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魔王様の仕立て屋  作者: 森紬
第六章 やってみる

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第五節 身体操作1

昼下がりの村には、乾いた木の音が響いていた。

カンッ、と短い音がして、少し遅れて子どもたちの声が重なる。


ルリエナは作業机に向かっていた手を止めた。

窓から差し込む光の中で、細かな革屑がゆっくりと舞っている。


さっきまでタルガニスの端材を削っていた。

削った面を指先で撫で、厚みの違いを確かめる。その感触が面白くて、もう少しだけ試してみようと思ったところだった。


それでも、外から聞こえてきた音が気になった。

また、カンッ、と鳴る。

今度は二度。

続けて、誰かが地面を踏み込む音がした。


ルリエナは椅子から立ち上がった。

窓辺まで歩き、外を見る。

少し離れた場所に、何人かの子どもたちが集まっていた。


その中心にレオンがいる。

手には木剣。

向かいにいる少年も木剣を構えていた。


「・・・レオン?」


思わず声が漏れる。


以前から剣術ごっこをしていることは知っていた。

けれど、何かが違う。

レオンが木剣を構えている。

相手が踏み込む。


以前なら、そこでレオンは正面から受け止めていたはずだった。

けれど今日は違った。

ほんの少しだけ身体を引き、相手の木剣を受け流す。

そのまま足を踏み替え、身体を戻す。

動きそのものは大きくない。

けれど、無駄が少なかった。


ルリエナは窓から離れた。


気になった。


作業机の上に置いた革を一度見て、それから外を見る。

もう一度、レオンの動きを見たい。

そう思ってしまった。


外へ出る。


近づくにつれて、子どもたちの声がはっきり聞こえてきた。


「今の避けるのずるいだろ!」


「避けちゃ駄目なんて言ってないだろ!」


「次は当てるからな!」


レオンが笑う。


「やってみろよ」


その声に、以前の面影がある。

けれど身体は、少しずつ変わっていた。

背も伸びた。

肩も広くなった。

子どもの身体から、少しずつ少年の身体へ変わっている。


そして何より――。


ルリエナは、レオンの足元を見た。

踏み込んだあと、足が流れていない。

身体を戻すときも、以前ほど大きく身体が揺れない。


どうしてだろう。

ルリエナは無意識に首を傾げた。


「・・・レオン」


「ん?」


振り返ったレオンが、木剣を肩に乗せる。


「前より動きが変わった」


「そうか?」


「うん」


「分かるのか?」


「・・・分かる」


自分でも不思議だった。

何がどう違うのかを、言葉にしようとすると難しい。

けれど、見れば分かる。

身体が動く順番が違う。

以前のレオンは、腕を動かしてから身体がついてくることが多かった。


今は違う。


足が動いて、腰が動いて、そのあとに腕がついてくる。


ほんの少しの違い。


でも、ルリエナにはそれが大きな違いに見えた。


「最近、何かしてる?」


「ああ」


レオンは何でもないことのように答えた。


「かあちゃんに教えてもらってる」


「マレナさんに?」


「うん。剣の振り方じゃなくて、身体の動かし方」


その言葉に、ルリエナの目が少しだけ開いた。


「身体の・・・動かし方?」


「そう。かあちゃんが言ってた。剣を上手く振ろうとする前に、自分の身体をちゃんと使えって」


レオンは木剣を握り直した。


「俺だけじゃないぞ。剣をやりたい奴とか、槍をやりたい奴とか、何人か一緒に教えてもらってる」


「・・・そうなんだ」


知らなかった。

いや、正確には、知らないこと自体が少し意外だった。


村の子どもたちが、それぞれ何かを始めている。

自分が作業机に向かっている間にも、レオンはレオンで、自分の身体を使うことを覚えていた。


それを聞いて、ルリエナはなぜか少しだけ嬉しくなった。


「私も、見ていい?」


「マレナのところ?」


「うん」


レオンは一瞬だけ目を丸くした。

それから、いつものように笑う。


「いいんじゃないか? かあちゃんなら喜ぶと思う」


「じゃあ、行ってみる」


「今から?」


「今」


「・・・エナって、こういうとこ早いよな」


レオンが苦笑する。


ルリエナはその意味がよく分からず、首を傾げた。


「何が?」


「何でもない」


レオンはそう言って、木剣を仲間に渡した。


「俺も行く」


「練習は?」


「ちょうど休憩」


二人は並んで歩き出した。


少し先から、また木剣のぶつかる音が聞こえてくる。

けれど今度は、その音よりも――


ルリエナの中に生まれた小さな興味のほうが、ずっと大きかった。


――身体は、どうすればもっと自然に動くのだろう。――


その答えを知っている人がいる。

そう思うと、足取りまで少し軽くなった。


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