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銀貨一枚から始まる物流革命 ~剣を持たない運び屋、世界の流れを支配する~  作者: 紅茶伝


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第三十話 開設資金と小金貨一枚銀貨三十六枚


 王都運送組合の木板を掲げてから数日後には、倉庫前の景色は以前とは完全に変わっていた


 朝になれば仕事を求める個人運び屋たちが列を作り、昼には工房区側から追加搬送の依頼が飛び込み、夜になっても鉱山区帰りの搬送車が止まらず入ってくるせいで、以前は空き倉庫同然だった建物が今では朝から晩まで騒がしい


 だが当然、人が増えて流れが大きくなれば、それだけ金も消える


 レインは帳簿を見ながら静かに眉を寄せていた


 倉庫を増やしたことで維持費が跳ね上がり、さらに人を抱えたせいで食費や賃金、それに荷車や岩原馬の整備費まで一気に増え始めたことで、以前なら増える一方だった硬貨袋が今では逆に減る速度の方が早くなり始めている


 しかも問題はそれだけじゃない


 定期便を止めないためには、街道用の予備車輪や固定索まで常備しておかなければならず、一台壊れた時点で搬送列全体が止まる今の状況では、節約するほど逆に流れが崩れるようになっていた


 ミナは机へ広げられた帳簿を見ながら頭を抱える


「待て待て待て……

 なんで昨日まであった金がもう減ってんだよ」


 小金貨四枚近くまで届きかけていた資金は、一気に崩れ始めていた


 ギドも乾いた笑いを漏らす


「商会ってこんな金飛ぶのかよ……」


 ガルドは腕を組みながら苦い顔をした


「人増やすってのはそういうことだ

 しかも定期便だろ

 一回止めたら信用ごと飛ぶ」


 その言葉に、倉庫の空気が少し重くなる


 今までは違った


 個人運び屋だった頃は、最悪仕事を逃しても自分たちだけの問題で済んでいた


 だが今は違う


 人を抱え、便を約束し、毎日決まった量を運ぶ側へ変わってしまった以上、“今日は無理でした”では済まなくなっている


 つまり組織になった瞬間から、止まらないことそのものが責任へ変わったのだ


 レインは帳簿を閉じる


「予備資金が足りません」


 ミナが即座に突っ込む


「いや見りゃ分かるわ!!」


 その瞬間だった


 倉庫入口側で騒ぎ声が上がる


「待ってくれ!!

 今日だけでも乗せてくれ!!」


 若い運び屋だった


 古い小型荷車を引いたまま、必死な顔で入口へしがみついている


 ギドが顔をしかめる


「……昨日も来てたやつだな」


 荷車の車輪は片方が歪み、固定索も擦り切れていた


 あのまま長距離街道へ出れば、多分途中で壊れる


 だが修理する金がないのだろう


 レインはその荷車を見る


 もし今の王都運送組合があの荷車を修理出来れば、運び屋を一人潰さずに済む


 しかも単発で切り捨てるより、流れへ組み込んだ方が最終的な搬送量は増える


 つまり今必要なのは、ただ人を増やすことじゃない


 壊れた運び屋を、もう一度流れへ戻せる仕組みだった


 その瞬間、レインの中で何かが繋がったのだろう


 静かに口を開く


「修繕所を作ります」


 ミナが固まる


「……は?」


「荷車が壊れるたび外へ流すと、定期便全体の回転率が落ちます

 内部修理した方が維持効率が高いです」


 ギドが頭を抱える


「お前、どこまで広げる気だよ……」


 だがレインは止まらない


 運ぶだけでは物流は維持出来ない


 荷車も、搬送獣も、人間も、全部壊れる


 だから壊れたものを流れへ戻せる場所まで持たなければ、組織そのものが止まる


 そしてその瞬間、ミナはようやく理解した


 レインが作ろうとしているのは、ただの運び屋集団じゃない


 王都全体へ根を張り始めた、一つの物流そのものなのだと

ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!

もしよかったら感想などいただけると、とっても嬉しいです…!

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