第二十四話 鉱山都市と小金貨一枚銀貨百六十六枚
追加契約の話が決まってから、鉱山区側の空気は露骨に変わった
最初にレインたちへ向けられていた視線は、橋を動かした変な個人運び屋を見るものだったのだろうが、追加搬送を即座に飲んだ瞬間から、その目には明確な期待が混ざり始めている
理由は単純だった
今この鉱山区では、掘る量に対して運ぶ量が足りていない
だから積み上がる
山肌の各所では削り出された鉱石箱が積まれ続け、作業員たちは汗と煤で真っ黒になりながら次の箱を運び出してくるのだが、搬送車側が追い付いていないせいで、積載待ちの木箱がそこら中に並び始めていた
しかもここは山岳地帯だ
街道へ入れる大型搬送車の数にも限界がある
だから掘れるのに流せない
そのせいで鉱山区全体の空気が少しずつ詰まり始めているのだろう
「こっちだ!!」
商会員へ案内されながら奥へ進むと、巨大な積載場が見えてきた
岩肌を削って作られた広場の中央には鉱石箱が山みたいに積み上がっており、その周囲では搬送員たちが怒鳴り合いながら次々と木箱を運び続けている
金属臭い
いや、鉄そのものの匂いが空気へ混ざっている
地面へ落ちた鉱石片を踏む乾いた音へ混ざるように、搬送員たちの怒鳴り声や鉱石箱を引きずる重い音が広場中へ響き続けており、その間を岩原馬の低い鼻息がゆっくり通り抜けていくせいで、鉱山区全体が巨大な工房そのものみたいに脈打っていた
ミナは思わず周囲を見回す
「……すげぇ量」
「今朝だけで追加二百箱だ」
商会員が顔をしかめる
「なのに搬送車が足りねぇ
積載待ちしてる間にも次が来る」
つまり今ここでは、掘る側が勝ち始めているのだ
本来なら大型物流が調整するはずの流れが、掘削量に押し潰されかけている
だから追加搬送が必要になった
レインは積載場を見ていた
積み上がった木箱の大きさや並び方を確認しながら、どの順番で搬送車へ積み込まれているのか、さらに街道へ出る列がどこで詰まり始めるのかまで視線だけで追っているせいで、多分もう頭の中では帰路まで含めた物流全体を組み立て始めているのだろう
やがて静かに口を開いた
「積載方法を変えます」
商会員が止まる
「……は?」
「今の積み方だと車体後部へ重量が寄り過ぎます
坂道で軸負荷が偏る」
東部大橋を知っているからこそ、レインがこういう顔をした時に本当に計算しているのが分かってしまうのだろう
レインは鉱石箱を指差した
「大型箱を減らしてください
中型へ分割した方が結果的に速度が落ちません」
「いやでも積載量が――」
「山道で減速する方が時間損失が大きいです」
即答だった
しかも間違っていないのだろう
周囲の搬送員たちまで黙る
レインは続けた
「帰路も積載するなら、岩原馬へ疲労を残し過ぎない方が結果的に回転率が上がります」
鉱山区側の商会員たちが顔を見合わせる
普通の運び屋は、一便でどれだけ積めるかを考える
だがレインは違う
一日で何往復出来るかまで含めて物流を見ている
だから発想そのものが変わるのだろう
商会員の男は数秒黙ったあと、小さく笑った
「……マジで橋動かした奴なんだな」
レインは答えない
ただ鉄骨運搬車を見る
王都では目立つだけだった巨大な車体が、ここへ来てようやく本来の意味を持ち始めていた
重い荷を積めるからじゃない
重い荷を積んだまま、山岳物流を回し続けられる
そこが違う
やがて積載場の奥から、新しい鉱石箱が運び込まれ始める
鉱山区全体が鳴り続ける巨大な金属音みたいな熱気の中で、レインたちの大型物流契約は、さらに規模を広げ始めていた
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