表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀貨一枚から始まる物流革命 ~剣を持たない運び屋、世界の流れを支配する~  作者: 紅茶伝
最終章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
49/55

第四十九話 始まる物流戦争と小金貨一枚銀貨九枚


 翌朝、王都運送組合は重苦しい空気のまま一日を迎えた


 東門が開くと同時に朝便の荷車は街道へ走り出し、修繕所では職人たちが夜明け前から荷車の整備を続けている。倉庫の中でも運び屋たちは黙々と荷を積み込み、帳簿係は少しでも遅れを取り戻そうと何度も予定を書き直していた


 誰も手を止めてはいない


 それでも、いつもの活気は消えていた


 昨日、西街道で起きた車輪の破損は、一晩で王都中へ広がってしまったからだ


 荷を預けに来た商人たちも落ち着かない様子で街道を見つめ、互いに不安そうな声を交わしている


「西商業区じゃ、荷が届かなくて店を開けられなかったらしいぞ」


「うちも納期を三日延ばしてくれって頭を下げられた」


「こんなの初めてだ……」


 そんな話があちこちから聞こえてくるたびに、倉庫の空気は少しずつ重くなっていった


 その時だった


 一台の荷車が倉庫の前で止まり、御者が飛び降りるように地面へ降り立った


 男は割れた車輪を両腕で抱えたまま、ふらつく足取りでレインの前まで歩いてくる


 服には乾いた土が付き、額には汗が滲んでいた


「頼む……!」


 男は車輪を地面へ置くと、その場で深く頭を下げた


「もうどこでもいい! 直してくれ!」


 その声には焦りと悔しさが入り混じっていた


 レインはゆっくりと車輪へ視線を落とす


 木目に沿って大きく裂けた割れ方は、昨日西街道で見たものとまったく同じだった


「修繕所へは行かれましたか」


 男は顔を上げるなり苦々しく笑った


「行ったさ!」


 思わず声が大きくなる


「朝一番で並んだよ! なのに『小金貨三枚です』って平然と言われた!」


 男は悔しそうに車輪を叩く


「昨日まで小金貨一枚だったんだぞ! 一晩で三倍なんて払えるわけねぇだろ!」


 握り締めた拳が震えていた


「この荷車が無きゃ俺は仕事が出来ねぇ……。家族に飯も食わせられねぇんだ……」


 最後の言葉だけは力なく途切れた


 その姿を見ていた運び屋たちも何も言えない


 誰にでも起こり得る話だったからだ


 ギドは険しい顔のまま舌打ちする


「ちっ……」


 机へ拳を軽く打ち付ける


「早すぎるだろ。まだ一週間も経ってねぇぞ」


 ミナも唇を噛み締めた


「ここまで一気に値上がりするなんて聞いたことない」


 レインは壊れた車輪を静かに持ち上げ、割れた木肌を指でなぞる


 修繕所の主人が口にしていた不安は、もう現実になっていた


 質の良い木材は市場から姿を消え、残った木では荷車を支え切れない


 車輪は壊れ、修理代は跳ね上がり、運び屋は仕事を失う


 その流れが、静かに王都全体へ広がり始めていた


 その時、倉庫の扉がもう一度勢いよく開く


「レインさん!」


 別の若い運び屋が息を切らしながら駆け込んできた


 汗だくのまま一枚の紙を差し出す


「北街道の修繕所です!」


 レインは紙を受け取り、目を通した


 短い文章だった


『本日より修繕受付停止 資材不足のため』


 ギドが思わず声を荒げる


「またかよ!」


 若い運び屋は悔しそうに頷く


「他にも二軒閉めるかもしれないって……。修繕出来ない荷車がどんどん増えてます」


 倉庫の中は静まり返った


 修繕所が止まれば荷車は走れない


 荷車が止まれば荷は届かない


 商人は困り、市場は止まり、王都全体の物流が崩れていく


 レインは紙を静かに畳むと、倉庫の中央へ歩き出した


「皆さん」


 大きな声ではなかった


 それでも倉庫中の人間が自然と手を止める


 荷を積んでいた運び屋も、車輪を締めていた職人も、帳簿を書いていた若者も、ゆっくりとレインの方へ向き直った


 全員の視線が集まったのを確認してから、レインはゆっくりと口を開く


「ここから先は、王都運送組合だけの問題ではありません」


 誰も口を挟まない


「修繕所も、個人運び屋も、小さな商会も、今は皆が同じ相手に追い詰められています」


 少しだけ息を吸う


「だから私たちは、自分たちだけ生き残る戦いはしません」


 その言葉にミナが小さく笑う


「やっと言ったな」


 ギドも腕を組んだまま頷いた


「最初からそのつもりだったくせによ」


 倉庫のあちこちで小さな笑いが漏れる


 張り詰めていた空気がほんの少しだけ和らいだ


 レインも静かに笑みを浮かべる


「王都の物流を守ります」


 その一言に、倉庫で働く全員が力強く頷いた


 誰もが生活のために荷を運び始めた


 だが今、その荷車は王都そのものを支えるために走ろうとしていた

最終章になります最後までお付き合いよろしくお願いします


ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!

もしよかったら感想などいただけると、とっても嬉しいです…!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ