第四節 素材研究3
翌日。
ルリエナは、昨日の甲皮を作業机の上へ並べていた。
昨日までは、ただ硬い素材として見ていた。
今日は違う。
何に使えるのかを考えながら、その形を眺めている。
「・・・やっぱり、このままだと使いにくい」
指先で一枚を持ち上げる。
薄い。それなのに硬い。
一枚だけなら、身体の動きに合わせて形を変えるには少し無理がある。けれど、昨日試した小さな端材なら、手で曲げたときにそれなりのしなりがあった。
ルリエナはしばらく考えたあと、甲皮を横にして刃を当てた。
「昨日より、こっちのほうが切りやすい」
「乾燥したからかもしれないな」
後ろから声がして振り返ると、ガルドが立っていた。
「お父さん、見てたの?」
「見ていたというより、音が聞こえた」
「・・・そう」
ルリエナは少し照れながら、切り分けた甲皮を持ち上げた。
「これくらいの幅にしてみた」
細長い短冊状になった甲皮を、ガルドへ見せる。
「何にするつもりだ?」
「まだ決めてない」
「なら、どうしてこの形にした?」
「昨日、一枚のままだと曲げにくかったから」
ルリエナは短冊を机の上へ置いた。
「小さくしたら、少し曲がりやすくなった。それなら、もっと小さく分けたらどうなるのかなって」
「なるほどな」
ガルドは短冊を一本手に取った。
「だが、これだけでは身体を守るには頼りないぞ」
「うん。だから・・・」
ルリエナは革紐を取り出した。
「繋いでみる」
「どうやって?」
「昨日、穴を開けたでしょう?」
短冊の両端を指で示す。
「ここに穴を開けて、紐を通す」
「縫うのとは違うな」
「うん」
ルリエナは頷いた。
「でも、縫わなくても繋げられる」
短冊の端に印をつけ、穴を開けていく。
昨日よりも手つきが慎重だった。
穴の位置が少しでもずれれば、並べたときに形が揃わない。
「・・・ここかな」
「もう少し内側でもいい」
ガルドが横から言った。
「端に近すぎると、そこへ力が集中する」
「じゃあ、これくらい?」
「ああ」
ルリエナは位置を修正した。
穴を開ける。
もう一本。
さらにもう一本。
同じ位置に穴を揃えていく。
すべての短冊を並べ終えると、今度は革紐を通した。
一本目。
二本目。
三本目。
隣り合った甲皮が少しずつ重なるようにして、紐を締める。
「・・・できた」
小さな板が何枚も連なった、不思議なものが机の上にできあがった。
ルリエナは両端を持ち、ゆっくりと曲げてみる。
一枚だけのときとは違った。
それぞれの短冊が少しずつ動き、全体が弧を描く。
「・・・!」
ルリエナの顔が明るくなった。
「曲がる」
「さっきよりはな」
「うん」
もう一度、反対側へ動かしてみる。
短冊同士が重なり、位置を変えながらついてくる。
「すごい・・・」
思わず声が漏れた。
ガルドも手を伸ばし、端を持つ。
「悪くないな」
「でしょう?」
「ただし、紐を強く締めすぎると動かなくなる」
「・・・本当だ」
言われて少し緩めると、短冊が再び動いた。
「逆に緩すぎると?」
「今度はずれる」
ルリエナは試しに紐を緩めてみた。
確かに、短冊がばらばらに動いてしまう。
「じゃあ、このくらい・・・」
少しずつ締め具合を調整する。
「・・・ここ」
動く。
それでいて、大きくずれない。
ルリエナは満足そうに頷いた。
「これなら使えそう」
「何に?」
ガルドに問われ、ルリエナは手を止めた。
「・・・まだ分からない」
「だろうな」
「でも、身体に当てたら分かるかも」
ルリエナは試作品を腕に乗せてみた。
肘を曲げる。
甲皮が少しずつ重なり、腕の動きについてくる。
「・・・動く」
「一枚で作るよりは、ずっといいな」
「うん」
今度は腕を伸ばしてみる。
そして曲げる。
伸ばす。
曲げる。
短冊が互いに擦れながら動いていく。
「硬いのに、邪魔しない」
ルリエナは自分の腕を見ながら呟いた。
「硬いから守れる。でも、小さくして繋げれば動ける・・・」
昨日までなら、硬い素材を見れば「どうやって柔らかくするか」を考えていたかもしれない。
けれど、今は違う。
素材を変えなくてもいい。
使い方を変えればいい。
「お父さん」
「何だ?」
「タルガニスって、こういうふうに身体を守ってるんだよね」
「ああ」
「じゃあ、この甲皮は、最初からこういう使い方をするためにできてるのかな」
ガルドは少し考えた。
「どうだろうな。魔獣自身に聞いてみなければ分からん」
「・・・それは無理だね」
「無理だな」
二人で顔を見合わせる。
ルリエナは笑った。
そして、もう一度試作品へ目を落とした。
「でも・・・面白い」
まだ小さな試作品にすぎない。
形も整っていないし、紐の通し方ももっと考える必要がある。身体を守るものとして使うなら、強度も調べなければならない。
それでも、昨日まで知らなかったことを一つ知った。
――硬い素材は、硬いままでも動かせる。――
その事実だけで、目の前の甲皮が少し違って見えた。
「これ、もう少し作ってみたい」
「好きにしろ。ただし、使う分だけ切れよ」
「分かってる」
ルリエナは返事をしながら、残った甲皮を見た。
一枚。
また一枚。
どの部分を使えばいいのか、どんな大きさならもっと動きやすくなるのか。
新しい疑問が、次々に浮かんでくる。
それは昨日までの「分からない」とは違っていた。
――試せば分かるかもしれない。――
そう思えるようになっていた。




