1-⑨
ようやくここまで戻ってくることが出来たと、アイオは安堵した。
「それでは、第2回、『アンデル』説明会を開始する。しかと聞くがいい」
先ほどとは違い、アイオとアオイは隣に座り、その反対側にドルシラが座るという構図だ。
ドルシラの言葉に、2人は背筋を改める。
「とは言ったが、お前たちが何を知らなくて、何を知っているのかも知らない。それに、『アンデル』については、あたしたちもまだ知らないことばかりだから、完璧な説明はできない。」
「俺は一ミリも知らないな。想像もつかない」
「私が知っているのは、大まかな情報だけですね。『アンデル』の情勢や、思惑などはほとんど知りません」
ドルシラの説明が円滑に進むように、各々が疑問に答える。
アオイは『アンデル』のことにそもそも興味がなかったので、もちろん何も知らない。
それに比べて知識にすこぶる強いアイオは、さすがにアオイよりかは詳しいが、それでも、実際に『アンデル』に潜った経験はないので、文字通り、その情勢などの情報はほとんど知らない。
「まずはクソ基本的なことからだ。今の『アンデル』は十三の国で構成されている。『グレーテン』、『エヴィへット』、『アミスター』、『シラホシ』、『ガルドワ』、『タロイト』、『カルトンケイト』、『ミルキハウス』、『ハタラナ』、『アルテール』、『リスナタール』、『ユラタン』、あとは……、『クリア』」
「1つも聞いたことがないが、かなり多いな」
「『クリア』……」
能天気なことを言っているアオイとは反対に、アイオが意味深にそう呟く。
「どうしたんだ?」
「私の情報には、『クリア』という国は存在しません。『アンデル』は十二国しかないはずです。ドルシラ、『クリア』という国ができたのは最近のことでしょうか?」
「お前でも知らないか……。新しい国ができたという話ではない。その存在がある人物によって確認されたんだ。だが、どんな場所なのかも、どこにあるのかも、本当に存在するのかもわからない。未開の『透明な国』、それが『クリア』だ」
ドルシラの口から、その正体が明かされる。とはいったものの、何もわからないというのが結論だ。アイオはいまだ、怪訝な顔をしている。
「『透明な国』か。そんなあるかもわからない国なんて放っておけばいいんじゃないのか?」
「そうにもいかないのが、『クリア』の厄介なところだ。数年前から、『クリア』からの使徒と名乗る者が現れるようになった。あたしらはあいつらを『囚徒』と呼んでる。奴らは何処からともなく湧き出て、様々な悪事を働き、どこかに消える。居場所も、住処も、目的も、いつ来るのかもわかんねぇから、対処しようがねぇんだ。放っておけないだろ?」
「なんだよその通り魔みたいなやつら。あ!もしかしてあのトカゲみたいなバケモンもその『囚徒』か?」
「トカゲ?現状確認されている『囚徒』は全員人型だから、そいつはたぶん別物だ」
「そうか。すまない関係ない話をして」
全く見当違いな意見だったことを、アオイは謝罪をする。
「まぁ大体知っておけばいいことはこんなもんだ。あとはてめぇで行けば分かるだろ。まあとにかく、生きて帰りたいのなら『囚徒』には気をつけろ。あいつらは災害だ。おまえらみてぇな弱ぇ奴は逃げるしか生き延びる方法はない」
そう言い、後ろに倒れこむように椅子に座ったドルシラ。説明はこれで以上だということだろう。
まだ疑問も、聞きたいことも山ほどあるが、言い出したらきりがないのでここでとどまることにした。
それにしても、『囚徒』か。
あの傲慢で自信過剰なドルシラがここまで言うということは、とんでもなく危険な集団なのだろう。
とはいったものの、アオイはその謎の集団について半信半疑だ。もっというと『クリア』という国があることを信じていない。
どうせその『囚徒』とかいう輩も、注目されたいがために、うまく広まった噂に肖った連中なのだろう。
「貴重な情報をありがとうございました。今からすぐに、『アンデル』へ案内してくれるのですか?」
「さっき、あたしは今、待機組だって言ったろ?勝手に飛び指して、どやされちまうのは勘弁だ。たぶんもうすぐ仲間の一人が地上に帰ってくるはずだ。そいつとあたしが交代だから、行くのはそれからだ」
「それまでこの城でゆっくりしてていいのか?ありがとう!」
「まだ何も言ってねぇだろ!まぁ好きにしろ。体を休めておくのも準備の1つだ。
あたしはもう寝る。お前らも、適当なとこ探して勝手に寝てろ。それじゃあな」
そう言ってドルシラはあくびをしながら出て行ってしまった。
「お言葉に甘えて、俺たちも寝させてもらうか」
「そうですね。とりあえず部屋を探しましょうか」
「ベットがある部屋にしよう!念願のベットがある部屋に!」
「そうですね。私はどの部屋でも構いません」
「同じ部屋でいいんじゃないのか?さすがに何部屋も使うのは申し訳ないだろ」
「……ではそうしましょう」
廊下を歩きながらの会話は場内によく響く。




