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夜の刻限

小さな頃、仕事を無くした人達が生気のない顔をしてパンの配給に並んでいるのを見て父に「なぜあの人達は並ばないとパンが貰えないの?」と尋ねた事がある。


父の答えはゆっくりとした深い声で「彼らは神から恵みを与えられなかった人々だ。 我々との差異はあれども根本的には依然として変わらないのだよ」と言った。


未だに私はその時に目にした路頭でうずくまる少女の視線が脳裏に焼き付いて離れずにいた。世の中の見える全てが敵と言わんばかりの真っ暗な目…夜の闇というよりももっとドス黒いナニカ、

時たま夢と頭の中に過ぎるのは恐ろしさはありますが私の生まれてからの退屈を一挙に取り払って余りある程に私の思考を回転させました。

「何故あの子はあんな場所にいて私はこんな場所に居なくてはならないのか」


ランカスター家の一員としての責務と義務をなんてものを目の前にして私はそれを盛大に捨ててしまいたかった。

世の中を変える力は無くとも世の中を見てやりますと豪華で殺風景な屋敷を勘当同然な形で出てきた私なのですが…

こんな光景に出くわすことになろうとはよもや考えてもいませんでした、流石に自国民に銃を向ける羽目になるとは誰が予想できたことでしょう。


「静粛になさってくださいますか? 我々としても貴方方のような善良な市民への対応でこの引金を引きたくはありません」


目の前には暴徒まではいかないまでもボルテージの上がった人達が軍の敷地内へと不法に立ち入ろうとしている。 止めて他所へ行くならそれで良いのですが…


「この様子ですと聞く耳持たずと言った様子ですね、どうしましょうかターラー軍曹?」

「俺に聞くな俺にどうしろってんだよ、兵器庫からデカイの一個取り出してぶっ放す位しか俺には考え付かねぇぞ?」

ビクトリアは少し考え納得した様子でうなづきターラーの案を本人が採用をやめてくれと言う中でガヤガヤと騒ぎたてる目の前の集団に向けて自分らしからぬ行動を彼女は開始した。

「おいおいおいおい、ジョークだぜさっきのは! 勘弁してくれよ〜ビクトリア少尉!!」


自分の小銃の安全装置を外しターラーたちが止める中でビクトリアは彼女自身の撃鉄を起こした。

驚いた分隊員と集まりつつある集団に向けて彼女は

「…お静かにお願い致します、我々は夜半の尋ね人でもそれ相応に迎え入れるだけの度量持ち合わせておりますので少々お待ちくださいませ」

言い放つと目配せをしてサルライネンを基地の守衛所へ走らせる、勿論無許可で基地の案内など出来るわけがなく、不躾で不作法な訪問者に開ける道理もない。

小隊長が決裂させてしまった交渉を独断で繋ぎ止める為に呼び止めたのだが組織の上層部は姿を表さずに集団の声がだんだん大きくなっていく、

「ねーちゃん邪魔だ!!」「道開けろーーー!」

というのはマシな方で誹謗中傷も少なくない、ビクトリアは怯むことなく静止を求めるがここに来て予想打にしない事態が起こる。


「こちらサルライネン軍曹、基地内を徘徊している軍服姿の人物を発見。国籍までは分からないけどうちの小隊以外に夜間哨戒を実施している小隊はある?分隊長?」

ビクトリアは即座にそれを否定、各小隊の行動日程を把握しているわけではないものの、今夜行動予定の小隊は我が隊のみであったとターラーを通じて隊長たちの分隊へ伝えようと試みる。


「我々は労働者諸君の安住の為に行動している! 賃金の格差の是正や労働時間管理体制の拡充、外国人の高給取り、技術顧問の縮小などである!! この行進は公国市民に向けた正義の行進であるが君たちはこの訴えの賛同はしないのか!?」


「…お答えしましょう、私達は公国の軍隊です。

軍隊とは所詮平時にはただの穀潰しですし、訓練をしているだけでお金が貰えます。

正直なことを申し上げますとその様な我々には思想も主義も持ち合わせてはいけない立場であり、役目は最終手段としてあなた方の盾になり他国からの理不尽な暴力や死を請け負うのです、そこに立派な思想も精神も存在しえません。

闘争・聖戦などと色を付けて飾りつけるには勝手ですがただ皆さんがそれらを周囲に振り向けるのなら我々は全力を持って阻止します。」


戦場という場所はなにも特別でもなんでもない。この森でさえ砲火と怒号が飛び交い、硝煙と死臭の立ち込める世界になりうるのだ。


「サルライネン、活動中の小隊は存在しない。 俺たちもそちらに合流するのでそれまで行動を監視せよ、奴らは別働隊を用意してる、周辺に警戒されたし」


アーペリ隊長達も始めましたか…恐らく仮想敵国である連邦が背後にいるのでしょうね、間諜や内部からの工作活動に利用されているのかもしれません…考えすぎでしょうか?


「冷静になってください、そうしないと我々も手を挙げなくてはならなくなります」

安全装置は外さないが黒い銃身は確実に市民団体に向けている、互いが動きを見せなければ混乱は起きない…はずだった。


次回へ続く

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