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カデンツァ 完結編 9

「まぁ担保にしてもろうたんは不動産っちゅーくらいや。どこへも逃げへんからな、アンタと違うてよ。自分の今後が気にならんのやったら、この場から逃げたらエエわ。ただ自分の今後が気になるんやったら、俺らについて来た方がエエで。自分で決めたらいいよ。こっちは押さえるモン押さえとる。損はないんや。後は自分の損得考えてみたらエエんちゃうか」

動こうとしない男の顔は放心しているようだった。

「後は任せる」と部下に声を掛け、直樹は近くに停めている車へと足を向ける。

そして車の前で振り返り、大声で

「おい、行くぞ!」

そう呼ぶと、その輪から琢磨が走り出て来た。

……最近の自分は調子がいい。

これまで幾度となく自分のことをそう表してきた。

だがその後、我が身に降りかかる現実にまた迷走を始める。

一度浮き上がってしまうから、落下の角度、速度が急になるんだ。

直樹は自分の調子の良さを信じないようにすることにした。


運転席に乗ろうとする琢磨に「俺が運転するよ」と声を掛け、琢磨を助手席へ回らせる。

「………」

「何や、暗いな」

「え?うん…」

「あんなモン、もう慣れっこやろ」

「イヤ、慣れへんよ。俺、本気でおっちゃんが○○するの願うとったんやけどな」

「そやなぁ。その方がこっちもゼニになるしな」

「俺はお金のことはよう分からんけど……昨日までおっちゃん、あんなにニコニコしとったのに……」

人はこうである、という固定概念を刷り込むのは良くないと思っているが……。

「お前、ウチへ来て人が土下座してるの何回も見たやろ」

「うん」

「あの体勢、思い出してみい」

「え?」

「土下座して深ーく隠した顔がどんな表情か、それを見下げとる俺らにゃ分からへんやろ」

「うん。見えへん」

「土下座なんてもんはな、飾りや。あの隠した顔は泣いてると見せかけて満面の笑みかもしれん。歯茎剥き出しの笑顔かもしれんのやぞ」

「……あのおっちゃんズッコイわ。俺、一から十までちゃんと説明したよ?もし負けたらこうなるよ、こうなるよ、って。俺の知ってる限りの説明、ちゃんとしたのに。いざ負けたら俺らのことゴミ扱いや」

「………」

「俺、信じとったのになぁ、あのおっちゃん。まさか逃げるとはな…」

やけに落ち込んでいる琢磨に、直樹は言葉を選びながら口を開く。

「向こうも俺らのこと、信じとったんとちゃうか」

「え?」

「お前の説明を聞きながら、そうは言うてもここまでせんやろ、こがいなこと言うとるけど俺はここまでせんでエエやろ。そやって都合のエエようにな、俺らのことを信じとったんとちゃうか」

「何やねんソレ。信じるって使い方間違ってるやん」

「人なんてそういうもんよ。殺人とかの凶悪犯罪、ああいうモンはテレビで流れとるニュースとしか考えてない。まさか自分に降りかかるなんて、そんな風に思うてへん」

「そうやな。だって俺もそうやもんな」

「……お前、腹減ってないか?」

「ああ、そやね。お昼まだやし」

「オッサン給料くれたか?」

「イヤ、まだ。あと2日」

「何や、まだ貰うてへんのか」

「ちょっと遅なってんけど、おっちゃん海外行ってるらしいわ」

「ああ、そんなこと言うとったな。お前、金持っとるんか」

「えー、もう500円くらいしかない」

「そうか。ほんなら昼飯いうても安いトコしか行けんな」

「ちょっとーニイニイ、たまには奢ってや!俺、この500円でコインシャワーも行かなアカンのやから!」

「ヘ、知るかッ!まぁコンビニ弁当くらい買うたるわ」

「何やねん、もう!」

こうしながら、度々ある琢磨の感情の起伏に話しかけているつもりでいる。

自分だって成長しなければならないのだから。

「世の中はなぁ、キレイ事とキレイじゃないことが仰山あるわ」

「うん」

「俺はな、いつの間にかキレイじゃないのが好みになっとるよ。信じれるもんは数が知れとる」

お前もその内いろいろと分かるようになるだろう。

そういう意味で言った。

「そうか。やっぱり事細かに頭使わなアカンな」

直樹は琢磨のそれに「そうや」と返事をした。


この日の仕事が終わった帰り道、直樹はいつものようにあの公園の前で車を停めた。

琢磨が降りるのを待っていたが、彼はなかなか動かない。

「………」

「…何や、帰らんのか」

「ニイニイ、今日な、台所貸してくれる?」

琢磨は度々直樹の部屋の台所を借りに来る。

夕飯だと言ってゆで玉子のみを作るのだが、そのゆで玉子は白身の部分しか食べない。

直樹はいつもそれを不思議に思っていた。

「お前なぁ、ゆで玉子、アレ白身しか食わんやないか。アレ何なんや」

「ああ、あれは黄身の部分はいらんのよ」

「何やソレ。アレルギー?」

「いやいや、そんなんじゃない。体のためにな」

「………」

体のためだと言うのなら、他に食べるものもあるだろうに。

やっぱりワケの分からんヤツだ。

「ほんでお前、肝心の卵はどこにあんねん」

そう尋ねると、琢磨は「あ!」と声を上げ、慌てふためいた。

「ああ、やっぱり今日はいいわ!貸してくれんで」

「何でや」

「卵、冷蔵庫へ入れてもろうとったんや。忘れとった」

「冷蔵庫?お前の棲家のドコに冷蔵庫があるんや」

「あ、イヤ、借りとんねん。借りたっていうか、えーっと…」

車を走らせながら横目で琢磨の表情を窺ってみる。

的を射ない琢磨の返事。それを面白がるように、直樹は

「ハッキリせぇ!!」

と大声を張り上げた。

それにビクッと体を揺らして驚く琢磨に、内心噴き出しそうになる。

「……イヤ……実は最近、あの公園で寝てへんねん」

「ハア?じゃあドコで寝とるんよ?」

「……泊まらしてくれる人がおって……っていうか寝室貸してくれてるだけやで?迷惑掛けたらアカンから、寝さしてもらいに帰ってるだけ」

「ハア~?お前ソレ、女か?」

「………」

「女なんやな?」

「う……うん」

「上等やなワレェ!いつの間にそんな女見つけたんや!」

「イヤ、だからちゃうって!寝室借りてるだけなんやって!」

直樹はニヤニヤしながら琢磨を冷やかす。

「んなワケないやろ~?このチェリーポリスが!!エライ充実っぷりやないか!学校行かんと毎日何の勉強しとるんじゃお前!ほ~~!」

「だからそんなんちゃうって!」

「お前、それやったらそれで、俺んトコのキッチン使わんでもソコでやりゃエエやないか。俺んトコのキッチン使うたら掃除やらされるのによぅ」

「掃除やらされるって、ニイニイがケチケチしてやらせるんやろ、掃除を!……だから寝室借りてるだけやから、他に迷惑掛けんようにしてる」

「そうか」

コイツに彼女ができたという話であれば、それを歓迎してやりたい。

俺にも家族ができ、子どもも生まれる。

そうコイツに告げたとき、どういう反応を示すのか。

そんなことを考えてみたが、さっき琢磨を冷やかした手前、今日はそれを言うのを止めておいた。

コイツの彼女……一度会ってみたいものだ。

やがて車が直樹のマンションのすぐ近くに差し掛かったとき、琢磨が声を上げた。

「ニイニイ、エエで。ここで降ろして」

「あ?何でや?ついでや、彼女のトコまで乗せてったるやないか」

「イヤイヤ、エエねん。すぐ近くやし、走って行くから」

「……そうか」

琢磨は急いで車を降り、直樹に一度頭を下げて走って行ってしまった。

何やねん。そんなに彼女見られるのが恥ずかしいんか?

そう思いつつ、車を駐車場に停め、部屋へと上がっていく。

施錠を外し玄関ドアを開けると、リビングの灯りが点いていた。

三和土にメグミの靴もある。

いつもならばテレビの声がまず自分を迎えてくれるのだが、今日はその音が聞こえてこない。

しかし直樹はその辺もあまり気に留めない。

妊娠を告げられたあの日以来、メグミとは店などで顔を合わせる程度でゆっくり話もしていない。

今日のように自分のいない間に部屋に勝手に上がりこんでいることはさほど珍しいことではないが、ここ数日メグミはその珍しくない行動を取っていなかった。

しかし直樹はこれも、さほど気にはしていない。

リビングのドアを開けると、そこにはやはりメグミがいた。

彼女は床の上に正座をし、テーブルの上をじっと見つめている。

「………」

その姿を横目に、直樹は着替え始める。

今日メグミの仕事が休みなのは知っていた。

「……何か久し振りやな」

「そう?」

メグミの態度、返事はあの日から引き続き素っ気無い。

あの日、自分の中に過ぎった一抹の不安。

メグミの態度を見るに、自分の中であの不安が的中しているのではないか。

この期に及んでそんな気がしてきた。

ひょっとして、喜んでいるのは俺だけなのか…?

直樹はまず着替えを済ませ、テーブルを挟んでメグミの正面のソファに腰を下ろした。

「で、どうや、調子は?病院へは行って来たんか」

「調子はって、」

そう言ったメグミの顔は、まるで敵を目前にしたような、そんな表情。

非難めいた視線を向けられ、直樹も本当に訳が分からなくなり始める。

「え?調子悪いんか?」

「………」

ここではっきり聞いておくべきだと思った。

今回のことは想定して起こったことではないが、俺は最高の気分でいる。

お前はどうなんだ、と。

そう言おうと口を開きかけたその時、先に発したメグミの言葉が直樹をまた奈落の底へ突き落とす。

「病院へは行ってきました。明後日の朝からです」

「ん?明後日の朝からって?」

「明後日の朝から手術です」

「手術?」

「一昨日予約してきたから、ちゃんと済ませます」

「だから、何を?」

「………」

「何や、はっきり言え」

「中絶に決まってるやんか!!」

大声で怒鳴ったメグミの言葉を理解するのに、少し時間がかかった。

決まってる?

中絶?

しばらく反芻した後のその衝撃は、大きさで言えば先日告げられた妊娠の報告よりも随分と大きな、……

「――――……」

直樹は止まり、言葉を失った。




―――― やはりどう自愛の目で、プラス贔屓の目で自分を見たところで、僕は他の人たちと明らかに違うようだ。

大抵の人は生まれてすぐの自分の姿を写真に収め、それを所有しているらしい。

大抵の人は運動会の日、両親がお弁当を持って子どもの応援をしに来るらしい。

人と違うというのは、自分で理解するのも人から指摘されるのも、気分がいいものではない。

僕は皆と同じ、普通がいい。

普通でいい、ではない。

刷り込まれた部分から求めるものへと出来上がっている。

僕は普通が、とってもいい。


僕のこの顔はどこの製品なのだろう。

この腕は何でできているのか。

この胴体は……

雑種は人には好まれませんか?  

やはり血統がしっかりしていないといけませんか?

雑種からは雑種しか生まれない。


僕の存在は罪なのでしょうか。罠なのでしょうか。

そんなことは気にするに足らない。

誰かがそう教えてくれないでしょうか。

その誰かがいない今、やはり気にするべきなのでしょうか。 ――――




「何でやッ!!?」

立ち上がり叫び散らした直樹に、メグミは驚いているようだった。

しかし直樹はそれを気にしない。

そして叫んだ後の言葉が見付からない。……どこにも。

そんな直樹に、メグミが言った。

「『何で』?……何では私が言いたいよ」

静かなメグミの言葉に、僅かに冷めた。

俺が父親じゃ人様に報告することもできねぇか。

口を開かないで黙って立ってりゃ、俺が父親だと言っても恥ずかしくないんじゃないか?

黙って突っ立ってるだけなら、俺のことを旦那だと紹介しても恥ずかしくないんじゃないか?

黙っていたところで俺にある根底からのものは人を騙しきれないか?

「――――…」

すっと、力が下へ抜けて行くような気がした。

空虚と飽和が、その区別も付けないまま振り返り、通り過ぎ ――――。

直樹はまたメグミの正面でドサッと座り込む

一体どちらの方向へ思考を向けたらいいのか。

脳が浮遊し、揺れ、耳が遠く、熱を持ち……。

メグミを睨みつけるのはもう止めた。

俺が悪い ――――…

迷惑掛けちまったな。

ぽつんとそう考えながらも、自分の目には何も映らない。

メグミの顔を見るでもなく、空間を見るでもなく。

「……お前、それやったらいつから店出れるんや」

そんな心にもない言葉が口から出てしまう。

「俺は、じゃあその辺いろいろ考えんでエエわけやな?」

後を追うように次から次へと。

「働けるようになったら言うて来いや。タダ飯食わせてやるほどコッチは暢気とちゃうからな」

メグミは「はい」と返事をし、立ち上がり、部屋を出て行った。

直樹はそれきり動けない。


……放心の遥か向こうに何があるのか、知ることもなければ知りたくもなかった。

きっと今、自分の居る場所がそこに違いない。

やはり、俺自身の起伏の在りどころはアテにはならない。

そう信じておいて、正解だった ――――…。



何故か熟睡できた。

今日の予定をここまで全て放棄し、目が覚めてはもう一度眠り、その繰り返しをしているうちに時刻は15時を回っていた。

よく眠れた頭の明快さとは真逆のところに、自分の感情がある。

昨日までの体温が平気で奪われてしまったような、そんな体調。

夢は所詮夢。

この場合、寝て見る夢とは訳が違うのだが、俺に関しては現実に起こりうることとさほど差はないようで、破れたものに対する感情というものは……

やはりこれは怒りか。

恨みか。

屈託のないものであることは確かだが、その辺の焦点は合っていない。

ごそごそとベッドから這い出て、何となく着替えを始め、歯を磨き、顔を洗い……身についたいつもの習慣を順番になぞっていると、そこで部屋のチャイムが鳴った。

見ると、インターフォンの先にいるのは琢磨。

「………」

自分の機嫌で人付き合いを云々。

そう考えていたのだから、アイツの前でも普段と変わらない自分を。

そう決めてはいたのだが。

「何や!!」

『あー、ニイニイおった!あのね、台所貸して』

考えとは裏腹に、怒気の篭もった声で直樹は応える。

「鬱陶しいヤツやな!今日は体調が悪いんや。帰れ!」

そんな直樹に、琢磨も応戦してくる。

『何怒ってるん?エエやん。お腹空いてな、どうにもならんのよ。掃除もちゃんとするから貸してよ』

「チッ!!」

盛大な舌打ちをして、直樹はオートロックを解除した。

こんな日に、自分の神経に触れられたくはない。

苛つきムシャクシャしながらも、しかしどこかで琢磨と会いたいような気もしている。

コイツとの年の差は約10ほどか。

俺が親だとした場合、その俺の子は俺にどんな感情を抱くのか。

例えばでいい。

勘でもいい。

コイツから子どもの立場での言葉を聞いてみたいと思った。

しばらくしてやって来た琢磨をリビングに招き入れる。

「うわ~!一部屋が広いなー!あ、コッチにもアッチにもテレビ付いてるやん。ビデオもいっぱいある!」

「何でや。お前、何回もこの部屋入っとるやないか。よう言うよ」

「汚い言うて奥まで入れてくれなんだやんけ。ちゃんと服も体も洗うとるっちゅーねん」

琢磨は楽しそうにニコニコしながらテレビの前で膝をつき、

「こんなでっかい画面のテレビ、初めて見たわ!」

そう言いつつも触ろうとはせず、ただしゃがみ込んで部屋の中を見回している。

そして何台もあるビデオデッキを指差しながら、

「ねぇニイニイ、俺、半年したらお金も貯まるし、部屋借りれるんやんかぁ。アレ1個ちょうだい」

「何で俺がお前にやらなアカンのや!」

その時、もう一度部屋のチャイムが鳴った。

今度は誰だとモニターを確認すると、……メグミ。

バクン、と鼓動が激しく乱れた。

今、コイツに会うと、琢磨にしようとしていた質問はおろか、今の自分をキープする自信もない。

このまま無視しようか。

そう思ったが、メグミはこの部屋の合鍵を持っている。

「アレ?誰か来たね。俺、一回出ようか?」

コイツに出て行かれてしまったその後の、メグミと対峙するに居た堪れない自分の姿を想像する。

「……エエよ。そのままここへ居れ」

直樹はすぐさま琢磨を利用することに決めた。

その内メグミが玄関から廊下を通り、リビングへ入って来た。

そして開口一番、

「……昨日の話やけど……」

「………」

今更昨日の話を、何でお前がほじくり返す?

言いたいことがあるのはこっちの方。

俺はお前に意見など求めていない。

やはり直樹はいろんなものを以前のように保つことができない。

「ウッサイのぅお前!エエから出てけ!」

直樹は怒鳴り、メグミの肩を突き飛ばした。

「ほら!ちょっとは空気読め!ほら!ほら!!」

言いながら、メグミの体を玄関まで押し戻す。

次に出た言葉は、こう言ってやるべきと思ったわけでもない。

かと言って本心でもない。

そんな言葉。

「お前もなぁ!何勘違いしとんのか知らんが、メシのタネでしかないんじゃ!米粒なんじゃ、お前なんざ!エエから出てけ!!」

メグミの顔は、分からなかった。

目には入っていたが、それが何を象る表情なのか理解しようとは思わなかった。

そこへ、いつの間にかついて来ていた琢磨が無言で直樹を睨み上げてくる。

「何やお前、何ぞ文句があるんかい!」

直樹の不機嫌は、いつでも琢磨には通じない。

「文句っつーか、メチャクチャや思うて」

「メチャクチャって何や!」

すると琢磨はぼそりと一言、言った。

「……ツレやろ?」

「ハア!?」

「ツレやろ言うてんのや!」

―――― ツレ?

一度握ったものは犬の糞でも放さない。

あの穂積の人生訓。

俺はアイツともコイツとも、ツレ以上の関係を築いたつもりでいた。

穂積の言葉を真似、もう掴んだものは逃がさないよう努力しようとも思っていた。

それとも、努力を始めるのが遅かったとでも言うのか。

この一瞬間、目の奥を様々な顔がちらつき、過ぎて行った。

必要不可欠なものに限って、いつでも自分を追い越さない。

鈍間な踵を捉えるまで、彼らはいつだってこの身を追い越そうとはしない。

分かってはいた。

が、

……しかし、琢磨のこちらを睨む眼差し。

コイツのこの態度が気に入らない。

感情は一気にそこへ向かって行く。

コイツにしようとしていた質問。

誰がコイツに借りなんか作るか!

直樹は琢磨の髪の毛を掴み、喉元を握り締めた。

「ツレ!?ツレって何や?俺はそんなモン持っとったことないわ!お前、まさか俺のことをツレやと思うとるんやないやろうな!?お前は俺に飼われとる犬やろ!オスワリ言われたらオスワリせんかい!!」

自分の中で一度握っていたと思っていたものが音を立てた。

そうや。

コイツに借りなんか作るか!借りなんか!断るに決まってる!

お前は俺に生かされてろ。

テメェの今後は俺が決める。

掴んでいた両手を乱暴に離し、

「これから仕事やが、ナシや。お前、もう帰れ!」

琢磨は直樹から視線をスッと外すと、メグミに向かって声を掛けた。

「メグミさん、行こうや」

2人はそのまま振り返らず、部屋を出て行く。

……何だ、アイツら知り合いか。

そんなちっぽけなことすら、気づけなんだってことか?

直樹は出て行く2人を見送るように立ち尽くす。

……頼むぞ、俺。

どうだ、悔しいか?


死ぬなよ ――――…。



次の日。

この日は穂積からの召集が掛かっていた。

いつものように、一時間前には琢磨がマンションに迎えに来る。

「迎えに来たよ」

「おう。今からオッサンの事務所や。運転せぇ」

「言われんでも、俺も呼ばれとんねん」

「………」

昨日のことを気にしている様子の琢磨。

……イヤ、気にしているのは俺の方か。

あれは100%、俺の八つ当たりだ。

だからお前はそんなに気にするなよ。

しかしもちろんそれは言葉にはならない。

車中でも2人は無言のままだった。

穂積の事務所に入ると、彼はソファから立ち上がり2人を笑みでもって迎えた。

「ほーほーほー。ボーヤ、聞いとるよ。頑張っとるらしいね」

「俺!ほんまに待っとったよ!」

「そうだね、お給料だね。ごめんね、一週間も遅くなって。直樹、お前もこっちにおいで」

そう言って、穂積は直樹と琢磨を自分の個室へ呼んだ。

いつもならば直樹の後をついて来る琢磨が先々を歩き、穂積の部屋へと入って行く。

直樹がドアを閉めると、穂積は懐から封筒を出して琢磨に差し出した。

「これが今月分のお給料だよ」

直樹の目から見るとあまり厚みのないその封筒を琢磨は嬉しそうに受け取り、早速中身を取り出し、その場で数え始める。

パチ、パチ、パチ……

直樹も一緒になって数える。

1、2、3、……

―――― その金額、53万。

少ねぇな…。

約2ヶ月やろ。まったく……。

しかし琢磨の持った感想は、直樹とは違ったようだった。

彼は黙ったまま再び札を封筒に納めると、落ち着きなくキョロキョロと辺りを見回した。

そして何をするのかと思えば、穂積のデスクにその封筒をそっと置く。

「……コレ、俺のんちゃう。13万のハズや。ミスしてないから、13万のハズ」

それに対し、穂積が応える。

「13万に歩合が入ってるの。言っただろう?これはキミが今月稼いだお金だよ。ボーヤ、それでどう?この仕事、大変でしょ」

「そんなことない!」

返事をした琢磨は、嬉しそうに目を輝かせていた。

「そんなことないのかい?53万、仕事した割には少ないでしょう」

「これだけ貰うたら上等や!」

「……ふーん。キミはこういう心構えかい」

穂積が鼻を鳴らす。

「………」

傍で立っている直樹、琢磨に話し掛けようかとも思った。

しかし喜んでいる琢磨に、この場では言いにくい。

穂積に文句を言ってやろうかとも思った。

しかしこれもまた、大喜びの琢磨を見ると言いにくい。

来月分からの交渉は俺がしてやるよ。

結局直樹は黙って2人の遣り取りを聞いていた。

穂積は続ける。

「キミが一人で生きて行くというのは、前途多難だねぇ。そのお金はキミが稼いだお金だから、使っていいの。ただ、忘れないでね。

キミらの同級生はもうすぐ夏休みだねぇ。でもいくら夏休みにアルバイトしたって、そんな金は稼げないよね。

いいかい?よく覚えとくんやで。キミが今受けている今の状態。『何かが違う』ということは、『人とは違う』ということなの。意味が分かるかい?」

「……分からへん」

「リスクが大きい、ということだよ。…まぁいいや。直樹、これだけありゃ部屋を借りられるだろう。未成年をいつまでも公園で寝かしとくわけにはいかんから、君の名義で部屋を借りてあげなさい」

当然や。

そう言おうとした時、一瞬早く琢磨が応えた。

「イヤ、それはいいです」

「………」

「何で?」

「俺はもう成人の名前があるし、自分で借ります」

確かに、まだ14歳である琢磨のために、『安田コージ』という男の住所と名前を与えてはいる。

しかしリスクを考えたら、俺が借りた方が早いやろ。

そうせんにしても保証人はどないするんじゃ。

言葉に出ない言葉が頭を巡る。

直樹は黙ったまま、2人の会話のみを聞いている。

「保証人はどうするんだい?」

「……おっちゃんがなって」

すると穂積はいきなり笑い出した。

「ハッハッハッハッハ!!……どうだい?前途多難だろう?いいよ、なってあげるよ。というかワシが借りてあげるよ。その代わり、家賃はキミが払いなさい。いいね?」

「うん!イヤ、はい」

穂積は2人をじっと見ながら、続けて口を開く。

「何だかさっきから殺伐としてるねぇ。ケンカでもしとるんかいな」

それに琢磨が間髪入れずに「別に」と応える。

「ちょっと大人めの子どもと、大人になりきらん大人か。ワシには見分けが付かないねぇ」

「………」

直樹は後ろで手を組んだまま、突っ立っている。

その体勢を変えぬまま、穂積の顔をじっと見つめ、何の感想も洩らさない。

数瞬の無言に、琢磨は用事は終わったとばかりに回れ右をすると、ダッシュするようにドアに飛びついた。

「おっちゃん、ありがとう!大事に使うわ!」

「うん、そうやね」

同時にバタン!とドアが閉まる。

「…あ、部屋の手続きしなきゃいけないのに…。慌てん坊やな。この後仕事でもあるの?」

その問いに、直樹も「別に」と返事をし、穂積に背を向けゆっくりと部屋を出て行く。


昨日の琢磨とメグミのことを考えた。

あの2人が知り合いなのは間違いない。

アイツはメグミから何か聞いたのか?

先ほどの琢磨の態度を思い返した。

アイツもやはり、俺が親なんてありえない、そんな返事をメグミに返したのか?

自分を居た堪れないと思う自己愛がまた征服し始める。

面白くもなければ腹も立たない。

かといって普通でもない。

直樹はそのまま自分の部屋へと車を走らせる。

今更考えてもどうしようもないことばかりを、いろいろと反復しながら。


部屋に戻ると着替えもしないまま、直樹はベッドに横になった。

ただ天井のみを見つめ、考えても仕方のないことを課題に時間を浪費するのは無駄なことか、そこから始まった悩みは次々と直樹の時間を奪い去る。

真面目にやってきたと自分を表したところで、世間は認めてくれない。

きっとそうだろう。

一体どこから始まったんだ。

俺という素材は。

あまりに静かな部屋に響いているのは、壁掛け時計の秒針の音のみ。

気が付けば数時間、体勢を変えることもなく天井を見つめたままでいた。

体を起こし、今日の予定を思い出す。

気分ではないが、今日は深夜に近い時間から重要な打ち合わせがある。

少なくとも、俺にも明日を数える権利くらいあるだろう。

空腹ではないが、直樹はその用事に備え、食事を摂ることにした。

ベッドから降り、キッチンへと向かう途中の廊下で留守番電話のランプに気づいた。

しかし、直樹はそれを無視する。

ここ最近、メグミに任せっきりだった台所。

もちろん冷蔵庫の中身も。

扉を開けると、中にはラップに包まれたお膳が一つ。

焼いたシャケの切身、だし巻き玉子、大根のおひたし。

「………」

メグミが何日か前に用意したものだろう。

直樹はそれを冷蔵庫から引っ張り出すと、冷たいままのシャケに手を伸ばし、口に入れた。

その冷たさから何日前かは計れはしないが、数日を置いた物だと理解する。

アイツ、料理上手になったな。

サバの入ったオムライスも随分と懐かしいな。

直樹はあの時を思い出し、一人噴き出しそうになる。

少なくともアイツは……

と、その時、廊下から電話の音が響いた。

受話器を取ると、相手は事務所の人間。

今晩の予定の確認であった。

『香川社長は確か日本酒が好きなんで、良いの用意しときますね』

「よろしく頼む」

短い遣り取りを終えて電話を切ると、直樹はその場に立ち尽くす。

冷たかったシャケの身を、何度も何度も噛み締めながら。

予定は予定にすぎない。

そんなことを考える。

それから、一度無視した留守番電話にもう一度気づいた。

ボタンを押すと、流れてきたメッセージ。


『2件のメッセージがあります。○月○日午前○時○分。1件です。ピ――――ッ

……………あの、私です。大西メグミです。今から………病院に………行って来ます』

「………」

『直樹くん……私、やっぱり悔しいわ。せっかく、せっかく、これ以上ない絆やと思うたのに……』

「……?」

『……別に、直樹くんを拘束するために子どもを使おうなんて魂胆じゃないんやけど……これでもっと仲良うなれると思うたのに……

私、別に結婚』


パツッ!

メッセージは一度そこで途切れた。

メグミの意図が掴めず、直樹はじっと電話を見下ろす。


『○月○日午前○時○分。2件です。ピ――――ッ

……それでも、喜んでくれると思うてた……直樹くん忙しいから、迷惑掛けんようにしようって、ちゃんと考えてたよ、私。

……でも、やっぱり住む世界が違うんやね……。直樹くん、頭イイもんな。私みたいな育ちの悪いバカとは一緒になれないよね……当然やね。覚悟が決まらんまま病院まで来てしもうたけど、迷惑掛けたらアカンから、ちゃんと行ってくるね。直樹くん……ごめんね……迷惑ばっかり掛けて』


カチャン!

ッピ――――ッ


「――――……」

立ち竦んだまま、瞬きを忘れた。

視界がブレた。

顔面から血の気が引くのに、少し時間を要した。

違うだろ……

お前が俺を……


嘘だろ

俺がお前を……?

この間、アイツは俺と同じ理由で顔を顰めていたっていうことなのか。


ようやく本性を現した今回の思惑。

感情が焼かれていく。

後ろを振り返り、下駄箱の上に置かれた時計を見る。

メグミの部屋に電話する。

繋がらない。

「――――……」

直樹は愕然とその場に膝を落とした。

もう、間に合わない ――――…


膝を抱えて座り込み、動かず数時間。

何度か電話が鳴り、その度に留守電に切り替わる。

それは全て事務所から。


……メグミのことを思った。

どんな気分でいたことだろう。

あの時、俺はちゃんと笑っていれば良かったんだ。

そうすれば伝わっていたはずなんだ。

言葉を選ばなければ良かったんだ。

そうすれば、応えてくれていたはずなんだ。


反省の言葉は、直樹を削ぎ落として行く。

そして何度も何度も繰り返す。


気づくのが遅かった。

間に合わなかった。

鈍間な踵に手を掛けるのは、今回もやはり遅すぎた。


感覚を失くし、時間と時間の間に嵌まり込んでいた直樹を気づかせたのは、

ピンポンピンポン!

急いたように鳴ったチャイムの音。

直樹はメグミが来たのだと決め付ける。

重い腰を上げ、彼女に掛けるべき言葉を模索する。

責任は取るべきだ。

今回のことを反省し、やはり一緒になろう。

……都合が良すぎるか。

直樹はモニターを覗き込むが、誰もいない。

続いてドア穴から外を見ると、琢磨が立っている。

時刻は、今晩の待ち合わせにはまだ早い時間。

……暗証番号知っとるんか、コイツ。

「……何やお前、まだ早いやないか」

そう言いながら、ドアを開ける。

それと同時だった。

いきなりドンッ!と胸を突き飛ばされた。

「!?」

怒りの形相で無言のまま、琢磨は直樹を突き飛ばしながらどんどん部屋の奥へと上がりこむ。

その表情に直樹は驚き、琢磨に押されるままリビングまで後ずさる。

そこで、琢磨は吼えた。

「秋月イィィ――――ッ!!そういえば危なく忘れるところだったわ!!そういやお前、俺にスタンガンくれたんやったのぅ!!すっかり忘れるところやった!!今から返させてもらうで!!」

何が起こったのか分からない。

吊り上がった眦が睨み上げてくる。

……しかしその内、琢磨が何に対して激怒しているのか大体の想像が付き始めた。

「こないだの俺とは一味違うで!!」

「………」

腹が立っているのは俺も一緒なんだよ。

コイツなら丈夫で、それに応えてくれそうだ。

叫んだ琢磨に、直樹は惚けてみせる。

「……何かよう分からんが、本気みたいやな」

直樹は護身のためにいつも壁に立て掛けてある木刀を手に取った。

「まともにやったら負けるからのぅ。コレ、使わせてもらうで」

言うなり、琢磨目掛けてそれを振り回す。

ヒュッ! 

ブンッ!

空を切る音が何度も響く。

カンッ!

木刀の先がテーブルに当たる。

ドスッ!!

壁に穴が空く。

本気で当てようとしているのに、見事にかわされる。

前後左右に体を揺らす琢磨のフットワークは、今まで端で眺めていたそれ以上の軽さに見えた。

おいおい、一発くらい当てさせてくれよ。

振っても突いても、琢磨はその攻撃を全てかわしてみせる。

それどころか、その木刀を取り上げられ、脛でバキッ!とへし折られ、リビングの床に打ち捨てられた。

ガタガタッ!

ゴロン…ッ

「……ッ」

息が上がる。

打つ手ナシか。

やっぱり自分のことは自分でしないとな。

その時、琢磨の前蹴りが腹部に思いっきり入った。

「ふぐッ!うぐウエエェェェッ!!」

直樹は堪らず腹を押さえてしゃがみ込む。

自分の腹に、人と変わらず胃と腸が備わっていることを確認する。

何かが喉まで上がってくるほどの衝撃、痛み。

琢磨の眼光と攻撃は澱みなく、自分に一直線に向けられていた。

コイツが暴れているのは何度も見たが、矛先が自分になるとはな。

……メグミは何て言ってた?

お前はどう思った?

遠慮することはないぞ。

ガツッ!!

琢磨の後ろ回し蹴りが側頭部に命中し、直樹の体は吹っ飛んで壁にぶち当たった。

ドゴンッ!!

「ニイニイな、俺、こないだよぅ、『ドラゴンボール』読破したんや。こっから先やけどな、俺は『クリリンの分だ!』とは言わへんで。クリリンが死んだのは、俺には関係ないからな。その代わり、こっからが一体誰の分か分かるやろ?もっと行かしてもらうで。半分死んでもらうわ!!」

…そう、気を遣うことはない。

自分が受けている衝撃や痛みはまるで他人事のよう。

腹を立てているのはお前だけじゃない。

アイツも俺も、

その憂さを晴らしてくれないか。

倒れている直樹の髪の毛を琢磨が引っ張った。

そこで、顔を上げた直樹の目に入ってきたのは。

「琢磨くんね!もういい!もういいよ!!ありがとう!……ごめんねぇ……!!」


―――― メグミ

……良かねぇだろ。

お前は一体どんな気持ちでいた?

俺と一緒か?


「せやけど」

「ほんまに、もうエエんや」

「………」


本当にもういいのかよ。

俺はまだまだ足りないような気がしてるぞ。

気だけじゃない。

確実に足りない。

メグミ、お前への勘定がまだ清算されていない。


直樹は蹴られた腹を押さえながら、ふらりと立ち上がった。

「ほんまにイッタイのぅ、お前!メチャクチャ強いのぅ、ビックリしたわ。俺、これでも強かったんやけどな、ケンカ」

そうしてメグミに視線を送った。

左目は殴られたダメージで腫れ出しよく見えないが、右目で確かにメグミの姿を確認している。

「……病院は行ってきたんか」

「……うん」

そこへ琢磨が大声で割って入る。

「お前、知っとったんか!!」

俺ら2人の問題にそんなに腹を立ててくれてんのか、お前は。

……ありがとう。

謝罪の方法、全てに応える方法が見付からない。

死んで詫びるか。

……それでも足りねぇな。

「おい、琢磨」

その名を呼んだ瞬間、今にも飛び掛ってきそうだった琢磨が僅かに視線を揺らした。

ようやくコイツの名前を呼ぶことができた。

俺は窮鼠ではないが、ようやくコイツの名前を呼べた。

俺は全てに謝罪を抱え込み、生きるべきなのだろう。

死んで逃げるのは、少し違う。

「お前に殴られるのはもうエエわ。……そっちの部屋にある座布団を2、3枚持って来てくれ」

不思議そうな顔をしながら、すぐに琢磨が動く。

それを確認し、直樹は何台もあるビデオデッキの一つに近寄った。

上蓋を開けると、そこには。

「………」

触った瞬間、ヒヤリとした。

この冷たい感じ、この重さ。

当時、俺はこれを何のために使おうとしたのか思い出してみる。

因果は大きく円を描き、見事に返って来た。

あの時のメッセージ、そのままに。

何かがあった時のために、日頃からメンテナンスを怠らなかったコレ。

ようやく日の目を見ることができた。

お前が持っていたアレとは違うが……

―――― タケシ、ちょっと借りるぞ。

直樹はソファの背に掛けられていたバスタオルを掴み、自分の右手とその拳銃を一緒にぐるぐると巻き付ける。

「……琢磨なぁ、スマンなぁ。お前にこういうホンモノ、見せたらアカンのやけどな。忘れてくれよ?」

そう言い、ソファに腰を下ろし、琢磨が持ってきた2枚の座布団を左足の腿の下に敷く。

「え……何すんねん!?」 

琢磨の声を尻目に、直樹はメグミを見て、言った。

「足1本でエエか?」

「や、やめェ!!やめろ!!」

琢磨が叫ぶ。


―――― …カッチッ!


……もうこれで、走れねぇな、俺は

ちょうどいい


―――― ボスッ!!

     カチッ!

          ボスッ! 

             カチッ 

             ボスッ!!


撃った瞬間、俺の大罪は全てを軽く越えて行く。

反省するには測り知れないほどの時間を要するだろう。

走れないのがちょうどいい。


「……メグミ、これでエエか?」

意識は何とか繋ぎとめた。

メグミはニコッと笑って肯く。

「……うん」


まだまだ時間はかかるが、俺はこのままやって行こうと思う。

今のまま

この状態のまま

次はもっとよく考えて話すよ。

次はもっと自分を犠牲にして、物事をこなして行くよ。

そうすれば、遥か彼方も少し近づくだろう。


直樹は立ち上がる。

「……エエか、もう一回、言うで。お前は俺の、米粒でしかない。二度と言わせるな。分かったら、帰れ」

メグミは停止したように表情を変えず、無言のまま。

「……ニ、ニイニイ!びょ、病院行かな!!病院!!」

「エエんじゃ。血の止め方は知っとるわ」

「でもそのままじゃ…!」

「お前も帰れ。明日11時に迎えに来い」

「でも!!」

「エエから。もう12時や。早よ帰って寝ろ。寝坊すんなよ!」



死ぬわけにはいかない。

……だから、平気だよ。













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