君よ 2
しかし直樹は淡々と喋り始めた穂積の話に聞き入った。
意外と言えば意外。
穂積の得てきたものというのは、直樹にとって決して耳触りの良いものではなかった。
穂積は結婚してからずっと、今も、家庭を顧みることをしていない。
家族に会うのは2~3年に一度あれば良い方。
それは別に他に女性の存在があるわけではなく、ただ仕事にかまけ過ぎ、家に帰ることをしていないのだ。
しかしこれは言い訳だと穂積は言う。
「成金のワシはな、」
そう前置き、過去を振り返り、話を続けた。
長男が生まれた後も、穂積はあまり自分の家族と顔を合わせることはなかった。
「親になる自信がなかった」
穂積はそう洩らす。
全てを誤魔化すように、家族には溢れんばかりの金銭面のみの援助をし続けた。
何年かに一度会う息子は、見る度に誰か分からないほどに成長していく。
その姿が大きくなればなるほど、話をするタイミングが分からなくなった。
ただ穂積も自分の息子が可愛くないわけがなく、彼には良い学校を出て、立派な企業に入ってもらいたかったのだ。
勉強しろ。
勉強しろ。
挨拶もそこそこに、穂積は息子にそればかりを唱えていたらしい。
「勉強して、エエ学校入って、大っきい企業に就職して……。まぁ、これが成金の成す見解の絵ェやな……」
その結果、長男は15歳のときノイローゼになり、自殺し、この世を去った。
ロクに話したこともない父親だと名乗る男に無理難題を吹っ掛けられ、プレッシャーのみを押し付けられ、彼はこの世を去ったのだと穂積は言った。
自殺した長男と10離れた次男、更に2歳離れた長女と、カミさん。
今、この世に存在するこの3人が自分の家族。
そして、長男が死んでからも子どもたちとは会えていない。
また自分が殺してしまうかもしれないと思うと、会うことができない ――――。
「………」
「アンタ、この話聞いてどう思う?」
「知るかバカ!!」
「……そらそうやな。知らんわなぁ」
自分も、勉強しろと言われて育った。
勉強しろ……?
勉強のみしていろと、言われて育った。
それらがそれほど苦にならなかった自分。
この瞬間、あの頃が喉元を過ぎ去って行ったかのように思えた。
自分にそんな事実があったなと、喉元を過ぎて行った遠い残像。
「アンタ、親父さんとキャッチボールとかしたことあるんか」
「キャッチボール!?ねぇよ、そんなの」
「そうか。噂によると、普通はしたことあるらしいで、皆」
「………」
「ワシ、自分の息子がな、誰かに命狙われとるとか、そんな事実があるっちゅーてな、知ってしもうたら動悸が治まらんようになるわ…。もし逆の場合、子どもは親のことをどない思うてくれるんやろなぁ」
「………」
知らない間に走り出していた車。
直樹にとってもお気軽にできる話の内容ではなく、返事にも困ってばかりいる。
口でばかり言ってねぇで、そんなに心配なら子どもに会いに行けばいいじゃねぇか。
そんな風にも思えたが、それができれば苦労はないという答えも直樹は持ち合わせていた。
「………」
「………」
沈黙を交えながら、穂積は話を進めていく。
直樹に伝えたいことがあるのだ。
直樹も穂積の話を黙ったまま聞き続けている。
「さっき襲われたんもな、『秋月』言うて叫んだんが聞こえてないんやったら、襲われたんはワシっちゅーことでも構わへんねん。ただワシの構想でな、アンタがどないかなるっちゅーのは、ワシも顔向けできん場所っちゅーのがあるワケよ」
「………」
「今、目の前におって……近くにおるモンやからなぁ、余所さんの子ぉには目ェ掛けたりもできんねんけどなぁ。アンタも含めて、他の連中もな。せやけどワシの2人の子どもは、ワシを許さんのやろなぁ……」
穂積の話がアッチへコッチへと飛ぶために、また理解しづらくなっていた。
そんな中、一つ気になったことがある。
顔向けができない?
穂積の言った、その言葉。
自分にとって、一体誰に?
「なぁ直樹」
「んん?」
「お前は今の自分の生活をやな、考えて、ご両親恨んだりせぇへんのか。もうちょっとマシな生活、って思わんまでもやな、違う方向があったんちゃうかいうて、お父さんとお母さん、恨んだりせんのか」
直樹はその言葉を聞き、一度視線を窓の外へ移した。
真っ暗になった街中を眺めながら街灯を探して光を見つけ、次の灯りを見つけるその間に頭の中を巡らせる。
否定よりも肯定、そう生きて行ければ、人は素晴らしいように思える。
昔は、大人は間違えない生き物だと、そう自分の中で処理していた。
父親と名乗る人間が、何かを間違うはずがない。
母親と名乗る人間は、周りの子どもに間違ったことを教えない。
そのレベルが至って普通と、決め付けていた。
しかし自分の身が年を重ね、春夏秋冬の流れの早さに気づく年齢になって思うことは、あの時ああすれば良かった、こうすれば良かったと振り返ることばかり。
ただこれまで得たものに関して、俺は自己を否定しない。
失礼だろ。
死んでしまったアイツ。
余所の国で暮らすアイツ。
アイツらに会ったことは、何一つ間違いがない。
「アンタ、何言うてんねん。他の人は知らんよ。ただな、俺に関しては今の俺があるのを親のせいにする考えはカケラもねぇわ。アンタ、俺何歳や思うとんねん。もう20歳超えてんねんぞ、俺。20歳回った人間が、自分の所業を親のせいにできるワケないやろ。そんな考え持ち合わせとったら、とうに死んどるわ」
言っている間に先ほど聞いた穂積の家族関係を思い出し、だんだん腹が立ち始めた。
「親から虐待を受けとったとかなぁ、そういう人間のことを言うてんちゃうんや。これは俺の話よ。俺はこれまでの……これまで出会った人間のためにも、絶対に口に出して自分を否定せんからな。あんまりナメんといてくれるか!」
荒々しくした返事の後、しばらく車の中は静まり返った。
やがて穂積は顔に少しの笑みを浮かべながら、直樹に向かって口を開いた。
「そうか。それやったらワシは心配することないなぁ。明日っからアンタの店、ワシが面倒見といてやるわ。アンタ、2~3日休め」
「ハア!?何やソレ。いらんよ、休みなんか」
「イヤ、エエから休め。お前、明日っから行くトコがあんねん」
何か予定を忘れていたか?
そう思ったが、そんな話はない。
「行くトコってどこよ?」
その問いに、穂積は直樹に目を遣ることなく、実にさらっと返事をした。
「お前の親父さんトコや」
「ッ!!?」
「ワシ、お前のこれまでの事情は全部知っとるでー。それを踏まえて言うとるんや、親父さんトコ行けってなぁ」
「……ッ」
これまで穂積の言った言葉の中で一番驚いた。
一瞬思考が止まり、穂積の横顔を凝視してしまう。
……また、父に会う。
そんな光景はあの時以来、一度たりとも考えたことがなかった。
夢ですら見たことのない、その光景。
自分の中で、ありえない。
人がそれを、許さない。
「……な、何言うてん……じ、事情知っとるんやろ……会えるワケないやん……」
穂積は視線をそのままに、表情も変えることなく応える。
「会えるよ。恨まへんのやろ?それやったら平気やないか。……まぁいろんな心配はせんでエエ。お前も多分、次会うんが親父さんとの最後や」
「ハア?」
「親父さん、病気で死にかけとるぞ」
「!!!」
あえて調べなかったのではなく、自然とそうしていた。
父のこと
慶也のこと
母のこと
それらに興味を示すことなく、あの時以来全てを断絶していた。
もちろん病気のことなど知るはずもなく。
あの人……あの父親が死に近づいているという事実に関して、直樹はしばらく自分の耳を疑う作業をしていた。
直樹は次の日ホテルに篭もり、一日中何もしなかった。
仕事に行こうと着替えてはみたものの、スーツ姿のまま部屋から一歩も出ないでいる。
『ちょっと前にあった大田さんトコもそう、一週間前の、あの~何や、あの雑貨屋もそう。ワシ、アイツらの個人的な問題なんやったら興味ないねん。ただアイツらの息子が、娘が、苦労して大学入った、ほんで親は自分らも苦労して大学行かせとる、そんな姿見たら考えることがあってもエエやないか。世間さんはワシのこと外道や言うんやけどなぁ、外道だって人のこと心配してもエエやんけ』
昨夜の穂積の言葉。
その自分の趣味を、押し付けがましく俺にまで押し付けたってワケか。
幸い俺は苦労なんかしてねぇ。
さぁ、早く仕事に行かないと……
『直樹、1個ワシとアンタのルール決めようやないか。もしまたさっきみたいなことが起こって、今度は間違えてあのタマがワシの脳天ブチ抜いたとしようか。そんなとき、どうしようか?2人にとって有益な方法で決めとこうやないか。
ワシは、アンタに放たれた流れ弾がワシに当たって死んでも恨まんことにしよう。うん、それがエエ。これが逆の場合、アンタは仕返しにワシのこと殺せるか?』
別にアイツの家族構成なぞに興味はない。
2人のルールと言われても、死んじまったら仕返しもできないだろうに。
2人にとって有益なルール……要するに、アンタは俺を裏切らないってことか。
そう解釈していいのか。
理解しづらい中、『ああ』と返事をした。
その返事で良かったのか。
昨夜の会話を思い出しつつ、腰を上げてはまた座り込む。
そんな動作を何度も繰り返している。
気が付けば何も食べず、飲まず。
辺りは暗くなり始めていた。
『ただワシの構想でな、アンタがどないかなるっちゅーのは、ワシも顔向けできん場所っちゅーのがあるワケよ』
顔向けできないって、誰に?
昨夜からその尋問は何度も繰り返されている。
『ワシは一週間前にもう会うて来たぞ。お前の親父さんにな。昔、世話になっとるからな』
父に会った?
あの人がアンタに、息子をよろしくとでも言ったってか。
……ありえねぇな。
心配しなくても、アンタはどの方向へも顔向けができる。
『エエか直樹、必ず行け。これは命令や。この世界におったら親の死に目に会えんっちゅーのはな、ザラなんよ。更にな、さっきみたいな襲われ方しとったら、ドッチが言い出した“これが最後”か分からんくなるわ』
「………」
あの人に、もう二度と会えない。
そんなことは文字通り、大したことではない。
きっとそう。
あの人の教えは、俺の身となり血となった。
人は18歳まで育ててくれたら十分だと思うべきだろう。
後はその身と血を利用して、自分がどう生きるか。
これらはやっぱり感謝の意なんだろうか。
感謝することへの模索。
自分のこの作業に、思わず笑いがこみ上げて来た。
俺は自分のこんなことすら分からねぇのか。
そう考え、しばらくの間自嘲に頬を歪ませる。
穂積からもらった3日間の自由時間。
更に彼は「一月でも二月でも構わない」と付け足した。
穂積の言い分から、父はもうそれほど長くはないのだろうと察せられた。
躊躇と混迷に長いこと考えあぐね、悩み続けた。
結果、自分の中で大したことはないと重ねて言い聞かせ、直樹は自由時間の2日目、ついに新幹線に乗り込んだ。
移動にかかる数時間は眠っていたので、緊張のようなものに苛まれることはなかった。
駅に着き、新幹線を降り、タクシーを降り、見上げた、その建物。
穂積からは病室の番号まで詳しく教えられている。
そして、その他についても。
父があれほど拘っていたあの会社は、もう彼のものではないということ。
敢えて父の会社の情報は耳に入れないようにしていたため、今まで直樹がそれを知ることはなかった。
それから続けて穂積が言った現在の会社の代表の名は、直樹も知る人物。
慶也じゃないのか?
そう問いかけようとしたが、慶也というのが誰なのかを穂積に説明する煩わしさを考えたら、この問いはしない方がいいだろうとグッと息を飲み込んだ。
更に、父が退いたのは引退ではなく、失脚だということ。
事実を知ろうと思えば思いつく手段は何通りかあるが、それもしないでおこうと考える。
自分には関係のないことなのだから。
向こうを出発したのは、昼をとうに回った時間だった。
病院に着いた今、すでに面会時間は過ぎている。
直樹は薄暗い廊下を1人歩いて行く。
でっけェ病院だな。
病院にまで拘りがあるってか。
……アンタらしいよ。
途中何度か巡回する看護婦と擦れ違ったが、何も問題なく通り過ぎた。
穂積に教えられた病室は最上階。
ドアの前に立ち、プレートで名前を確認して、直樹は一拍静止する。
気持ちの整理をつける。
そんなレベルの話ではなく、俺は他に誰かいるんじゃないかという想定に恐れ慄いている。
今から会う1人にすら怯えているのに。
「………」
思い立つのは何度目か。
ノブに手を掛けゆっくりとドアを開けると、部屋の中は真っ暗だった。
直樹は思い切るようにそこへズカズカと入って行く。
大きな窓のカーテン越しに、外から入ってくるぼんやりとした緑色の光。
ベッドの上で横になっている父の姿を、そのネオンが薄っすらと映し出す。
「――――……」
直樹はしばらくの間、その姿をじっと見下ろしていた。
やがて、おもむろに枕元にあるスタンドに手を掛け、スイッチを押す。
蛍光灯の光に浮かんだ父は、直樹の知る凛とした姿勢の彼ではなく、頬骨や喉仏などがくっきりと張り出すほどに痩せ細ってしまっていた。
細いのど。
握って、ちょっと力入れただけで折れそうやな……。
今のこの場合に直樹の使う表現ではないのだろうが、頭の中で走馬灯のように次々と過去がほじくり出されていく。
普通のことや、悪いこと。
が、……良いこともあったはず。
直樹はその良いことを、掻き分け掻き分け一生懸命探している。
しかしその作業の最中に、突然割って入ったのは自分の声。
「ブフッ!!ヒャ――――ッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ!!ハハハハハハッ!!ア―――――ッッハッハッハッハッハッハ!!ヒャッヒャッヒャッ!!ア――――……ッハァ、ハァ、……ハァ……ッ!腹が痛ェ!!
これがアンタの死ぬ間際の理想形か!!笑わせよる!!
アンタはこうなるために、いろんな人間に犠牲を払わしてきたんか!
まるでジャーキーやな!いぶされたってか!
ヘヘッ!これじゃあ草食うて生きてるヤツの服従のポーズやろ。あとは強者に馬乗りになられるだけってか!アンタの思考の真逆やな!笑わせんなよ!!」
その声は、暗く静かな病室に響き渡る。
直樹は激しく笑い飛ばしてなおその場を動くことなく、じっと父の顔を見下ろしていた。
鼻を通るチューブ。
顕わになった腕から伸びる点滴の管。
それに繋がるスタンド。
枕元にある小さな四角形の機械。
直樹の視界はそれらの装置を網羅する。
「………」
このまま見ていてもしょうがないか…。
直樹がそう考え、その場を後にしようとした、その時。
見下ろす父の目蓋がゆっくりと開いた。
直樹はそれを知りながら目を逸らすことなく、その様子を見つめ続けている。
数秒後、父はこちらに気づき、視線を向けてきた。
「………」
直樹は黙ったまま、身動きもしない。
見下ろす先で彼はゆっくりと、上唇と下唇を無理やり剥がすように話し始めた。
「……もう、朝か……カーテンを開けてくれないか……」
どうやら父の目はあまり見えていない様子。
彼は更にゆっくりと直樹に話しかけてきた。
「……どうだ、仕事の方は……うまく、行っているのか」
……俺に視線を遣りながら話しかけてくる、今のこの現実。
それをできるか、そうなるか、という想定はしていたが、答えは出なかった。
直樹は隙間を見つけるように、静かに返事をする。
「はい、とても順調ですよ。お父さんもお加減いかがですか」
それは自分でも思いがけない返事、術だった。
穏やかに穏便に、そうなるはずがないと思っていたのに、実にスムーズに返事をすることができている。
「……そうか、ならいいんだが……お前はまだまだ若い。自信を過信にすることなく、日々精進しなさい。……お前なら、できる」
以前から聞いていた突き放すようなあの叱咤とは違い、包み込むような激励に聞こえた。
病気がこの人を変えたのか。
そう考えながら直樹は返事に困り、どう口を開くべきか逡巡する。
そこへ、その合間へ滑り込むように、直樹に向けられた父の言葉。
「……ところで、慶也……」
この場にいるのは、父と俺の2人。
病気は胃ガンだと聞いている。
ステージ4。
転移も見られ、現在は延命処置を繰り返す日々。
あれほど厳しく、常に姿勢を崩さなかった父が五感を奪われ、話すのがやっとの状態になっている。
確固たる容姿、思想。
病はそれらのほとんどを奪っていったのだと、直樹は理解した。
……俺の仕事の話が気になるわけないよな。
すまねぇ、……勘違いした。
「……慶也、どうした。人に話しかけられたら、まず返事をしなさい……」
「……はい、すみません」
「あの……○○区にある公園跡はどうなった。私の案で間違いなかろう」
「はい、お父さんの仰る通り進めてます」
「そうか、ならいい。……あの国道○○号線の……」
そこからしばらく、彼は仕事の話を直樹にし続けた。
直樹はその父の言葉に、父の望むように、慶也として返事をこなしていく。
「……そうか……じゃあ全て順調だな」
「そうですよ、お父さん。だから早く良くなって、現場に戻ってください。お父さんの存在は社員全員の士気に関わります。また一緒に頑張りましょう」
「……ん、そうだな。お前には立派に会社を継いでもらいたいからな。……まだ教えなきゃならんことが、たくさんある……」
直樹は彼が気づかないであろう顔色・声色を変えないことに努め、今自分ができる精一杯のことをし続ける。
「ほら慶也……私のことはいいから、早く仕事に行きなさい。朝から会社にお前がいないんじゃ、話にならんだろう……早く行きなさい」
「……そうですね。じゃあ、行ってきます」
直樹はそう応えながら、布団の上の父の腕をグッと握った。
痩せ細ってしまったその腕を一度見、そしてもう一度確認したのは、父の瞳に映る自分の姿。
「……お父さん。次もあるでしょうから、まだお礼は言いません。お仕事も結構ですが、ちゃんと治されてからにしてください。無理なさらずに」
「…ん、分かった」
「じゃあ僕は行きますんで。どうかお父さんはお体の方、ご自愛ください」
父はその言葉を聞くか聞かないかのタイミングで目蓋を閉じた。
直樹はその姿を目に焼き付ける。
……大したことないと思ってたけどな。
大層なことだったよ、 ……本当に。
直樹は羽織っていたコートを翻すようにして父に背を向け、病室を出た。
―――― 自分のことは自分でしよう。
そんなことは当然。
その上で、自分に余裕があれば幸せではないか。
それを誰かに還元するという上等な頭にはまだなれないが、その誰かが俺の中では問題なんだろう。
的外れな見解は、なるべくしないようにします。
我侭もそこそこに……
……あの世界にいて、そんなことが儘なるのかな。
世間を気にし、巨大を愛した貴方。
それらは貫通できましたか。
もしできたのであれば、それらはちゃんと貴方を幸せにしましたか。――――
直樹の父はこの一週間後、この世を去る。
―――― 貴方の言動は俺を大きく奮い立たせ、時には地に這い蹲らせた。
あの頃の貴方は、俺にとって全てでした。
お父さん。
今後はどうか、ゆっくりなさってください。
貴方はよく頑張りました。
本当に、ありがとうございました。 ――――




