第十話 ばったりとはったり
「あ…申し訳ありません!! 我々はあのー、彼方さんが何か行動を起こすとの事で見学をしに来ていて…労農選挙団というところから来ました。」
実在はする団体だが中佐とその一団の正体は勿論違う。
「……ではあの集団とは類似すれど実態は異なるものであると…?」
公国軍から向けられた懐中電灯が明るい。相手は一人、数は圧倒的有利…事故死に見せかけてやる事は可能だが中佐は足がつくのが嫌なのだ。 彼はついた嘘を突き通すつもりらしい…
「その団体は確か数年前に公安局から解散命令が出されたはずだが…まさかまだ水面下で活動しているとは思わなかった。 君達は取締りの対象だが生憎と俺は出世なんぞに興味はないので即刻森から去って頂きたい」
男は手にしている小銃を下げて引き返そうと踵を返し…
「ただ一つ、貴方方へ言いたいのは…この国へ厄介ごとを持ってくるのだけはやめて欲しいという事だ。
破壊された秩序は疑心と裏切りしか生まないのだから」
と言い残して銃声が続くあの行進のの方向へ駆け出していった…
「あんな事を言ったとして何になる。我々のすることは変わらない、 観測的希望は悲惨な戦況を生み出すだけだ。ライコフ、あの男を尾行しろ。 くれぐれも見つかるなよ? 最終集合地点にて待つ」
ライコフと呼ばれた男が先程の公国軍人が去っていった方向へ静かに走り去る。実はさっきの軍人こそ我らが主人公にして隊長であるAapeliアーペリ・Sivonenシヴォネンなのでそろそろ話をそちらに戻そう。
彼は無線ジャックを行い、市民団体と名乗る集団との交渉を独断で行ったものの、ものの見事に跳ね返されてしまい、直接交渉に出たら怪しげな連中に出くわしたといったところだ。
「それにしたって話を聞かない連中には困ったもんだ。 ありゃ耳を傾けるつもりも雑念を入れるいれちゃだめ、みんな一緒なら氷河だって歩いて渡るとか言いかねん」
「中隊長さんそっちはは本丸御殿じゃなかったようだけどどうするんだい?」
俺と二人一組からルイーズとアスラそれにフェリペが加わって四人一組、ターラー、サルライネン、ルイネン、ビクトリアの分隊規模で別れて行動を開始していた。
「ま、事実だし仕方ない。 さっきだから銃声が絶えないんだがくれぐれも実弾は撃つなよ? ただでさえ支給される弾薬は貴重なんだから」
フェリペは小隊長と分隊を率いて行進の後方を偵察、ビクトリア分隊は基地内への情報伝達と行進の鎮圧もとは言ったが多分出来ない話だろう。 任された本人もテムズ川を泳ぐようなものですねと言っていたが…テムズ川ってどんな川なんだ?
「それは問題なく、こちらから撃つ用事は全くないからね。 そうだろうビクトリア?」
実にその通り、自分達の使命は国民を守る盾であり争いを無くす為の鉾だからな。
「口でなら方便も諫言も甘言も手軽にできます…が実行となると話は別、簡単に済ませる問題ではありません」
その通り、相手の前方は何処から聞こえた銃声に混乱をきたしビクトリア分隊に猟銃などを乱発している状態… 敵の頭を見つけてやめさせたいのだがなぁ…
問答無用で撃って来るとかありなのかそれ、国軍だぞ俺たちは…それなりに権限とか威厳とかあるのが軍隊では無いのかと泣き言を言っている余裕は無い。
「ちょっと待てビクトリア少尉、発砲炎は確かに行進の列から発せられたものか? というか今のその抗議行進の状況が欲しい、見た限りの感想をくれ」
ビクトリア分隊には一旦行進から距離を置いて基地方面へ急行、基地の敷地前に張られている鉄条網周辺にて待機、最後の警告を行うつもりでいた。
「物陰からでないと撃たれかねないので断片的なものになりますがご容赦ください。
まず、集団は中隊規模で火器等はほとんど見受けられませんが私達がみたところに無いだけやもしれません。
それと集団は殆どが男です、個人的な意見ですがこの中には入りたくないです。
三つ目ですが何人か旗のようなものを掲げています。 闇夜の為詳細の把握はできませんが検討がつかない訳でも無く行進する人々が口々に叫ぶ言葉から類推できます。」
なるほど、断片的と断っていたが随分と詳しい情報をくれた。ビクトリア少尉に感謝しつつ今度は俺とフェリペ分隊で敵の頭を見つけてこの行進を平和裏にやめさせたい。 とかそんな平和と安定を愛することのできる人間でいられたらよかったのにな…
「あの集団、懐中電灯で照らしたがあれ外套の下に着ているものを見てしまって悪寒がしたぜ…」
照らされた光とアーペリの目に留まったのは枯草色の
軍服の類だった。
大公国陸軍の公式と略式の服にあんな色は無い。
彼の記憶から背けられるはずもない枯草色…あれは発足当時のままなのがアーペリの肩にのっぺりと悪寒がのしかかっていた。
「小隊長から各員に次ぐ、これはオフレコで頼みたいが今回の行動を画策した組織の中に連邦崩れの連中が紛れ込んでいる、あくまで一瞬見ただけなので断言までは出来ないが…あいつらはやはりこの国を狙っているのではないかと俺は結論づけた。」
アーペリは背後を付けている労農選挙団の1人に気づいていない。
勿論外套の下には拳銃が握られており、ライコフは事態が露呈した時点でアーペリを消すつもりでいる。
遠くに聞こえる銃声と深層の静寂の中で胸の中に仕舞われた短筒が取り出され火薬を炸裂させるまで後数秒前のことであった。




