第二十六話 定期便構想と小金貨二枚銀貨九十六枚
鉱山区へ来てから数日が経った頃には、レインたちの鉄骨運搬車は積載場でも完全に顔を覚えられていた
最初の頃は、橋を動かした変わり者の個人運び屋として遠巻きに見られていただけだったのだろうが、今では積載場へ入った瞬間に搬送員たちが積載列を空け始め、商会員の方から帰路便や追加搬送の相談まで持ち込んでくるようになっている
つまりレインたちは、もう偶然稼いだだけの個人運び屋ではなくなり始めていた
特に変わったのは契約内容だった
以前までは、その場限りの単発搬送ばかりだったのに、今では次の便、その次の便という形で継続前提の話が増え始めている
王都へ鉱石を流す便だけではなく、帰路で工房資材を持ち帰る搬送まで繋がり始めたことで、以前みたいに荷車が空のまま走る時間がほとんど消え始めていた
つまり物流そのものが、“点”ではなく“流れ”へ変わり始めているのだ
ミナは積載場の端へ停めた鉄骨運搬車へ背中を預けながら、小さく息を吐いた
「……最近さ、仕事終わってる感じしなくね?」
レインは少し考える
以前なら、一つ運び終えれば契約終了だった
だから次の仕事を探しに行く必要があった
だが今は違う
帰路便まで埋まり始めたことで、王都へ戻る前に次の搬送予定が決まり、その流れのまま次便の話まで来るせいで、荷車を止める時間そのものが減っている
その時だった
積載場の奥から、以前契約した商会員が歩いてくる
「おう、ちょうど良かった」
男はレインたちの前まで来ると、手に持っていた契約板を軽く振った
「来週分の便、押さえたい」
ミナが止まる
「……来週?」
今までは、その日の契約ばかりだった
だが男は当然みたいな顔で続ける
「今のお前らなら回せるだろ
鉱山区から王都工房区までを三往復、帰路便込みで頼みたい」
レインは契約板を見る
つまり単発じゃない
決まった間隔で物流を流し続ける、定期搬送契約だ
しかも一件だけでは終わらないのだろう
周囲では別商会の人間たちまでこちらを見始めている
多分同じことを考えているのだ
一回限りじゃなく、継続して流したい
その時、レインは積載場全体を見回した
搬送車が止まるたび積載員たちが走り回り、荷下ろしが終わった列から街道側へ押し出され、さらに岩原馬の整備まで終わらせなければ次の便へ入れないせいで、物流というより巨大な歯車が休まず回り続けているみたいに見える
そして今、その流れへ入り込み始めた以上、二人だけではいずれ限界が来る
ミナも同じことを感じたのだろう
「……人、必要か?」
レインは少し黙る
大型商会が強い理由は、荷車の数だけじゃない
積載を回す者がいて、街道側を調整する者がいて、搬送獣の状態を見る者まで揃っているからこそ、物流そのものを止めずに維持出来る
だから定期便が成立するのだ
レインはようやく静かに口を開いた
「定期便を回すなら必要です」
商会員が目を細める
「雇うのか?」
「いずれは」
ミナが苦笑した
「なんか急に商会っぽい話になってきたな……」
だが実際そうだった
東部大橋では止まっていた物流を動かした
鉱山区では大型物流へ入り始めた
そして今レインが見始めているのは、一つの契約を取ることじゃない
荷を止めず、流れそのものを維持し続ける仕組みだった
レインは契約板を見ながら、小さく呟く
「……組みますか」
その声を聞いた瞬間、ミナは思わず吹き出した
「うわ、出たよ
またヤバいこと考え始めた」
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