムカつく。何なの、今日は。
モンスターをいじめてるみたいな、めちゃくちゃムカつく場面に出くわしたから本気であの竜のために頑張ろうと思ったのに!
こんなことが続くと、素に戻っちゃいそう。せっかくの出来る奴キャラがぁ…。
ダメ、あきらめない。さっさと倒して、キャラを守る!
「なんだ、なかなかおっかないな。あんまり対人戦は好かないが、久々に頑張るかね」
ブルトンがオーブの準備を始めたみたい。
本当なら崖を切り崩すでもして、上に行きたいけれど…。
「この狼っ!数が多いし邪魔ばっかして!」
どうにもこうにも数が多い!キャップってやつのオーブが関係してるのはわかるんだけど、カラクリがわかんない!
オーブの力の一部でこんなに大量の狼を召喚できるわけないし…。
いくら私が多数のモブを相手に戦うのが得意だと言っても、限度ってものがある。
まだオーブを使わずに相手ができてるけど、これから先どうなるのかはわからない。
それに今回はモンスターだけじゃない。
「<瓦礫錬成>!」
先ほどと同じように、左右の崖から石の柱が飛び出してきた。
今度は先端のとがった殺傷能力の高いものだ。
狼が邪魔だが、どうにか回避が間に合った。
前転して受け身を取り、態勢を立て直す。
「あの状況でかすりもしないとはなかなか…」
ブルトンが感心したようにつぶやく。
私は少し危機感を感じていた。
これだけ大量のモンスターを相手にしながら、こいつの攻撃に対応し続けるのは少し無理がある。どうにかして、対応する方法を考えないと…。
“密林狼”を屠りながら、周囲を入念に観察していく。
“密林狼”の追加は、森の中からやってくるみたい…。つまりは、オーブの能力で“密林狼”が発生しているわけではないということ。
そうなると、追加で来ている狼がなんで私に攻撃してきているのかがわからない…。
「もう!これだからプレイヤーが絡んでくる戦闘は嫌なのよ!」
このゲームの特徴であるオーブは、戦闘を複雑にする。
闘技場イベントで対人戦を経験したけど、とんでもなく大変だった。私は単純な能力だから何にも考えなくていいし応用も効きやすい。でも、特殊な能力で勝ち残ってた人たちは攻略法が見えないような、不気味な強さだった。私は今のままでは絶対にあの人達には勝てないと思う。
でも、今回はちょっと違う。
能力がわからないだけ。今は解決策が見えないだけ。それだけだから、頑張ればなんとかなる。
あの時の絶望感は全くない。
「<瓦礫錬成>!」
今度は地面から飛び出してくる大量の石柱。
躱せるものは躱して、残ったものは粉砕する。
1つわかったのは、ブルトンのオーブは汎用性が高い反面、あまり威力がない。
本人も何度か言ってたけど、戦闘向きというよりはサポータータイプ。もっと言えば、攻めるより守る方が得意そう。
私は一旦彼を放置して、無限に湧き出る狼たちの方を解決することにした。
狼を屠るスピードを少し上げる。耐久が大して高くないから一撃で吹っ飛んでくれるけど、次から次へと飛び出してくるのが面倒。
ほとんどダメージを食らってないし、全方位から来る割には統率が取れている感じではない。一体どういうことなんだろう。
埒が明かないから、ちょっと本気で考えてみる必要がありそう。
まず、コスト面で考えよう。
追加で出てくる狼の全てが召喚されたものだとすると、支払いコストはとんでもないことになる。最小コスト1で召喚できるとしても、もうすでに100体は倒している。世界最高ランクのプレイヤーでも、マックスコストが1000くらいだってことを考えると、ちょっとこの大量召喚は異常だ。
闘技場イベントで戦ったプレイヤーの一人はオーブの効果で同一ユニットを無尽蔵に製造してたけど、あれにだってカラクリがあった。どっかに、何かカラクリがあるはず。
振り向く余裕はないけど、カゲツが今交戦してるモンスターも召喚されたものだ。こっちに来てないってことはカゲツが頑張ってるんだな。偉い。
カゲツの方に、あれだけ強力なモンスターを召喚してるから、コストにそんなに余裕はないはずだ。つまり、この大量発生はオーブの効果ではないと考えて良さそう。
「<瓦礫錬成:三連>!」
崖側から挟み込むように石の槍が飛び出し、地面からは荊のような石が生えてきた。
「やっばい!!」
バックステップで地面の攻撃を回避して、横からの槍を砕けるだけ砕く。
「痛っ…。さすがに無傷は無理だよね」
腕と足の幾らかに裂傷ダメージが通っている。
狼は相変わらず攻撃してくるから、手は休められない。
対抗策を考えるだけの時間もあんまりないし、思ったよりもピンチかも…。
「やっぱり能力が高いな。弾切れになりそうだ」
「何、嫌味なの?」
「全くそんなつもりはない。素直に驚いているだけだ。これだけ不利な場で、しっかり立ち回れるプレイヤーは早々いない」
「まるで、あなたたちが何人ものプレイヤーと戦ってきたような言い方ね。さすがはPK集団ってところかしら?」
少しくらい意趣返ししてもいいわよね。
こんなに苦労してるんだから。
でも、予想してた噛みつくような反応は返ってこなかった。代わりに返されたのは、困惑の声。
「おいおい、俺たちはPKチームじゃねぇんだが…。まあ、こんな対抗依頼を受けていればそう思われても仕方がないか…」
「どういう意味よ?」
戦いながらの会話は面倒だが、この会話中は詠唱ができないはずだ。
ちょっと時間稼ぎに付き合ってもらおう。
「俺たちはいつも、攻城戦を楽しんでいるチームなんだよ。ただただ人を殺したいだけのPKとは違う。守るものとルールがある中でいかに相手を倒すのかって言うのが楽しいんだよ。こんな依頼のレベルとは違う」
「へぇ、私は攻城戦なんてやったことないけど、結構やりこんでるみたいね」
「当たり前だ。競技人口が少ないから注目度も低いが、何度かトップ10入りもしてるんだ。今はメンバーが足りなくて出ても勝てないから、こんな依頼とかもやってるがね」
なるほど。サポートに特化したようなオーブを所持している人間が多いのはそういうことなのね。
それにしても攻城戦チームとは盲点だったわ。仲間が6人以上いないと挑戦できないってこともあって、今まで気にしたこともなかったかも。
「ねぇ、興味がわいたから参考までに聞きたいんだけど、ルールってどんなものなの?」
「“密林狼”の群れをなぎ倒しながら質問とは、豪胆だな」
「うるさいわね、いいでしょうが!」
「おお、怖い。そうさな、ゲームは1か月に1度、毎回違う街で行われる。近くのエリアに人口の囲いを作り、その中に各チーム1つずつフラッグを置く。相手のフラッグを先にとれたほうが勝利だ」
「案外単純なのね」
「外枠はな。プレイヤー同士で戦うということが、馬鹿みたいに戦線を複雑にしていくし、屋外のエリアで行っているから野生のモンスターも出てくる。様々な要素を加味して戦闘しなければいけないのが、攻城戦だ」
「奥が深いみたいね、1回チャレンジしてみようかしら」
こんなことを言いながら、私はブルトンの言葉のある部分に引っかかっていた。
『野生のモンスター』だ。もし、それが戦術に絡んできて、戦況に大きな影響を与えるのだとしたら、やりこんでいるという彼らはきっと利用法を考えているはずだ。
試してみる価値はある。
「ご新規さんが来てくれるのは嬉しい限りだ。仲間を集める必要はあるがな」
「確かに、モンスターの群れにも苦戦しているくらいだから、それは当然ね。やっぱり、モンスターの事前知識は必要なのかしら?」
「そうだ。どんなプレイヤーでも最近はやっているだろうが、攻城戦には、どこにどれだけ何がポップし、どんな生態をしているのかまで知らなければ不利になる場合がある。攻略法などを簡単に調べるだけでは足りないということだな」
この人、根がとってもいい人なんだろう。
めちゃくちゃ教えてくれる。
でもごめん。今の情報、ありがたく使わせてもらうわ。
「勉強になったわ。じゃあ、そろそろ、戦闘を再開しましょうか」
「再開も何も、嬢ちゃんはもう戦闘しているだろうに」
「“密林狼”は終わらせて、あなたと戦うのよ」
私は、思い切り戦闘斧を振り回し、狼たちの隙を作った。
「<女王の乱獅子>!!!」
今回はオーブを全開で使う。
コストを8割持ってかれるけど、大丈夫。
一瞬で勝負をつける!
私は力いっぱい飛び上がり、戦闘斧を振りかぶった。
「<剛毅万衝>!!!」
全力全開出し惜しみ無しの一撃を地面にたたきつける。
衝撃が大地を伝わっていく。地面がはがれ、砂塵が周囲に広がっていく。
地面に立っていた“密林狼”は衝撃で軒並み光の粒子になり、崖には亀裂が走る。
そして、すさまじい音とともに地盤が崩れ、崖だった土砂は一気にこちらへなだれ込んでくる。
崖の上の森にいたモンスターにも、あの男にもどちらにもダメージが入っているはずだ。
私は突き立てた巨大な戦闘斧の上に立ち、あたりを見回す。
見つけた。
“白王狼”。このエリアに出てくる“密林狼”のすべての生みの親と呼ばれるモンスターで、討伐するときも大量の狼を生み出して攻撃してくるという面倒な相手だったはず。
この森には群れで戦うモンスターが多いということもあって有名な情報ではあったけど、そいつが召喚されてて、こちらに向かってきているなんて考えもしなかった。
私は敵全体が立ち直る前に、<女王の乱獅子>を解除。普通のサイズの戦闘斧で“母密林狼”に肉薄する。
「さすが『怪力女王』やってくれるな。俺にも少しあがかせてもらうぞ!<瓦礫錬成:硬石牢>!!」
ブルトンは健在のようね。
私の周りにピンポイントで石壁が作られていく。高さは十分、下から攻撃されたらおしまい。だけど…。
「私のオーブを甘く見ないで!<女王の乱獅子>!!」
強化した戦闘斧で石壁を粉砕する。
敵の位置は覚えてる。
そのままの勢いで、“白王狼”とブルトンを思い切りなぎ倒す。
上手く、両方をとらえられたみたい。どちらも明滅し、光の粒子になっていく。
「ごめんなさいね。このゲームに破壊不能オブジェクトはないのよ」
コストはもうほぼゼロ。最小出力の<女王の乱獅子>さえ使えない。
それでも、間に合った。
カゲツはまだ、戦っている。
ブルトンがアカウント制限になったことで、私とカゲツの間にあった壁は消滅した。
そこにいたのは、オーブを発動する寸前の、ぼろぼろになったカゲツだった。




