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救いの手

女神が窓側の席に座る。今俺の中では疑問が渦巻いていた。その後クラスの活気も次第に落ち着き休み時間になった。俺は真っ先に問い詰めようと思ったが、他の奴らに先を越され、クラスメイトの頭の間から顔を覗き様子を見ていた。しかし女神は至極普通の女子高校生として振る舞っていて誰も違和感を感じていなかった。しかも美女で人気がある。すると女神が視線を上げ俺のことを見てニコッと笑って言った。


「アキト君、久しぶり!」


女神が放った一言でクラスメイトが驚きの顔で俺を見る。


「なっ?!俺は・・・その・・・」


俺は元々人と関わるタイプではない。それは幼少期に無愛想にしていたのが原因の一つになっている。そこで俺がしどろもどろしていると女神が、


「あ、そっか!アキト君は幼稚園の時だけ一緒だったから、あまり覚えてないよね?」


「あ、あぁ〜。ちょっと忘れてた。今思い出したよ。」


「おい!アキトお前こんな可愛い子と友達だったのかよ!」


あまり話した事のないクラスメイトの一人が手を俺の肩にまわし耳元で言った。


「後で俺に紹介してくれよ〜。」


俺は苦笑いしながら受け流し、周りの質問を振り切りその場を去った。


--------------

昼休みになった。ヒロト達は食堂で飯を食っていて俺は教室で黙々と母が作ってくれた弁当を食べていた。


(やっぱり米はうまいな)


とでも思っていると女神が俺の方へ歩いてきたのが見えた。


「こんにちは、アキト君。良かったらお昼ご飯一緒に食べても良い?」


教室で食べていたクラスメイトが好奇の目で俺と女神

を交互に見る。


「ああ、もちろんだ。俺も聞きたい事があるからな。」


「しかし、ここじゃなんですから少し移動しましょうか。」


俺と女神は聞こえないよう小さめの声で話した。


その後、俺達は中庭のベンチに移動した。


「さて早速だが聞こうか。」


俺はベンチに座った途端女神の目を見て言った。


「何故お前がここに居る?俺を救ってくれるんじゃ無いのか?」


「それは勿論あなたを救う為です。」


「ほう?それで何だ?」


「えーと、色々とややこしいので最初から説明した方が良さそうですね。最初にあなたが前の世界で亡くなった時、私はあなたの転生を担当しました。しかし、転生をする段階でミスを起こしてしまい、あなたは記憶を持って生まれ変わってしまいました。それは決して、やってはいけない事で、そこで私があなたに自分が転生者だと言わないで欲しいと頼みました。けれど、あなたは前世の記憶を持っているせいで今の生活に支障をきたしています。そこで天界は、いつかあなたが狂い始め暴露してしまうと考え、私を下界にいわば“転生”させ、あなたを助けさせようとしたのです。」


俺は不思議ながら納得はした。


「それで?どう俺のトラウマを解消してくれるんだ?あいつらの居場所でもわかったのか?」


「いえ、それは出来ません。最低限でもあなた自身の力で見つけないと意味が無いからです。しかし流石に見つけるのは困難だと考え、私が少しだけ助力します。」


「何だと!?救ってくれるじゃあ無いのか?!俺がどんな気持ちで毎日を過ごしていると思っている!?」


俺が大声を出したせいか、周りの生徒の視線を感じ、少し落ち着いて言った。


「もういい、せっかく来てくれたが無駄足のようだな。」


「待って下さい。そのままだと必ず後悔する事になりますよ。」


女神は酷く落ち着き澄んだ声で言う。俺はそんな女神の言葉を無視して背を向けた。しかし、誰もその後女神が後ろで不敵な笑みを浮かんでいたのは知るはずもなかった。


--------------


「おーいー、どうしたんだよ?アキト?」


俺は今、部活が終わりヒロト達と帰っていた。


「おい、やめとけって。アキトにも好きな人が出来てしまったんだよ。くぅー、転校生の子めっちゃ可愛かったなー。おいアキト許せんが今回だけはお前に譲ってやる。応援してるぜ。」


「あんなやつ、どうでもいい。」


「お、おい大丈夫か?可愛さで脳が焼き切れちゃったのか?」


「いいや大丈夫だ。」


しかしそんなことを言っても俺の頭の中は女神への怒りで埋め尽くされていた。


(クッソあの女神、人の気持ちが分からんのか?)


「まあ頑張れよ。じゃあな。」


分かれ道でヒロト達と別れ俺はそのまま家に帰っていった。


「ただいま。」


俺が扉を開けた瞬間、違和感を覚えた。いつも聞こえるはずの母と妹の声が聞こえないのだ。リビングのドアを開けると晩飯をしているはずが、そこには誰も居なかった。


「母さーん、父さーん、ミカー?」


俺は階段を一段上がった時、前世に嫌ほど嗅いだあの生臭い匂いがした。俺は背筋が震え出して階段を急いで登った。しかし目の前に広がったのは母を庇って倒れていたまだスーツ姿の父がいた。そのスーツには赤黒い液体がびっしょりと付いていた。ピクリともせず父の体に触れると冷たい感触が指先に伝わってきた。下の母を見ると恐怖で歪んだ顔をしており、死んだ事などあからさまだった。


(いや嘘だ。そんなわけが無い。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!)


俺は両親の死を否定し続け、その時あの無邪気な妹の顔が浮かんだ。俺は即座に立ち上がり妹の部屋から片っ端に家の中を探す。しかし、そこには人影が一切見当たらなかった。俺は混乱した。家族が死んでいる?妹はどこにもいない。


(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。)


その次に俺の中では今の状況を嫌悪していた。とてつもなく嫌悪していた。嫌なほど嫌悪していた。そして自分のせいかもしれないという事を一番嫌悪していた。


「必ず後悔する事になりますよ。」


女神は冷淡にそう言っていた。気付くと俺は床に向かって嘔吐していた。胃の中が空っぽになるほどに。顔は涙と鼻水と胃液でぐちゃぐちゃになっていた。


「ああああうああああうああーーーーー!」


尊敬と愛とそして何より大切にしていた人達を2度失った。そんな事実だけで俺は気絶する事が出来ていた。ただし絶望と失望を胸に残しながら。

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