君よ 1
直樹は穂積に申し出ていた。
以前自分に紹介してくれた工場をもう一度紹介してくれないか、と。
それに対して穂積は、
「まぁそこまでせんでも……っちゅーか、」
そして続けて、こちらにある自分の店はちゃんと自分で経営しろと直樹に言い渡した。
それから、
「そうなると、工場で働いてる時間はないやろ」
と足して、更にもう一つ言い加えた。
「もしアンタが忙しいてもうかなわんわ、怠けたい、放り投げたい、そう思うたらな、それを実行しよう思うた手前で、アンタが望もうが望むまいがソコで終われ。死ね」
その言葉を聞いて、まだまだ自分にやる気があることを知った。
直樹は穂積の居る場所に入り浸りながら、自分の店の経営を進めていく。
そんな毎日が続いている。
―――― アイツは、やはりと言うべきだろう。とんでもない変わり者だ。
惜しげもなくビルを購入したかと思うと、会社にあるティッシュの使用は一度に2枚だけなどというルールを決めている。
あの日、アイツが表した『ワシは一度握ったモノは犬の糞でも離さない』というのは、ただの漠然とした形容ではなく、本気としか思えない。
きっと持ち帰って、畑にでも撒くのだろう。
俺の乗った船は恐らく悠々と世界各国を回れるほどの丈夫な体でできているのだろうが、外装は迷彩色。
海の上での迷彩色は、目立ってしょうがないだろうに。
自分でも何を書いているのか分からないが、それほどあのオッサンは変わり者で、形容し難い、そんな存在なんだ。――――
この日も昼間から、直樹は穂積に同行していた。
ここはとあるビルの屋上。
フェンスの向こうで、震えながらビルの下を覗き込んでいる男が1人。
その後ろに、穂積と直樹は立っている。
「アカンアカン。飛び降りはアカンのやでェ。アンタが死ぬんは自由やけどな、下の人に当たってしもうたらどないするんや。その場合、高い確率でやなぁ、アンタは助かって、下敷きになったモンが死んでまうんや。その下敷きになったのが前途の明るい少女・少年やったらアンタどないするんや。そんなことになったらアンタのおる地獄ですら迎えの人が来るぞー」
今まさにこのビルから飛び降りようとしている人間に向けた、穂積のソレ。
説得とも、その後の報告とも取れる穂積のその言葉を、直樹は傍で聞いていた。
男はガタガタと震えながら、半分腰砕けでフェンスにしがみついている。
手前には綺麗に揃えられた靴と遺書。
穂積がその遺書をスッと拾い上げ、その場で広げた。
「ほいで、何やこの遺書。字は違うとるしや、サインなんかはみ出したあるやないか。こんな遺書、認められへんぞ。無効や。書き直せ」
すると男はこちらを振り返り、その場に崩れるように座り込んだ。
直樹はそのタイミングを見計らい、男に近づき抱きかかえるようにしてフェンスから引き剥がす。
「おー、何やー?コレ、書き直す気になったんか」
男はガチガチと歯を鳴らしながら、満面の笑みの穂積を見上げる。
「あんなぁ大田さん。自殺したモンに保険なんざ簡単におりへんぞ。死ぬんは最後や。相談に乗ったらんこともないでー。それともこの遺書、書き直すんか」
その場で這いずったまま震えの止まらないその男は、穂積に向けて大きく首を横に振った。
「そうかぁ。まだまだ生きる気マンマンやなー。マジやな、大田さん」
この大田という男は、ある会社の社長。
製造業を営んでいたが、資金繰りがうまく行かず、手を出したサイドビジネスで更に負債を抱えることになり、会社はもちろん自身も火の車となっていた。
会社を立ち上げる際、この男は穂積からも融資を受けている。
その額は小さかったため穂積への返済は全て済ませているのだが、それ以降も2人の親交は続いていた。
何とか落ち着きを取り戻した大田と共に、3人はその場から移動を始める。
直樹は見たかった。
あらゆる場合の穂積の行動を。
俺ならこう考える。
コイツが死んでしまったら、返って来るものも返って来ない。
返済が全て済んでいようが、まだ会社の社長に籍を置いているこの男にはうまみが残っている。
この男を絞りカスにしてしまうかどうかは別として、まだまだ利用する価値がある。
穂積はこの男をどうするつもりなのか?
更に底に這い蹲らせるつもりなのか?
直樹はそんな腹づもりで、この日も穂積に同行していた。
3人は、このビルにある大田の事務所へと向かった。
道すがら大田は独り言のようにぼそぼそと、今回の件に至る経緯を話していた。
2人はそれを返事もなく聞いている。
事務所に入ると、大田はすぐにお茶を淹れ始めた。
部屋の中をウロウロと歩き回る穂積を目の端に映しながら、直樹はソファに座り、テーブルの上に置かれていた負債に関する書類に目を通す。
……なるほど、闇金か。
同業者ね。
こんな書類、認められるワケはないが、あの手この手で責め立てられている。
「……この○○金融ってとっから700万ですか」
その直樹の問いに、大田は手を止めることなく、
「……そうなんですわ。借りた時ゃぁ200万だったのに、いつの間にかこがいな金額になってしもうて……。しかも別件で△△金融いうトコで、ワシが知らん間にワシの名前で連帯保証人になっとる言うて、更に300万取り立てに来たんですわ」
「ハア?連帯保証人?サインした覚えは?」
「……それが、資金回して行くのにアッチでもコッチでもサインしたから、よう覚えてへんのですわ。300万の連帯保証人になった覚えはないんやけどね……」
「………」
ここで、窓の外を眺めていた穂積がパン!と一つ手を叩いた。
「これから寒うなるのに、家ないんじゃぁ困るなぁ。ヨメさんと子ども、公園で寝させるつもりはないんやろー?」
お茶を運んで来た大田は項垂れるようにソファに座り込み、俯く。
「……家族を路頭に迷わすくらいやったら、死んでどないかならんかなぁ思いましてな……」
それを聞き、穂積もこちらへ来てソファに腰を掛けた。
「まー、アンタが死ぬんは勝手やけどなぁ。アンタんトコのヨメはんと息子と娘か。アンタが死んでもうても助からへんわ、こらぁ」
そう言いながら穂積も書類を取り上げ目を通し、そして、
「……この○○金融と△△金融、こらぁグルやな」
その穂積の言葉に、大田は驚いたように顔を上げた。
「この○○金融がアンタんトコに火ィ点けて、広がってく炎にどうしようものうてアタフタしとるアンタに、あっちゃにもこっちゃにもサインさせてや。その中でドサクサに紛れた火事場泥棒が、この△△金融や。グルッと行かれとるやないか」
「………」
しばらく沈黙が流れた。
直樹はじっと穂積を見ている。
このまま放ったらかしにして「帰る」と言い出すのもコイツらしいし、更につけ込むのもコイツらしい。
……ひょっとして助けるか?
穴はたくさんある。
やがて、穂積が直樹に話しかけてきた。
「直樹、アンタにええアイデアないか?アンタはええアイデア持っとるとワシは睨んどるでー」
「………」
穂積の狙いは分からない。
この○○・△△金融。
同業者というのであれば、助ける方法もある。
更に言うと、自分たちもうまみを吸い取る方法もある。
……コイツは一体何を求めている?
そう思いつつ、答えを出すのにそんなに時間はかからなかった。
考えの至ったところ。どちらの方向に進むにしろまずはこの方法がいいだろうと、直樹は口を開く。
「社長さん、計画倒産はどうや」
「計画倒産?」
「この会社に残ってる品物、いろんな備品、これら売っ払ったら大体何ぼになりますの」
「……まぁ、備品なんてのはボロボロのモンばっかりやし、多く見積もったら600万……」
「あのな。この期に及んで何で多く見積もんねん。どこまで寝惚けとるんや。大体を多く見積もんなよ」
「あ、ハイ……じゃあ400万くらいですかいのぅ」
「400万か」
ここで直樹は提案した。
この大田の会社の資金400万、これを使っての計画倒産。
まず我々も架空の負債を抱えたことにする。
向こうが1000万なら、こちらも1000万というのが妥当なところだろう。
債権者集会を開くという通知を向こうに送り、我々もその場に同席する。
簡単に見積もると全財産400万のうち200万の支払いで済み、借りた額分は返せることになる。
以前にも自分が経験した、この手法。
大田は直樹の話を、黙って俯いたまま聞いていた。
「でもまぁ、問題は公正証書やら契約書やなぁ。ウチからアンタんトコに金が行ったっていう証拠が要るからなぁ…」
そこで、穂積がまたパン!と一つ手を叩いた。
「グッドアイディーアやなぁ。ソレで行くぞ」
「………」
「そうなったら向こうに怪しまれんように、ワシとこのグループの人間にも借金しとるいうことにしようやないか。そうやったら払うゼニはもうちょっと小そうなるでー。
直樹、帰ったらウチの関係してるグループへ片っ端から債権者集会の通知を形だけでも送っとけ。手筈はワシがするからなー」
「じゃあどうする?一回アンタの金、社長さんの口座へ振り込んで……あ、そうか。そうすると日付を怪しまれるなぁ…」
ブツブツと直樹が悩んでいるところへ、穂積がさらりと返事をした。
「そんなモンいらへんやん。1000万、手渡ししたことにしたらエエやろ」
「ハア!?1000万手渡し!?……じゃあ、ちゃんとした契約書は」
「そんなモン、何とでもなるわな」
「イヤ、ちゃんとやらんと、この金融屋が偽装や言うて騒ぐで」
その反論に、穂積は笑いながら応えた。
「ハハッ!騒がしたらエエやないか。その段階まで行ってもうたらこのケンカ、ワシのモンになっとるんやでー?捻じ伏せたらエエんちゃうん。直樹もそう思うやろ?」
「………」
その時、それまで黙っていた大田が慌てながら口を挟んだ。
「ちょ、ちょっと待ってください!ソレって犯罪ちゃいますの!?ヤバイこととちゃいますの!!」
それに対して、穂積は笑顔のまま、
「そうや。犯罪や。別にエエやん」
「別にエエやんって……そがいなこと……」
すると穂積は席を立ち、大田を見下ろした。
「大田さん、アンタ死ぬ覚悟はあったんやろが。もし今回のコレ、こじれたところで、しばらくの間冷やくいメシ食うて来るだけや。それくらいのこと、何も怖ないやろー。息子さんは大学生、娘さんが高校生か。失敗したところで、寒いんが身に沁みるだけやないか」
そうして、穂積は大田の肩をぽんと叩く。
「ま、ワシャぁ別にエエんやで。言うてしもうたら関係ないことやからな。せやけどここでアンタがどう動くかで、子どもらに親としての顔見せられるか見せられんか、決まるんやでー」
「………」
「ま、決めるんはアンタや。今日はワシら、もう帰らせてもらうけどな。もうワシらから出向いて来ることはないから。チャンスは自分で見つけなアカンのやでー。直樹、行こか」
直樹もソファから立ち上がり、先を歩いて穂積のためにドアを開ける。
その穂積が部屋を一歩出たところで、大田がすくっと立ち上がった。
「…ちょっと待ってくださいや」
穂積が振り返るのを確認し、大田が続ける。
「……ほんまに、上手う行きますんかいな」
「そらぁ知らん」
「もうコレしかないんですわな……」
「ワシ、それも知らん」
「穂積さん、アンタの望むような謝礼ができるか分かりませんけどな、今の話、お願いできますやろか」
穂積は、今度は体ごと大田を振り返った。
「おぉ―…、お父さん格好つけとるなぁ。エエでェ。面白そうやし」
大田は深く、穂積に向かって頭を下げる。
「そやけどワシ、冷やくいメシ嫌やから、捕まるときはアンタ一人で頼むでー」
笑顔でそう言った穂積を見て、大田はそのまま2人が出て行くまで頭を下げ続けていた。
廊下を歩きながら、穂積が口を開く。
「なぁ、どうや。エエことした後は気分が晴れやかやろー。アンタもそう思うやろー」
「イヤイヤ、まだ終わってへんやんけ。始まってもない。アンタ、コレほんまに大丈夫なんか?」
「まーアンタ、直樹くんはアレやなぁ。おっちょこちょいの心配性やなぁ」
「おっちょこちょいって……おっちょこちょい関係ないやろ、今!今から書類作るってなったら大変やぞ」
「コピーでエエよ」
「コピー!?」
「あー、もう!おっちょこちょいで心配性のアンタはもう何も言わんでエエ。ワシに全部任せとけ。今、ワシは気分がエエんや。何かあっても捻り潰したるよ」
「………」
ずっと笑顔の穂積を見ながら何となく、コイツは何の他意もなくあの社長を助けるつもりや、とそう思った。
「家族を持ったらな、コレ守らなアカンっちゅーてな。これは決まりなんや。お父さんもお母さんも関係ないで。親になったらそれが決まりなんや」
それを聞き、自分もできるだけ手伝おう、直樹はそう考えた。
このような出来事は、その後も何度かあった。
その度に起こるトラブルを、穂積は半ば力づくで捻じ伏せて行く。
大田の件に関して言えば、あの○○・△△金融は、全て穂積が描いた絵であることを知りながら、泣き寝入りする以外になかった。
直樹は穂積の傍に付き、その姿を何度も目の当たりにしていったのだ。
―――― 昨日あったことを誰かに話すという行為から離れて久しい。
これといって話すことがないのも本当のところなのだが。
肩の荷が下りたと表してしまったら、とても厚かましく感じる。
あれらは全て、俺が勝手に思い描いていたことなのだから。
『我がないのが我』と言われたことから、少し自分のことを知ったような気がする。
崇拝しないまでも、俺はいつしか誰かに依存することによって、その先を決めてきている。
自分が可愛くて仕方がないということも引っくるめて、人に依存してばかりなんだ。
現に今も、あの穂積が一体どういうヤツなのか、本性がどうのとか、見ている全てが本性なのか、それらを知るために多くの時間を費やしている。
アンタ
オッサン
ヤツをそう呼びながら、呼び名の固定すらままならないでいる人間に対し、時間を費やす。
これは無駄なことなのか。
自分でも分からない。
何せ俺は、自分が何が好きで何が嫌いなのかすら、よく分からないのだから。
自分の中の一番を決める行為は、本当に難しい。――――
直樹はその後も、自分の店を経営しながら毎日穂積と行動を共にしていた。
仕事で外出する際、穂積には必ずボディガードの男が3人ついている。
穂積の隣を歩く直樹と、常に穂積を取り囲むようにして歩く3人のボディガード。
1人加わったその隊列を、穂積は最初から煙たがることもなく、直樹もいつしかそれが普通のことのように感じるようになっていた。
その日、2人は遅めの夕食を終え、いつものようにボディガードに囲まれて歩いていた。
「おいこらオッサン!!アンタ、いつも財布パンパンやないか!たまには出してくれてもエエやろ!しかもアレ、オノレの店やないか!」
「オノレってお前……メシ食わしてもろうた人間に対して口の利き方知らんな!」
「入る前に俺、今日持ち合わせない言うたやないか!」
「そんなモン知らんわい!ちゃんと焼きソバ食うたやろ。イカとか貝とか上等なモンいっぱい入っとったやないか」
「そやけどオノレ、焼きソバしか食うてないヤツ目の前にしたら、ちょっとは気ィ遣うやろ!オノレ1人でテーブルくるくる回していっぱいいっぱい食いやがって!シュウマイやら唐揚やら!1個くらいくれよ!!っちゅーか、たまには奢れや!!」
「あーあーあーあーあー!!」
穂積は子どものように耳を押さえながら、大声で喚く。
「聞こえん聞こえん、なーんも聞こえん!っちゅーかアンタ、どなたですの!?何でワシがヨソの子にメシ奢らなアカンのや!」
「…チッ!!」
……やっぱり掴めん。
ケチのくせに豪快なヤツなんか、見たことがない。
やるこたぁデカイが、心は小さい!
何なんだコイツ!!
5人が歩くのは、夜中のアーケード街。
駐車場へのその道のりを、2人で大声を張り上げながら歩いている。
そんな時だった。
ボディガードの2人が、突然穂積と直樹の前に立ちはだかった。
その行動に驚きながら何が起こったのか理解できず、直樹は2人の頭の間から前方を覗き込む。
アーケード街は既にほぼ全ての店が閉まっている時間帯。
通りを照らす僅かな街灯の光の下、直樹が見たのはこちらに向けて銃を構えた1人の男の姿だった。
直樹は咄嗟に、
「ヤベェ!!オッサンかがめェ!!」
そう叫び、穂積を押さえつけてその上に覆い被さった。
直後、静かなアーケード街に、
「秋月イィ――――ッ!!!」
それから、
パンッ!!
パンッ!ッパンッ!!
3回、乾いた音が響き渡る。
同時に、直樹のすぐ傍でアスファルトの割れる音。
飛び散る破片。
しかし幸い弾は誰にも当たらず、男は慌てて通りの横に伸びる路地へ逃げ込んで行く。
それを、1人のボディガードが追いかける。
「………」
あっという間の出来事だった。
平常心を取り戻すまで、少し時間を要した。
直樹は穂積に覆い被さったまま、自分の中の動悸を感じている。
「……ッ直樹、重たい重たい!もうエエって。どいてくれや」
その声を聞いてハッと我に返り、立ち上がった。
「……こんなことって、やっぱりしょっちゅうあるんかいな、オッサン」
「ああ?ん――――……まぁ昔はな。最近はあんまりなかったんやけどなぁ」
「なぁオッサン、ボディガード3人じゃ足らへんのちゃうん?俺もボディガードみたいになろうか?」
「何言うとんねん。お前にそんなことできるワケないやろ」
「そやけどアンタ、命狙われてるんやろ?」
「んん~……まぁ、みたいやな……んん?……まぁ何でもエエわ、早よ車行こ。他にもおるかもしれん」
ボディガード2人が、穂積の背中を押すように先を急ごうとする。
が、穂積は突然それを制し、立ち止まった。
「……ちょっと待てェ。んん――――……今のヤツ、タマ撃つ前に『秋月』言わなんだか?」
「……え?」
穂積はボディガード2人に向かって尋ねた。
「秋月って言うたやんなぁ?」
「あ、はぁ……そういえば……確かに……」
「っちゅーか直樹、狙われとるのお前やないか!」
「え・えぇ~~~~ッ!!?う・嘘やーん!!」
「………」
「………」
「……まったく……」
「………」
「女関係か?」
「ちゃうわ!!……イヤ……うーん……」
「金銭トラブルか」
「………」
身に覚えがありすぎる。
女関係か、金のことか…
「恨みに心当たりがありすぎるってか。まったく……そんなんやったらお前、危のうて目ェ離されへんやろが」
そして穂積は、残っているボディガードのうちの1人に指示を出した。
「今のんがドコのモンか必ず突き止めてくれ。頼むで」
「はい」
返事をして、そのボディガードも走り去る。
立ち止まった3人、その隅で直樹は項垂れた。
自分のせいで穂積が危険な目に遭った、と。
やがて無言のまま歩き出した穂積の後を追うように、直樹もとぼとぼとついて行く。
……目も合わせてくれない。
そのまま会話もなく駐車場に着き、ボディガードは運転席へ、穂積と直樹は後部座席へと乗り込んだ。
謝らなければいけない、そう思うが、何と言っていいのやら。
そんなことを考えながら何も言えずにいると、穂積の方から声を掛けてきた。
「ワシなぁ、家族がおんねん。ヨメはんとな、子どもが3人や」
穂積の年齢を考えれば家族がいて当然なのだが、日頃の生活を見ているとこの男のプライベートというものは一切見えて来ず、家族がいるということ自体意外に思えた。
そして何より、何故このタイミングでその話なのか。
「まー、子ども3人っちゅーてもな、1人は死んでしもうたんやけどな。アンタと同じくらいかなぁ、生きとったら。…彼はな、ワシが殺したんや」
「………」
この場でのタイミングも助け、穂積が何を言っているのか理解できなかった。




