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1-⑧

 アイオは一人、円卓に残された。


 仲良くなったかと思えば、なぜか急に徒競走を始めた二人の人間を見送り、アイオは改めて自分には理解できないと感じた。

 

 人間と、アイオのような機械の決定的な差は合理性だ。

 行きたい場所には一直線で行くのが最適だが、人間はそうしない。当然のように回り道をするし、目的地と逆の方向に進むことだってある。


 それがアイオには理解しがたく、羨ましい。


 だが、プログラムには抗えない。

 全自動型の機械なので、一応自分で考えて動くことが出来るし、やろうと思えばどんな行動だってとれる。

 だが、常に最適解が頭に浮かぶプログラムを施されており、今までそれに背いたことは三度しかない。

 

 先ほどのやり取りなんて、合理性の欠片もない。同盟を組むのに、涙も握手も必要ないはずだ。同盟とは利害の一致によって生まれるものであって、この同盟にはそれがない。


 アオイも、アイオも地上の文明の修復なんて別にどうでもいい。アオイの目的は知らないが、アイオにも明確な成し遂げないといけないもくてきがある。それに、仲間になったところでまともな戦力になるかはわからない。

 ただ目の前の少女の言葉に感化されて、ドルシラもまたそれに感化されたという衝動的な同盟だ。


 二人はもちろんそれに納得しているし、アイオもアオイの傍を離れるわけにはいかない。


「はぁ」


 このため息も意図的に出したものだ。


 すると、どこかから大きな音が聞こえてきた。



 ——まずい。


 ドルシラのことはどうでもいいが、アオイは死なせてはならない。

 

 即座に席を立ち、音の発生源に向かって走る。今出せる最高速度で向かうと、着いたのは木のドアだった。


 考えられる最悪の状況を想定して、戦闘態勢をとる。



 ドアを蹴り開けた。




「……」


 想定していた中で最もくだらない状況だった。

 ドルシラが泡を吹いて倒れているアオイを、頬を赤らめながら興味津々そうにまじまじと観察している。改めて、ため息が漏れた。


「……何をなさっているのですか?」


「ひょあっ!」


 驚いて素っ頓狂な声を出しながら、後ずさるドルシラに、さらにもう一度ため息が出る。

 ドルシラから異常な心拍数の向上を感知した。


 ドルシラの実年齢は分からないが、性に興味を持つのは悪い事でないし、この誰もいない地上ではなおさらそうなってしまうも無理はない。

 ここで、ドルシラを問い詰めて赤っ恥を書かせることもできるが、大人であるアイオは、そんなことはしない。


「きゅ、急にぶっ倒れたんだ。やけに長風呂だなと思って心配して見に来たら、このざまだった。本当だ。今も、心配して見ていただけで……。けっ、決してやましい気持ちはない!」


 今言い訳を考えたのだろう。話に整合性がない。

 だが、今すべきことはアオイを介抱することだ。膝を抱えながら湯船に飛び込んでいったドルシラのことは置いておき、アオイを抱えて安全な場所へ連れていく。


 その後は服を着せ、適切な処置を施した。この調子ではあと数分で目を覚ますだろう。


 ドルシラから直接話は聞いていないが、アオイの首に手の跡があったので原因は一目瞭然だった。あの様子から察するに、痴話喧嘩の結果だろう。


 アイオはいち早く、地底のことについて聞こうと考えているのだが、そうもさせてもらえない。人間の小守人、円卓に残された。


 仲良くなったかと思えば、なぜか急に徒競走を始めた二人の人間を見送り、アイオは改めて自分には理解できないと感じた。

 

 人間と、アイオのような機械の決定的な差は合理性だ。

 行きたい場所には一直線で行くのが最適だが、人間はそうしない。当然のように回り道をするし、目的地と逆の方向に進むことだってある。


 それがアイオには理解しがたく、羨ましい。


 だが、プログラムには抗えない。

 全自動型の機械なので、一応自分で考えて動くことが出来るし、やろうと思えばどんな行動だってとれる。

 だが、常に最適解が頭に浮かぶプログラムを施されており、今までそれに背いたことは三度しかない。

 

 先ほどのやり取りなんて、合理性の欠片もない。同盟を組むのに、涙も握手も必要ないはずだ。同盟とは利害の一致によって生まれるものであって、この同盟にはそれがない。


 アオイも、アイオも地上の文明の修復なんて別にどうでもいい。アオイの目的は知らないが、アイオにも明確な成し遂げないといけないもくてきがある。それに、仲間になったところでまともな戦力になるかはわからない。

 ただ目の前の少女の言葉に感化されて、ドルシラもまたそれに感化されたという衝動的な同盟だ。


 二人はもちろんそれに納得しているし、アイオもアオイの傍を離れるわけにはいかない。


「はぁ」


 このため息も意図的に出したものだ。


 すると、どこかから大きな音が聞こえてきた。



 ——まずい。


 ドルシラのことはどうでもいいが、アオイは死なせてはならない。

 

 即座に席を立ち、音の発生源に向かって走る。今出せる最高速度で向かうと、着いたのは木のドアだった。


 考えられる最悪の状況を想定して、戦闘態勢をとる。



 ドアを蹴り開けた。




「……」


 想定していた中で最もくだらない状況だった。

 ドルシラが泡を吹いて倒れているアオイを、頬を赤らめながら興味津々そうにまじまじと観察している。改めて、ため息が漏れた。


「……何をなさっているのですか?」


「ひょあっ!」


 驚いて素っ頓狂な声を出しながら、後ずさるドルシラに、さらにもう一度ため息が出る。

 ドルシラから異常な心拍数の向上を感知した。


 ドルシラの実年齢は分からないが、性に興味を持つのは悪い事でないし、この誰もいない地上ではなおさらそうなってしまうも無理はない。

 ここで、ドルシラを問い詰めて赤っ恥を書かせることもできるが、大人であるアイオは、そんなことはしない。


「きゅ、急にぶっ倒れたんだ。やけに長風呂だなと思って心配して見に来たら、このざまだった。本当だ。今も、心配して見ていただけで……。けっ、決してやましい気持ちはない!」


 今言い訳を考えたのだろう。話に整合性がない。

 だが、今すべきことはアオイを介抱することだ。膝を抱えながら湯船に飛び込んでいったドルシラのことは置いておき、アオイを抱えて安全な場所へ連れていく。


 その後は服を着せ、適切な処置を施し、今は寝かしている。この調子ではあと数分で目を覚ますだろう。


 ドルシラから直接話は聞いていないが、アオイの首に手の跡があったので原因は一目瞭然だった。あの様子から察するに、痴話喧嘩の結果だろう。


 アイオはいち早く、地底のことについて聞こうと考えているのだが、そうもさせてもらえない。人間の子守りも大変だなと、そんなことを考えていると、後ろからドルシラがトコトコとやってきた。


「ドルシラ様、この方はあなたのように丈夫ではありません。あなたの気まぐれで、簡単に死んでしまうような弱い生物です。今後も関わっていくなら十分に気を付けてください。」


「なんで、弱ぇやつに配慮しなきゃなんねぇんだよ。気を付けるのはこいつの方だ。今回も悪いのはこいつだった!」


「では、同盟の件は取り止めにいたしましょう。私は正直地底のことにあまり興味がありません。先ほどは口をはさむ機会がありませんでしたが、あなたの行動で彼が危険に及ぶのであれば、先ほどの契りは私の権限により、取り消します。」


 半分冗談で、半分本気だ。 無論、同盟を取りやめにする気は更々ない。地底の物が、現状地上の敵である可能性が高い以上、仲間は多い方がいいに決まっている。

 だからこそこの脅しは、ドルシラの危険な攻撃性の抑制のためのものだ。アイオの見立てによれば、ドルシラはアオイのことをかなり気に入っているので、この脅しは有効なはずだ。



「どこだ?ここは」


 ドルシラの返答を聞く前に、アオイが起き上がってしまった。まだ、頭が痛いのか、後頭部を押さえている。


「おはようございます。アイオ。体の調子はどうですか?」


「え、あぁ。頭が少し痛いな。ていうか、俺なんで倒れたんだっけ?気持ちよく風呂に入ってたはずじゃ……」


 まだアオイの記憶は曖昧なようだ。その横には鬼の形相をした少女が……、


 「いけませ……」

 

 座っていた椅子を投げ飛ばし、少年の顔に向け、その鋼鉄の拳を振るい……、


「は?」


 少年を襲わなかった。

 少年の顔は無傷。間違いなく少年を目掛けて振るわれた拳は、眼前で止まり、威力を失った。



 ——その後、いつもの二人の口喧嘩が始まったものの、ドルシラの拳がアオイに届くことはなかった。

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