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銀貨一枚から始まる物流革命 ~剣を持たない運び屋、世界の流れを支配する~  作者: 紅茶伝


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第二十三話 山岳契約と小金貨一枚銀貨百二十一枚


 王都を出発したのは、まだ朝靄が街道へ薄く残っている時間だった


 東門周辺では既に大量の搬送車が並び始めており、食料搬送や工房資材、それに地方商会の長距離便まで混ざり合っているせいで、朝の街道はもう一つの市場みたいな騒がしさになっているのだが、その列の中でもレインたちの鉄骨運搬車は明らかに異質だった


 巨大な車輪が石畳を踏むたび低い振動が足元へ響き、前を引く岩原馬は普通馬より頭一つ大きく、首筋から肩に掛けて盛り上がった筋肉の動きだけで積載重量の重さが伝わってくる上に、車体側面へ刻まれた東部大橋臨時搬送路の契約印まで目立っているせいで、周囲の運び屋や商会員たちが思わず視線を向けてしまうのも無理はなかった


「あれ例の橋の……」

「個人運び屋だろ?」

「マジで大型契約まで取ったのか」


 後ろからそんな声が聞こえるたび、ミナは苦笑を浮かべる


「有名人じゃん」


「効率が良かっただけです」


「普通そこまで行かねぇんだよ」


 だがレインは既に街道そのものを見ていた


 王都周辺の道はまだ整備されている


 石畳も均等に敷かれているし、搬送車同士が並走出来るだけの幅も確保されているせいで、大型物流が集中していても流れ自体は安定しているのだが、鉱山区へ近付くにつれて景色は少しずつ変わり始め、平地は減り、代わりに山肌へ沿うような斜面道が増え、岩地面を削っただけみたいな荒い街道が続くようになっていく


 つまり大型物流なのに運搬量が限られる理由が、走っているだけで分かる道だった


 昼を過ぎる頃には風まで変わり始めていた


 空気は冷たく、乾き、遠くからは鉱山掘削の鈍い振動が断続的に響いてくるせいで、王都周辺とは空気そのものが違うのが分かる


 その中を、鉄骨運搬車は重々しく進み続けていた


 普通の荷車なら車輪を取られて終わるような段差へ入っても、車体重量と補助術式が衝撃を逃がしているおかげで大きく跳ねることがなく、さらに岩原馬も重い積載量を引いたまま前脚で地面を掴むみたいに坂を登っていくせいで、ミナは途中から感心したように何度もその背中を見ていた


「……すげぇなこいつ」


「大型物流が使う理由があります」


 今までの荷車では無理だった


 長距離へ入る前に車輪が壊れ、積載量を増やせば速度が死ぬせいで、個人運び屋は結局短距離ばかりへ押し込まれる


 だがこの鉄骨運搬車は違う


 大量に積んだ状態を維持したまま長距離へ入り続けられるからこそ、大型商会は金を払ってでもこういう搬送車を確保するのだろう


 夕方前、ようやく鉱山区が見え始める


 山肌へ大量の足場が組まれ、削られた岩壁の各所から煙が上がり、運搬路には鉱石を積んだ搬送車が並び、煤で汚れた作業員たちが怒鳴り合いながら走り回っている光景は、王都の市場区画とはまるで別世界だった


 ここは物を売る場所じゃない


 岩山から価値を掘り出す場所だ


 鉄と煤と汗の匂いが空気そのものへ染み付き、地面へ落ちた鉱石片を踏むたび乾いた音が鳴る


「うわ……」


 ミナが周囲を見回したその時、遠くから商会員の怒鳴り声が飛んできた


「おい!!

 こっちだ!!」


 大型商会の商会員だった


 レインたちが鉄骨運搬車を停めると、男は積載部を見上げながら小さく頷く


「思ったより積めそうだな」


「戻り荷はどこですか」


 レインが即座に聞き返すと、男は少しだけ呆れたように笑った


「休むより先に仕事かよ」


「積載確認が先です」


 ミナは横で苦笑する


 多分レインの頭の中では、もう帰り便まで含めた利益計算が始まっているのだろう


 男はそのまま奥を指差した


「あっちだ

 ただ予定変わった」


「変わった?」


「鉱石量が増えた

 追加で積める運び屋探してる」


 その言葉を聞いた瞬間、周囲の空気が少し変わる


 追加搬送


 つまり追加契約だ


 しかも今この場で探しているということは、それだけ鉱山区側の物流量が溢れ始めているという意味でもある


 男は鉄骨運搬車を見る


「その積載量なら、まだ飲めるよな?」


 ミナがレインを見る


 レインは鉱石箱のサイズを確認しながら、積載量と帰路重量、それに岩原馬へ掛かる負荷まで頭の中で組み直しているのだろう


 やがて静かに頷いた


「積めます」

ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!

もしよかったら感想などいただけると、とっても嬉しいです…!

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