第十一話 音響と度胸
夜を突き破る一撃は確実に標的を仕留める為、ライコフは息を殺し、その瞬間を待っている。
アーペリと各隊員の会話を傍聴した訳ではないが基地の守備隊であり恐らく隊長級の人物であろう事は推測し、ここで暗殺出来ればこの部隊の練度を下げることが出来ると踏んでいた。
まぁ、実際のところはと言うと彼自身が自虐するほどに統率力が無く、各隊員からの助言や考察を纏め上げて分裂するのを抑えるのが精々なのだがそれは問題ではない、
問題はアーペリ隊長がここで何者かによってロクな演習結果も実際経験はおろか、どっから来たかも分からない流れ弾によって二階級特進してしまったかどうかである。
戦場における死因の二割は流れ弾だというから案外あり得る話ではあったのだが…
原因はアーペリ達の分隊が行進を発見し、一斉に姿勢を変えた結果としてアーペリは無事に二階級特進を果たせなかった。
「ん…?頭の上を何かが掠めてったんだがあれかなどんぐりとかかな?」
撃たれた本人は近くで銃声がしたので何かが起きたのかは理解したがまさか自分が狙われているとは夢にも思っていない、
「ここは行進からの流れ弾が飛んできますから危ないやもしれません、小隊長移動しましょう」
アスラ伍長の言う通りだと思いアーペリは移動指示を分隊に発令、行進への接近を試みる。
その中で殿を務めるアスラ伍長が自分達の他に走る足音に気づいたのは果たして偶然なのだろうか?
小隊長に説明するとまたややこしい事になりそうなのでここは分隊長のフェリペへ相談することにした。
「なんだいアスラ伍長、君から相談なんて珍しい何か火急の御用事かい? 遠慮なく私に話すといい!!」
勿体つけずに話を聞いてほしいんですけど…率直に言うとアスラはこの准尉が苦手だったのだ。
アーペリがぶっきら棒、ターラーがお調子者と来てフェリペがナルシストなのでこの小隊は女性陣がしっかりしないといけないとこの前ビクトリア少尉とルイーズ伍長と話したばかりである。
「あの…! 私の直感なのですが!!」「ほぅ、直感…なにかな?」「隊の移動中に足音がなんだか多いように感じていたんですよね…気のせいならいいんですけどなんだか怖いなーって思って、どうしたらいいですか?」
自分でも確証は持てないしこんな時に何を言っているんだ!? と叱責されるかもしれない…アスラは急に怖くなって目を強く瞑った。
「僕はあいにくとフェミニストでね、女の子の言う事は何でも信じる質なんだ」
帰ってきた答えは案外と柔らかいものだったがそのフェミなんとかの意味をアスラ伍長は知らない。
彼女はこの小隊の古参だがたまに一番最後に着任したフェリペ准尉に対して強い口調と素に戻ったりする。
「あっ、はいそれはいいんですけど…」「あー、そうだねつけられてるって話だろう? それなら問題ないよ、何故かと言えば僕が既に発見しているからね!!」
そのまま振り返り背中に背負っていた小銃のセルフティを外して構える姿勢を見せる。
「どうしたフェリペ准尉何かあったのか?」
アーペリにはよく分かっていないがフェリペ准尉はそのままアンダースローで何かを茂みへ投げ込んだ。
当てずっぽうかどうかまでは分からないが、少なくともライコフが潜む位置とかなり近い場所へフェリペは音響弾を投げ込んだ。
「これならば効果的だろう?」
効果的かどうかはさておき、甲高い金属音がかなりの範囲に木霊し行進している人々を更に不安にさせるのだがそろそろ集団は基地の敷地へ土足で踏み入ろうとしていた。
「フェリペ准尉、音響炸裂弾を投げるのに俺に許可を取ったらどうだ…伏せろの合図と耳を塞げってお前らあの10秒もない時間で公国軍式のハンドシグナルよく使ったな…」
全員の鼓膜はアーペリの言う通りフェリペのハンドシグナルによって防がれたのだが教えてはいたものの、
後を付けていたライコフは暫く動けずにアーペリを見失う原因となった。
「いえいえ、それほどでも無いですよねー」
「後で理由書取るからな」「えー、あっちの混乱を収める為に使ったんですから大目に見てくれません?」「く・れ・ま・せ・ん」「隊長ケチですね」
中間管理職なんてそんなもんだ、黙ってたにしても主計科やらにとやかく言われるんだからすべこべ言わない。
「隊長、基地敷地前のビクトリア分隊です。これより最後の勧告を行います。 隊長に確認しますが空砲及び威嚇射撃は行なって良いですね」
ビクトリア分隊が基地の鉄条網の前に陣取り、表情は凛々しく毅然と分隊員とともに行進する人並みの前に立ちはだかった。
余計は態度や身振りは必要ない。 我々の立場が何であれ、相手の立場が何であれ、自分達は事実を伝えるだけだ。まどろっこしいのは無しにしよう、人を縛り付けるのはいつだって人なのだから…
「Hyvää iltaa、(ヒューバーイルター)愛するべき公国一般市民の皆さん、我々は公国陸軍混成第六師団ラウル湖基地所属、第十一小隊です。我々は今夜こんなツキのない夜に貴方方へ布告する為にやって参りました。」
事を荒げるつもりは勿論公国軍はおろかビクトリア少尉にも無い。 上意下達の軍においてお上は神でありその点においては万国共通と言えるだろう。
「先程からの銃声、炸裂音などは貴方方をこの場へ誘導する為のものです」
ビクトリア少尉は後に嘘だと話している。そんな都合良く事が運ぶのなら彼女は広くて狭いあの庭からこの地で体を鍛えてはいない。
「なんだお前らーー!」「邪魔すんなーー!」「だ、誰だ!!?」
などなど、様々な反応が目の前の男達から聞こえてきたがビクトリアの目は静かに空を見据えたまま話を続ける。
「我々公国陸軍の基地の鉄条網と検問所の前での撮影及び侵入は、我々公国陸軍が看過出来る度合いを超える可能性があり、」「うるせーぞねーちゃん」「そうだそうだ、引っ込め」「やーい大公の使いっ走り」
男達はまだあどけなさが残る女に向かって暴力と同等な言葉を列挙し無造作に放り投げてゆく、自分達の品格を勝手に貶めていく様をビクトリア少尉は嘲りも浮かばずに根気を込めて話を続ける……だがしかし、半分ほどの人が口々に矢面に立った勇気ある行動を貶してしまう。
森の闇は優しく彼女へ微笑んではくれなかった。




