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魔王様の仕立て屋  作者: 森紬
第六章 やってみる

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第四節 素材研究3

翌日。

ルリエナは、昨日の甲皮を作業机の上へ並べていた。

昨日までは、ただ硬い素材として見ていた。


今日は違う。


何に使えるのかを考えながら、その形を眺めている。


「・・・やっぱり、このままだと使いにくい」


指先で一枚を持ち上げる。

薄い。それなのに硬い。

一枚だけなら、身体の動きに合わせて形を変えるには少し無理がある。けれど、昨日試した小さな端材なら、手で曲げたときにそれなりのしなりがあった。


ルリエナはしばらく考えたあと、甲皮を横にして刃を当てた。


「昨日より、こっちのほうが切りやすい」


「乾燥したからかもしれないな」


後ろから声がして振り返ると、ガルドが立っていた。


「お父さん、見てたの?」


「見ていたというより、音が聞こえた」


「・・・そう」


ルリエナは少し照れながら、切り分けた甲皮を持ち上げた。


「これくらいの幅にしてみた」


細長い短冊状になった甲皮を、ガルドへ見せる。


「何にするつもりだ?」


「まだ決めてない」


「なら、どうしてこの形にした?」


「昨日、一枚のままだと曲げにくかったから」


ルリエナは短冊を机の上へ置いた。


「小さくしたら、少し曲がりやすくなった。それなら、もっと小さく分けたらどうなるのかなって」


「なるほどな」


ガルドは短冊を一本手に取った。


「だが、これだけでは身体を守るには頼りないぞ」


「うん。だから・・・」


ルリエナは革紐を取り出した。


「繋いでみる」


「どうやって?」


「昨日、穴を開けたでしょう?」


短冊の両端を指で示す。


「ここに穴を開けて、紐を通す」


「縫うのとは違うな」


「うん」


 ルリエナは頷いた。


「でも、縫わなくても繋げられる」


短冊の端に印をつけ、穴を開けていく。

昨日よりも手つきが慎重だった。

穴の位置が少しでもずれれば、並べたときに形が揃わない。


「・・・ここかな」


「もう少し内側でもいい」


ガルドが横から言った。


「端に近すぎると、そこへ力が集中する」


「じゃあ、これくらい?」


「ああ」


ルリエナは位置を修正した。


穴を開ける。

もう一本。

さらにもう一本。

同じ位置に穴を揃えていく。


すべての短冊を並べ終えると、今度は革紐を通した。


一本目。

二本目。

三本目。

隣り合った甲皮が少しずつ重なるようにして、紐を締める。


「・・・できた」


小さな板が何枚も連なった、不思議なものが机の上にできあがった。


ルリエナは両端を持ち、ゆっくりと曲げてみる。


一枚だけのときとは違った。

それぞれの短冊が少しずつ動き、全体が弧を描く。


「・・・!」


ルリエナの顔が明るくなった。


「曲がる」


「さっきよりはな」


「うん」


もう一度、反対側へ動かしてみる。

短冊同士が重なり、位置を変えながらついてくる。


「すごい・・・」


思わず声が漏れた。


ガルドも手を伸ばし、端を持つ。


「悪くないな」


「でしょう?」


「ただし、紐を強く締めすぎると動かなくなる」


「・・・本当だ」


言われて少し緩めると、短冊が再び動いた。


「逆に緩すぎると?」


「今度はずれる」


ルリエナは試しに紐を緩めてみた。

確かに、短冊がばらばらに動いてしまう。


「じゃあ、このくらい・・・」


少しずつ締め具合を調整する。


「・・・ここ」


動く。

それでいて、大きくずれない。


ルリエナは満足そうに頷いた。


「これなら使えそう」


「何に?」


ガルドに問われ、ルリエナは手を止めた。


「・・・まだ分からない」


「だろうな」


「でも、身体に当てたら分かるかも」


ルリエナは試作品を腕に乗せてみた。

肘を曲げる。

甲皮が少しずつ重なり、腕の動きについてくる。


「・・・動く」


「一枚で作るよりは、ずっといいな」


「うん」


今度は腕を伸ばしてみる。

そして曲げる。

伸ばす。

曲げる。


短冊が互いに擦れながら動いていく。


「硬いのに、邪魔しない」


ルリエナは自分の腕を見ながら呟いた。


「硬いから守れる。でも、小さくして繋げれば動ける・・・」


昨日までなら、硬い素材を見れば「どうやって柔らかくするか」を考えていたかもしれない。


けれど、今は違う。


素材を変えなくてもいい。

使い方を変えればいい。


「お父さん」


「何だ?」


「タルガニスって、こういうふうに身体を守ってるんだよね」


「ああ」


「じゃあ、この甲皮は、最初からこういう使い方をするためにできてるのかな」


ガルドは少し考えた。


「どうだろうな。魔獣自身に聞いてみなければ分からん」


「・・・それは無理だね」


「無理だな」


二人で顔を見合わせる。


ルリエナは笑った。

そして、もう一度試作品へ目を落とした。


「でも・・・面白い」


まだ小さな試作品にすぎない。

形も整っていないし、紐の通し方ももっと考える必要がある。身体を守るものとして使うなら、強度も調べなければならない。


それでも、昨日まで知らなかったことを一つ知った。


――硬い素材は、硬いままでも動かせる。――


その事実だけで、目の前の甲皮が少し違って見えた。


「これ、もう少し作ってみたい」


「好きにしろ。ただし、使う分だけ切れよ」


「分かってる」


ルリエナは返事をしながら、残った甲皮を見た。


一枚。

また一枚。


どの部分を使えばいいのか、どんな大きさならもっと動きやすくなるのか。

新しい疑問が、次々に浮かんでくる。


それは昨日までの「分からない」とは違っていた。


――試せば分かるかもしれない。――


そう思えるようになっていた。


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