気さくな愚策
嫌に青ざめた顔が黒い森に浮かび上がる、自分たちの様な新兵でしかない部隊には荷が重過ぎる事態になりつつあった。
サルライネン軍曹からの報告は淡々とアーペリへ伝えられると小隊を預かるこの男の目の色が変わり、号令を発する。 内心ではそれどころではないし応答なし反応なしの基地司令を殴り飛ばしたいところなんだよ!!
「サルライネン軍曹を援護し基地に侵入した部隊を排除する。 行進に紛れ込んでなんかやばい連中が入り込んでいるらしいからなー、空砲までは許す!」
サルライネンの居場所は大体予想がつく、本当に羊でも数えてのんびり子守唄でも歌う牧歌的な時代は変わってしまったんだなぁ、この国も
「了解、menninkäinen 交戦開始」
サルライネンは自分の出来る事が分かっている、交戦と言っても無茶な真似はしないだろう。
「隊長、あの方々は公国労働党と言っていましたが現在の国会議員を輩出する政党の中に公国労働党という名は…」
アスラ伍長、たしかに公国の議会の中にその様な政党は存在していない。 だけどな国会だけが議会じゃないんだぞ?
「名前的には労働組合による政党みたいだが、どこの組合だろうな」
うちの国の主な産業は林業と農業、南部の湾岸に工業地帯と連邦国境に石炭の採掘場が点々とある。
そう考えると工業地帯の組合が今回の騒動の発端となのだろうか?
俺たちはサルライネン軍曹が発見した別働隊を監視する、または撃退させる為に基地内へ走っていた。
哨戒用なので装備は全てしているわけでは無いにしても、男の俺とフェリペのペースではアスラ伍長とルイーズ上等兵はついてこれない重さだろう。
「こちら小隊長、状況を報告せよ」
「menninkäinen、了解。 二十人ほどの人影を確認、有刺鉄線を破壊して基地区域へ侵入、火薬・兵器庫をこじ開けられる可能性あり」
それは非常にマズイ、あの人数分だけの兵装を揃えるだけの火器はたしかにあるが不用意にそんなものを手に入れた連中が何をするかは分からないし分かりたくもない。
「下手打って兵器庫を爆破炎上なんてされたら俺たちの首がリアルに飛びかねないからな…任意除隊…除籍かなぁ?」
想像に難くない想像をして落ち込んでいたら後ろから
「小隊長は気負いすぎだよ〜も少し気楽にやんなきゃさ」
フェリペがうるさく言うので黙ってサルライネン軍曹が待つ場所へ急ぐ。
「こちらですよ小隊長」
一瞬サルライネンに気づけなかったが気に留めない様子でサルライネンは人影が見える50m程後ろの建物と同化していた。
「こちらから攻撃は」「弾数の制限と相手の所持する兵装が分からないので」「様子を伺うに留めたってことね」
成る程、これはさっさと応援呼びたやつな…サルライネン軍曹よく敵を見つけてくれた。
「囲んで殴りかかるか…この人数じゃ無理だな」
「小隊長、何も敵を倒すのだけが戦争じゃあ無いんですよ」「あーあ、フェリペ少尉の頭は幸せな秘訣でも入っている様だからカラカラいい音が出そうだなぁ!!」
苛立ちを隠せないのは俺のせいか、はたまたフェリペ准尉の他人事の様な口調のせいなのか、怒りが声に混じる。
「幸せの秘訣は青い鳥が自分だって思い込むこと、後は少しのシエスタの時間をとってあげればokですよ」
そう言ってフェリペ准尉はそのまま作戦を話し終えると自信ありげに口角を上げる。
「これ、上手くいけば確かに俺たちとしては美味しいが…」
我々現状が出来るのはこんなもんですよとフェリペは肩を竦めて分隊各員の賛成を確認する。
「やってみますが…これ、なんで最初からしなかったんですかね?」
我が小隊の通信担当ルイーズ上等兵はこの作戦に際してこう言っていたという。
まぁ、何にしても動かなければ始まらない訳で…
「よし、どうなるかは正直賭けだがやろう。 作戦コードを臨時に「Apua」 とする。作戦開始は三分後、分隊各員は作戦行動を開始せよ、匹夫の夜盗共には穴倉へお帰り願おう!!」
奇策か愚策か、散り散りになっていく分隊員たちを見送ってフェリペ准尉はほくそ笑んだまま闇に溶けた。
次回へ続く!!




