第二十九話 運び屋ギルドと小金貨四枚銀貨二十三枚
工房区近くへ新しく借りた倉庫が動き始めてからというもの、レインたちの搬送は以前とは別物になり始めていた
今までは工房ごとに荷下ろし時間がズレるたび搬送列そのものが止まりかけていたのだが、一度倉庫側へ荷を流してしまう形へ変えたことで、街道側の定期便がほとんど止まらなくなっている
つまり王都へ着いてからも物流を分けて考えられるようになったのだ
鉱山区から王都までを走る大型便
そこから工房区へ流し直す小型便
さらに余った荷車で周辺依頼まで拾う補助便
以前なら全部ごちゃ混ぜだった流れが、今では役割ごとに分かれ始めている
しかもギドが加わったことで、小型便側の回転がかなり変わっていた
工房区内部は道が狭い
大型搬送車では入れない場所も多く、さらに工房ごとに受け取り時間まで違うせいで、大型商会ですら細かい配送は後回しにしがちだった
だがギドは、その細かい空白を埋めるのが上手かった
どの工房が朝早いか
どこが昼に受け取りを止めるか
どの裏路地なら荷車一台だけ抜けられるかまで覚え始めたせいで、以前は半日掛かっていた小型配送が今では倍近い速度で回り始めている
その変化を見ながら、ミナは倉庫奥で積み上がった荷箱へ腰掛けた
「……もうこれ、完全に運び屋集団だな」
倉庫の中では、ガルドが木箱固定を確認しながら新しく入った搬送員へ怒鳴っている
ベルンは街道側の搬送時間を調整し、リズは岩原馬へ水を与えながら脚具を見ていた
そしてギドは、工房区側から戻ってきたばかりなのか、汗だくのまま荷札を机へ置く
「北側工房終わり
あと南通り側が二件残ってる」
以前なら二人で全部走り回っていた流れが、今では役割ごとに分かれながら動き続けていた
その時だった
倉庫入口側で、小さな揉め声が上がる
「だから!!
個人運び屋だけじゃ限界あるって言ってんだろ!!」
若い運び屋だった
二十歳前後だろうか
古い小型荷車を引きながら、受付台代わりに置かれた机へ噛み付いている
相手は別の個人運び屋らしい
「大型商会へ入れねぇんだから仕方ねぇだろ!!」
「だから詰むんだよ!!
単発ばっか拾っても食えねぇ!!」
その声を聞いた瞬間、ギドが少しだけ苦い顔をした
多分昔の自分を見ているのだろう
大型商会へ入れない個人運び屋は多い
だが個人だけでは、定期便へ入れない
だから仕事が安定しない
結果、余った単発仕事を奪い合う形になる
積載場ではよくある光景だった
だが今のレインたちは違う
レインは揉めている二人を見る
そして倉庫全体を見回した
定期便
補助搬送
倉庫管理
小型配送
今の流れを維持するなら、もう偶然集まった人数だけでは足りない
必要なのは、“仕組み”だ
やがてレインは静かに口を開く
「登録制にします」
全員が止まる
「……登録?」
ミナが聞き返す
レインは頷いた
「定期便へ入る運び屋を管理します
荷車、搬送距離、積載量、街道経験を記録して、回せる仕事を分けます」
ギドが目を見開く
「待て、それって……」
運び屋を、個人じゃなく“組織側”として扱うということだった
しかもただ雇うんじゃない
誰がどの仕事へ向いているかまで管理し始めている
ミナは頭を抱える
「お前またヤバい方向行き始めたな……」
だがレインは止まらない
「単発仕事しかないから潰れます
流れへ入れれば維持出来ます」
その言葉を聞いた瞬間、入口で揉めていた若い運び屋たちが静かになった
多分理解したのだろう
今まで誰も、個人運び屋を“流れへ入れる側”として考えていなかった
だが今、目の前にいる男はそれを本気でやろうとしている
そしてその日の夜、倉庫入口には新しい木板が掛けられた
王都運送組合
まだ粗削りで、小さな倉庫から始まっただけの名前だった
だが後に王都全体の物流へ食い込むことになる組織は、その日そこで生まれたのだった
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