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魔王様の仕立て屋  作者: 森紬
第四章 ふたりの道

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第四節 破れたズボン

それから、少しずつ日が過ぎていった。 

あの日、暗い森を見つけてからも、二人はいつものように村の外れで遊んでいた。


森の入口より先へは行かない。


けれど、その手前までなら、もう何度も来ている。

草地を走り、林の中を歩き、時には木の棒を振り回して、見えない魔物と戦った。


レオンは相変わらず、よく走った。


そして、よく転んだ。


「うわっ!」


草の上に、レオンの身体が転がる。


「・・・また?」


「今のは違う!」


レオンはすぐに起き上がった。


「石があったんだ!」


「石?」


ルリエナが足元を見る。

小さな石がひとつ、草の間から顔を出していた。


「これ?」


「そう!」


「・・・小さいよ」


「小さくても石は石だ!」


レオンはそう言って、服についた土を払った。


けれど、立ち上がった拍子に、膝のあたりから小さな音がした。


びりっ。


二人が同時に下を見る。

ズボンの膝が、少し裂けていた。


「・・・破れた」


「・・・破れたな」


レオンが膝を曲げる。

裂け目が、少し広がった。


「帰ったら、おばさんに直してもらわないと」


「私がやる」


ルリエナが言った。


「エナが?」


「うん」


レオンは少し驚いた顔をした。


「できるの?」


「たぶん」


「じゃあ、頼む!」


その日の夕方、ルリエナは母の隣で破れたズボンを広げた。

膝の部分が、ぱっくりと開いている。

ルリエナは針に糸を通し、布を合わせた。


「ここを縫えばいいんだよね?」


「そうね」


フィーネが笑う。


「でも、膝はよく動くから、あまり強く引っ張らないほうがいいわ」


「うん」


ルリエナは母の言葉を聞きながら、布を指で押さえた。


針を入れる。

糸を引く。

また針を入れる。

何度も繰り返して、ようやく穴が閉じた。


「できた」


少し歪んでいる。

糸の間隔も揃っていない。

それでも、自分で縫った。


翌日、ルリエナは直したズボンをレオンに渡した。


「はい」


「ありがとう!」


レオンは嬉しそうに受け取った。

そのまま履いて、外へ飛び出していく。


「エナ、行こうぜ!」


「待ってよ」


二人はいつもの草地へ向かった。


走る。

跳ぶ。

しゃがむ。

立ち上がる。

レオンはいつも通り、思い切り遊んだ。


そして、その日の帰り道。


「エナ」


「なに?」


「また破れた」


レオンがズボンの膝を見せた。


「・・・早いよ」


「俺のせいじゃない」


「レオンが転んだからでしょ」


「転んだのは地面のせい!」


ルリエナは呆れながらも、破れた場所を見た。

昨日縫ったところとは、少し違う場所だった。


けれど、同じ膝だった。


「・・・また直す」


「お願い!」


レオンは笑った。


それから、同じことが何度も続いた。


破れる。


ルリエナが縫う。


また破れる。


また縫う。


最初の頃は、ただ穴を閉じればいいと思っていた。

けれど、何度も繰り返しているうちに、少しずつ気になることが増えていった。


同じ膝が破れる。


走っているときより、転んだときのほうが大きく裂ける。


しゃがんだときには、縫ったところが引っ張られる。


レオンが膝を曲げるたびに、布が伸びる。


ルリエナは、修理するたびに、その様子を見るようになった。


「レオン、ちょっとしゃがんで」


「こう?」


「うん。次、立って」


「なんで?」


「いいから」


レオンが立ったりしゃがんだりする。

ルリエナはズボンの膝を見ていた。


布が寄る。

伸びる。

また戻る。


「もう一回」


「何回やるんだよ」


「もう一回だけ」


「さっきも言った」


「今度が最後」


レオンは文句を言いながらも、言われた通りに動いた。

ルリエナは、膝の周りを指で触った。

布そのものが悪いわけではない。

縫い方だけでもない。

レオンが動くたびに、そこへ力が集まっている。


それなら、そこをもっと丈夫にすればいい。


そう思った。

けれど、ただ丈夫にすればいいわけでもない。

布を重ねすぎれば、今度は膝が曲げにくくなる。

縫い目を強くしすぎれば、布が引っ張られる。


ルリエナは、そんなことを考えながら、何度も縫い直した。


少し縫い方を変える。

糸を変える。

布を重ねる位置を変える。

そして、レオンに動いてもらう。


「どう?」


「んー・・・普通」


「走れる?」


「走れる!」


「しゃがめる?」


「できる!」


「じゃあ、跳んで」


「なんで?」


「いいから」


レオンは笑いながら跳んだ。

着地して、また走る。


その姿を見ながら、ルリエナは考えた。

どうすれば、破れにくくなるのだろう。

どうすれば、レオンが動きやすいまま、膝を守れるのだろう。


答えは、まだ分からない。


それでも、破れるたびに直しているうちに、ルリエナには少しずつ見えてきた。


服は、ただ身体を覆っているだけではない。

身体が動けば、服も一緒に動く。

走れば伸びる。

しゃがめば寄る。

転べば、そこに強い力がかかる。

だから、動き方を知らなければ、うまく作れない。


ある日の夕方。


またしても破れたズボンを手に、ルリエナは黙って膝の部分を見つめていた。

何度直しても、同じところが傷んでいく。

布にも、もう限界が近づいている。


どうしたらいいのだろう。


そう考えながら、ルリエナはふと、母が作業台の端に置いていた革の切れ端へ目を向けた。


茶色い革。

布より厚く、しっかりしている。

指でつまんで曲げてみる。


戻る。


もう一度、曲げる。

ルリエナは革を持ったまま、ズボンの膝を見た。


「・・・これなら」


小さな声が、口からこぼれた。

まだ、どうすればいいのかは分からない。


けれど。


今までとは違う何かが、少しだけ見えた気がした。


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