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銀貨一枚から始まる物流革命 ~剣を持たない運び屋、世界の流れを支配する~  作者: 紅茶伝
三章

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第三十一話 甘い契約と小金貨一枚銀貨九枚


 修繕所の話が広まってからというもの、王都運送組合へ来る個人運び屋の数は以前よりさらに増え始めていた


 大型商会から仕事を切られた運び屋にとって、一番苦しいのは荷車が壊れた瞬間だったのだろう


 車輪一本を交換するだけでも銀貨が飛ぶせいで、そのまま街道へ出られなくなり、積載場で余り仕事を拾い続けるしかなくなる者は多かった


 だが今は違う


 組合側へ入れば修理を回してもらえ、そのまま定期便へ組み込まれることで帰路まで仕事が繋がるせいか、以前なら積載場の隅で疲れ切った顔をしていた個人運び屋たちが、少しずつこちら側へ流れ込み始めている


 しかも定期便が安定し始めたことで、倉庫側の空気まで変わっていた


 朝になれば鉱山区帰りの大型便が入り、その荷をギドたちが工房区側へ流し直し、さらに空いた荷車へ別依頼を積み込んで次便準備まで終わらせていくせいで、以前は一つの搬送が終わるたび止まっていた流れが、今では途切れず回り続けている


 ミナは倉庫奥で荷札をまとめながら苦笑した


「……ほんとに組織っぽくなってきたな」


 ガルドは固定作業を終えた荷車を軽く叩きながら鼻を鳴らす


「ここまで回り始めると、もう個人運び屋には戻れねぇぞ」


 ギドも乾いた笑いを漏らした


「前まで俺、積載場で余った単発仕事取り合ってたんだけどな……」


 その時だった


 倉庫入口側で、小さく空気が変わる


 入ってきた男の服装が、明らかに積載場側の人間じゃなかった


 灰色の外套に、無駄に質の良い革靴


 搬送員というより、商会側の匂いが強い


 男は倉庫全体へゆっくり視線を流し、壊れた荷車が次々修理され、その横では運び屋たちが止まることなく荷を流し続けている様子を見ながら、王都運送組合が既にただの寄せ集めではなく、一つの物流として回り始めていることを確認するみたいに目を細めたあと、笑顔のままレインへ近付いてくる


「いやぁ、驚きましたよ

 まさかここまで短期間で流れを作るとは」


 ミナが露骨に警戒する


「……誰だ?」


 男は胸へ手を当てた


「南都物流商会のクラウスと申します」


 その名前を聞いた瞬間、ギドの顔色が少し変わった


 レインはそれに気付く


「知り合いですか」


 ギドは小さく舌打ちした


「悪い噂が多い商会だ」


 クラウスは苦笑する


「人聞きが悪いですねぇ」


 だが目は笑っていない


 男はそのまま倉庫奥を見ながら続けた


「実は一つ、良い話がありましてね」


 ミナは露骨に嫌そうな顔になる


「その時点で怪しいんだよ」


 だがクラウスは気にしない


「王都西側の香料商会をご存知ですか?

 あそこが大量搬送先を探しているんです」


 レインは静かに聞く


「条件は」


「銀貨百二十枚」


 その瞬間、倉庫の空気が止まる


 作業していた運び屋たちまで、一瞬だけ手を止めた


 銀貨百二十枚


 今の王都運送組合でも簡単に無視出来る額じゃない


 しかもクラウスは続ける


「成功すれば、今後も定期契約へ繋がります」


 ミナが眉を寄せた


「……なんでそんな美味い話を、わざわざこっちへ持ってくるんだよ」


 クラウスは肩を竦める


「実績ですよ」


 そして倉庫内を見回しながら続けた


「東部大橋の件は聞いています

 止まっていた物流を動かしたとか」


 さらにその視線が、忙しく動き回る運び屋たちを追う


 大型便から流れてきた荷を工房区側へ素早く分散し、さらに空いた荷車へ次便荷物まで積み込み始めている今の流れを見れば、以前の個人運び屋集団とは別物になっていることくらい誰でも理解出来る


 クラウスは小さく笑った


「正直、大型商会より小回りが利く

 しかも今のあなた方は勢いがある」


 ミナは眉を寄せる


「なら自分らでやればいいだろ」


 その瞬間、クラウスの目が少しだけ細くなる


「大型商会は動きが重いんですよ」


 男はそこで一度言葉を切ったあと、静かに続けた


「大規模便を動かすには許可調整も必要ですし、人を集めるにも時間が掛かる

 ですが今の王都運送組合は違う

 利益になるなら、多少無理でも流れを通そうとする」


 その言葉に、ミナの顔が険しくなる


 つまり見抜かれているのだ


 今の組合は、まだ余裕がない


 人を増やし、倉庫を抱え、修繕所まで回し始めたことで金の減り方も激しくなっているせいで、大きな利益話が来れば飛び付きやすい状態になっている


 クラウスは笑顔を崩さない


「こちらとしても、成功すれば今後の流れを増やせますから」


 だがギドはその言葉を聞いた瞬間、露骨に顔をしかめた


 まるで目の前の男が、“こちらの苦しい状況込み”で話を持ち込んできていることに気付いたみたいに

ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!

もしよかったら感想などいただけると、とっても嬉しいです…!

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