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銀貨一枚から始まる物流革命 ~剣を持たない運び屋、世界の流れを支配する~  作者: 紅茶伝
最終章

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第五十四話 動き始めた流れと銀貨三枚


 王都運送組合へ戻る頃には、西へ傾き始めた日差しが倉庫の入口まで差し込んでいた


 荷車の周りでは運び屋たちが忙しく動き回り、修繕所から届いた車輪が壁際へ並べられている。その横では若い運び屋が帳簿を広げ、街道便へ回す荷と川便へ積み替える荷を何度も確認していた


 昨日までは、それぞれが自分の仕事だけを見ていた


 だが今は違う


 修繕所から届いた情報を見ながら荷の順番を決め、荷の到着時間を見ながら船頭へ声を掛け、足りない縄があれば別の工房へ走る


 一人では出来ない仕事を、皆が少しずつ補い始めていた


「戻ったか」


 ギドが倉庫の奥から歩いてくる


 その顔は笑っていない


 レインの手元を見た瞬間、さらに険しくなった


「……その顔は、また金を使ったな」


 ミナは苦笑いを浮かべる


「さすがに分かるか」


「長い付き合いだからな」


 ギドはレインを真っ直ぐ見た


「いくらだ」


「小金貨二枚です」


 倉庫の空気が一瞬止まる


 帳簿を書いていた若い運び屋まで思わず顔を上げた


 ギドは額へ手を当て、大きく息を吐く


「お前、本当にためらいってもんがねぇな」


「必要でした」


「その一言で済ませる金額じゃねぇぞ!」


 珍しく声を荒らげたギドを見て、周囲の運び屋たちは思わず動きを止めた


 レインは黙って話を聞く


 言い返さない


 ギドの怒りが心配から来ていることを知っているからだ


「組合に残る金は銀貨五枚だぞ!」


「はい」


「次に何かあったらどうする!」


「動かして増やします」


 あまりにも真っ直ぐな返事だった


 ギドはしばらくレインを睨んでいたが、やがて肩の力を抜いた


「……本当に、お前は昔から変わらねぇ」


 苦笑しながら頭を掻く


「銀貨一枚しか持ってなかった頃と同じ目をしてやがる」


 ミナが小さく笑う


「私もそう思った」


 レインは照れたように視線を逸らした


「今は使う時です」


「それが怖ぇんだよ」


 ギドは呆れながらも笑う


「だが、その顔を見る限り、無駄遣いじゃねぇんだろ」


「はい」


 レインは船着場のこと、倉庫のこと、バルドとの契約、管理局の臨時使用札まで、順を追って説明した


 話が終わる頃には、倉庫の中は静まり返っていた


 誰もが頭の中で、新しい流れを想像している


 やがて、一人の年配の運び屋が口を開いた


「街道が止まっても、薬や金具だけでも川で流せるなら……修繕所は助かるな」


「市場も止まりにくくなる」


「全部は無理でも、全部じゃなくていいのか」


 小さな声が少しずつ重なっていく


 レインは頷いた


「大きな流れは作れません」


 倉庫の全員を見渡しながら続ける


「ですが、止まらない流れなら作れます」


 その言葉に、誰からともなく頷く者が現れた


 諦めではない


 希望でもない


 まずはやってみようという、静かな覚悟だった


 その頃、王都管理局では一人の男が机へ報告書を置いていた


 セリオだった


 向かいには白髪交じりの上司が座っている


「どうだった」


「想像以上です」


 セリオは静かに答えた


「彼らは街道ではなく、川を使います」


 上司の眉がわずかに動く


「古い水路か」


「はい。黒蛇商会がまだ本格的に手を付けていない場所です」


 部屋に沈黙が落ちる


 やがて上司は窓の外を眺めながら呟いた


「ようやく……か」


「動かれますか」


 その問いに、上司は首を横へ振った


「まだだ」


 机の上へ置かれた黒蛇商会の報告書へ視線を落とす


「今はまだ商会同士の争いにしか見えん」


 静かな声だった


「だが、王都運送組合が本当に物流を繋ぎ直すなら話は変わる」


 セリオは黙って聞いている


「証拠も揃う。民の被害も数字になる。そして何より――」


 上司は窓の外を見たまま続けた


「黒蛇商会を止めても、代わりに荷を動かせる」


 その言葉に、セリオは小さく頷いた


「では」


「もう少し待て」


 上司は短く答える


「今は、あの若者たちが流れを作るのを見届ける」


 夕日が管理局の窓を赤く染めていた


 同じ夕日が王都運送組合の倉庫にも差し込み、運び屋たちは川便へ積み替える最初の荷を静かに運び始めていた


 まだ木箱は三つしかない


 荷車一台にも満たない量だ


 それでも、その三つの木箱は止まりかけた王都の物流をもう一度動かす、最初の一歩だった

ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!

もしよかったら感想などいただけると、とっても嬉しいです…!

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