第四十八話 新しい流れと小金貨一枚銀貨九枚
西街道から組合へ戻る頃には、夕日が王都の屋根を赤く照らしていた
朝から止まっていた定期便の影響は思っていた以上に大きく、倉庫へ戻ってくる荷車はどれも予定より遅れている。積み替えを待つ商人たちは何度も街道へ目を向け、帳簿を抱えた運び屋は予定を書き直すたびにため息を漏らしていた
普段なら絶え間なく回り続ける物流が、たった数台の荷車が止まっただけで乱れ始めている
その現実を目の当たりにしながら、レインは倉庫の中央へ置かれた大きな机へ地図を広げた
ギドもミナも、その様子を黙って見守っている
「修理は間に合いそうか」
レインが尋ねると、ギドは首を横へ振った
「質の良い木が無い以上、同じことの繰り返しだ。直しても、また割れるかもしれねぇ」
その言葉に倉庫の空気が重く沈む
運び屋たちは命を懸けて荷を運ぶ
それでも荷車が壊れれば仕事は終わる
原因が分かっていても止められないことが、何より苦しかった
レインは地図の上へ一本の線を引く
王都から西街道へ延びる道だった
「黒蛇商会は、この流れを握っています」
その指先をさらに北へ動かす
「だから、ここで戦っても勝てません」
ミナが腕を組む
「だったらどうする」
レインは少し離れた山間部へ印を付けた
「流れを変えます」
ギドが眉をひそめる
「変える?」
「木材が西から来ないなら、西に頼らなければいいんです」
倉庫の中が静かになる
レインは地図を見つめたまま続けた
「東部大橋を直した時と同じです。誰も使わなかった道を使えば、止められた流れはもう一度動かせます」
ギドは地図を覗き込む
「この山道か」
「はい」
細い道だった
大型商会なら効率が悪いと見向きもしない
だが荷車が一台ずつ通るには十分な幅がある
「この先には小さな製材村があります」
レインは指先で印を叩いた
「大きな商会とは取引が少ない村です」
ミナが顔を上げる
「つまり、まだ黒蛇商会が手を出してない可能性があるってことか」
「あります」
短く頷く
「もちろん空振りかもしれません。でも動かなければ、このまま組合は削られ続けます」
その時だった
倉庫の入口から一人の運び屋が声を掛ける
「レインさん」
まだ若い男だった
少し言いにくそうに帽子を握り締めている
「相談があるんです」
レインが近付くと、男は周囲を気にしながら小さな声で話し始めた
「今日……黒蛇商会の人が来ました」
その一言でギドの顔色が変わる
「何だと」
「組合辞めるなら、小金貨三枚やるって……」
倉庫が静まり返る
男は慌てて首を横へ振る
「もちろん断りました。でも俺だけじゃありません。他の運び屋にも声を掛けてるみたいです」
ミナが拳を握る
「今度は人まで買い始めたのか」
レインは怒ることも驚くこともなかった
静かに目を閉じ、小さく息を吐く
「やはりそう来ましたか」
物だけでは足りない
今度は人の流れまで奪おうとしている
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