1-⑦
服を脱ぎながら、人生最大のガッツポーズを炸裂させた。
右往左往に飛び跳ねながら、子供の用に腕をぶんぶんと振る。
アオイの挑発にドルシラが乗ってきた時点で勝負は決まっていた。あの時点で、ドルシラがグーを出してくる確信があり、一転の迷いもなくパーを出した。
案の定、ドルシラはグーを出したので、今に至る。
更衣室に、きれいに積まれてあった手触りのいいタオルを一枚拝借して浴室のドアを開ける。
想像のはるか上を行く大浴場だった。
広々とした空間には、大理石の巨大な柱が湯船を囲むように対称に刺さっており、風呂に感じるはずのない神聖さが感じられる。
こんな場所を一人で満喫できるなんて、なんという幸福だろう。
アオイは風呂というものに入ったことがない。家すらないのだから当然ともいえる。体を洗いたいときは川か湖で事を済ますし、トイレはその辺の草むらだ。
そんなアオイにとっては文字通り夢のような空間。それが風呂というものだ。
ドーナツ型の大きな湯船に豪快に飛び込む。
人生で初めての暖かい水に浸かるという経験はアオイの想像以上の物だった。
体を優しく包み込む湯水は体をほぐし、思わず全身の力が抜けてしまった。框に頭を置き、天井と対峙する。これも意図したことではない。力の抜けた体が勝手に顎を浮かしたのだ。暖かく光る絢爛な照明が目に入る。その美しさに思わず、大きく息を吸い込み、大きく吐いた。
湯気が鼻腔を通り、体を温め、おまけにその香りがさらに肩の力を緩める。
突然眠気が襲ってきた。
安全な場所でゆっくりと出来ることは、今までほとんどなかった。外で睡眠をとることは、常に危険と隣り合わせだ。眠っている瞬間が一番無防備なのは間違いない。寝ている間にも、常に警戒していないといけないので、こんな安全な場所に来てしまったら、眠たくなるのも仕方がない。
だんだん意識が遠のいていく。頭に、もやがかかったように意識が…………暗転し……て……
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人生最悪の目覚めが、こんなにも早く更新されるとは思っていなかった。
ドルシラが襲撃してきたときは、音と振動で目覚めたが、今回は。
「くっ……かはぅ……!」
「何時間待たせるつもりだ、てめぇ!心配してきてみたら、何気持ちよさそうに寝てんだよ!そんなに死にてぇなら、あたしの手で窒息させてやるよ」
今回の目覚めは首を絞められていた。
かなり息がもう限界だ。いち早くこいつの手を離したいところなんだが、それが出来ない理由は、
「な、んで、おまえ、服着て、ないん、だよ」
「あぁ?服着て風呂入るやつがどこに居んだよ」
裸の少女が正面から腰に跨り、冗談の利かない力で首を絞めてきている。乱暴な言葉とは裏腹にドルシラの耳はとんでもなく赤い。何とか、手を離してくれと頼んだが、離してくれそうにない。
もう限界だ。このままで、はもう一度眠りにつくことになってしまう。
アオイは無理やり立ち上がった。
それでも少女は手を離さず、アオイより身長の低い少女は、前にぶら下がる形となって、
「あ」
声の漏れたドルシラと共に、アオイが後ろに倒れこむ。頭蓋骨が石と衝突する鈍い音が風呂場に木霊した。
「死んだか?」




