↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王様の仕立て屋  作者: 森紬
第六章 やってみる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
62/63

第五節 身体操作2

二人が村の外れまで歩いていくと、開けた場所から子どもたちの声が聞こえてきた。


以前はただの空き地だった場所だ。村の大人たちが薪を割ったり、収穫したものを一時的に置いたりすることもあるが、今はその一角が子どもたちの稽古場になっているらしい。


近づくにつれて、マレナの声が聞こえてきた。


「違う!」


よく通る声だった。


「腕だけで振るなって言ってるだろ!」


「でも、こうしたほうが速いよ」


「振り出しはね。でも、そのあと身体が止まる。もう一回」


ルリエナは足を止めた。

そこには、六人ほどの子どもたちがいた。

年齢はほとんど同じくらいだが、身体つきにはかなり違いがある。

大柄な少年もいれば、レオンより頭一つ小さい子もいる。

手にしているものも様々だった。

木剣を持っている子が三人。

木槍を持っている子が二人。

そして一人は、武器を持たずにマレナの前に立っている。


「もう一度、最初から」


マレナが右手を腰に当てる。

左の前腕はない。

それでも、その立ち姿には不思議な安定感があった。


少年が木剣を構える。

マレナは、その構えをしばらく見ていた。


「肩に力が入りすぎ」


「でも、こうしたほうが剣を早く振れる」


「振り始めるだけならね」


マレナは少年の足元を指した。


「右足に力が入りっぱなし。そこから前へ出たら、身体が一緒に流れる」


「じゃあ、どうするの?」


「まず立つ。剣を振るのはそのあと」


少年が困った顔をする。

マレナは笑った。


「剣は腕で持つ。でも、身体ごと振り回すものじゃない。足を使って自分の位置を変えて、その動きに剣を合わせるんだよ」


少年が構え直す。


今度はマレナが木剣を持った。


「見てな」


身体を少し沈める。

前へ出る足が動き、それに合わせて腰が前へ運ばれる。

腕が遅れて動き、木剣が走った。


大きな動きではない。

それでも、さっき少年が振ったときとは明らかに違った。


剣を振るために身体を動かしたのではない。

身体が前へ進み、その動きの中で剣が振られている。


「・・・あ」


少年が声を漏らした。


「分かった?」


「少し」


「なら、もう一回」


少年が踏み込む。

今度は腕だけを先に出さなかった。

足が動き、身体が進み、それに木剣がついてくる。


「そう。今のほうがいい」


マレナが頷いた。


「でも、まだ足が止まってから剣を振ってる。動きながら振ってみな」


その様子を見ながら、ルリエナは目を細めた。


同じ「剣を振る」という動作でも、身体の順番が違う。

腕だけを動かすのではなく、足で距離を変え、その移動に身体を合わせ、その中で剣を操作する。


仕立てとは違う。


けれど、どこか似ている。

身体に合わせて、動きそのものを調整している。


「次、槍!」


マレナの声で、今度は槍を持った少年が前へ出た。


「突いてみな」


少年が槍を構える。

足を踏み出し、槍を前へ伸ばした。


「止まった!」


「え?」


「突いた瞬間に身体まで止めるな」


マレナは少年の横へ回った。


「槍は剣より間合いが長い。だから、腕だけ伸ばして届かせようとすると、身体が置いていかれる」


少年が槍を引く。


「もう一度」


今度は足を前へ出す。

身体が移動する。

その移動に合わせて、槍が前へ伸びた。


「そう。槍を伸ばすんじゃない。自分も一緒に前へ入る」


ルリエナは、その動きをじっと見た。

槍を持った少年は、先ほどより身体が大きく動いている。

それなのに、槍を突き出す動作そのものはむしろ小さく見えた。

身体の移動で距離を詰めているからだ。


「・・・面白い」


思わず口からこぼれた。


「何が?」


隣にいたレオンが聞く。


「剣と槍で、身体の使い方が違う」


「かあちゃん、武器によって違うって言ってる」


「うん」


ルリエナは頷いた。


そして今度は、武器を持っていない子を見る。

その子はマレナと向かい合っていた。


「じゃあ、今度は転んでみな」


「え?」


「転ぶのも練習だよ」


少年が恐る恐る身体を傾ける。

マレナは手を出さない。


「身体を固めない。手を突っ張らないで、身体を丸める」


少年が地面へ倒れる。

どさり、と音がした。


「痛い!」


「だから最初はゆっくりって言っただろ」


マレナが苦笑する。


「もう一度。今度は身体を固めない」


少年が立ち上がる。

再び身体を倒す。

今度は先ほどよりも柔らかく地面へ触れた。


「そう。転ばないことだけが強さじゃない。転んだあとに動けることも大事なんだよ」


ルリエナは黙って見ていた。


剣。

槍。

そして、武器を使わない身体。

同じ「動く」ということでも、それぞれに違う。

それなのに、マレナは一人ひとりを見ながら、その子に合った動きを探している。


ふと、ルリエナは子どもたちの身体を見比べた。

大柄な少年は、踏み込んだときの安定感がある。

小柄な少年は、身体の向きを変えるのが速い。

槍を持った子は腕が長く、距離を取るのが上手い。

同じ練習をしているのに、得意な動きが違う。


「・・・みんな、違うんだ」


「そりゃそうだろ」


レオンが答えた。


「身体が違うんだから」


「・・・身体が違う」


その言葉を、ルリエナは小さく繰り返した。

身長が違う。

腕の長さが違う。

足の長さも違う。

身体の重さも違う。

だったら、動き方だって違って当然なのだ。


それは服も同じだった。

同じ型紙でも、身体が違えば着たときの形が変わる。

袖の長さを変え、肩を合わせ、腰の位置を調整する。

身体に服を合わせる。


ならば、身体を動かすときも――。


無理に誰かと同じ動きをする必要はないのではないか。


「・・・仕立てるのと、似てる」


「何が?」


「ううん。まだ分からない」


ルリエナは首を振った。

まだ、うまく言葉にはできない。

ただ、何かが繋がりそうだった。


そのときだった。


「――そこの二人」


マレナの声が飛んできた。

ルリエナとレオンが同時に振り向く。

マレナが腰に手を当てて、こちらを見ていた。


「見学するなら、そんなところに突っ立ってないで、こっちへ来な」


レオンが苦笑する。


「ほら、呼ばれたぞ」


「うん」


ルリエナは頷いた。


けれど、足を踏み出しながらも、まだマレナから目を離せなかった。


片腕で立つ身体。

子どもたちを見つめる目。

その一つ一つの動きを見逃さない姿。


ルリエナは、初めて少しだけ思った。


――この人は、自分の身体のことを、私よりずっとよく知っている。――


そのことが、なぜだか無性に気になった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。