第十九話 空中搬送路と銀貨八十七枚
東部大橋の上には、妙な静けさが広がっていた
本来なら大型搬送車の車輪音と、商会員たちの怒鳴り声で埋まっている場所だ
だが今は違う
橋の中央支柱が沈み込んでから、大型搬送車は完全通行禁止になっている
だから聞こえるのは、川風と橋板の軋みだけだった
その巨大橋の上で、レインは橋の外側を見ていた
「まず支柱を追加します」
管理局の男が眉を寄せる
「追加?」
「橋の入口と出口だけでいい
木組みで構いません」
レインは橋の外側へ走る補強索を指差した
「ここへ搬送索を通します」
ミナが横から橋を見る
ようやく少し分かってきた
橋の上を荷車で走るんじゃない
橋の横を使うのだ
管理局の男も気付いたのだろう
「……荷を吊るすのか」
「はい」
レインは帳簿へ図を書いていく
「大型荷箱をそのまま運ぶから橋が耐えられない
なので荷を小箱へ分割します」
さらに線を書く
「搬送索は十本
一列だけでは物流量が足りません」
つまり。
一本のロープで少しずつ運ぶんじゃない
十本同時に動かす
橋そのものを、空中搬送路へ変えるのだ
ミナは橋を見る
数百メートル先まで続く巨大橋
そこへ何本もの搬送索が通れば、確かに荷車を走らせなくても物流は流せる
「待て」
管理局の男が聞く
「人はどうする
途中で絡まったら終わりだぞ」
「だから人は運ばせません」
レインは即答した
「橋へ上げるのは監視役だけです」
荷箱を担ぐ人間は使わない
必要なのは、搬送索の張力を見る者や、滑車の歪みを直す者、それに橋板の沈み込みを監視する者だけだった
つまり、運ぶための人ではなく、流れを維持する人だけを置く
だから橋へ掛かる負荷が激減する
ミナが少し感心した顔になる
「……橋を道じゃなくしてんのか」
「はい」
レインは頷いた
「道として使うから危険なんです」
大型搬送車は重い
しかも橋の中央で速度が落ちる
だから同じ場所へ負荷が掛かり続ける
だが今回は違う
荷は吊るして流す
橋の上を大量の人間が歩くわけでもない
つまり橋板へ、重さが居座らない
管理局の男が低く呟く
「……だから耐えるのか」
「完全復旧までは持ちます」
レインは橋を見る
「物流量も、大型搬送車よりは落ちます
でも止まるより遥かにいい」
その時だった
後ろで騒ぎが起きる
「おい待て!
本気でやる気か!?」
灰狼商会の男だった
後ろには護衛と商会員が並んでいる
男は橋と帳簿を見比べながら顔をしかめた
「そんな仮設搬送路が長期間持つわけねぇだろ」
だがレインは落ち着いていた
「持たせます」
「どうやって」
「止めない」
男が眉を寄せる
レインは橋の上を見る
「荷を小分けにし、常時流し続ける
途中停止を減らせば、搬送索への負荷は分散出来ます」
さらに続ける
「索の一本を休ませている間、別の列を動かす
つまり十本全部を常時最大負荷にはしません」
ミナが小さく息を吐く
ようやく見えてきた
レインは運ぶことを考えていない
橋へどう負荷を残さないかを考えている
だから発想そのものが違う
管理局の男は橋を見上げた
物流が止まったせいで、王都全体の空気までどこか重くなっていた
けれど今、その数百メートルの巨大橋の上空へ、新しい搬送路が張られようとしている
橋を渡れなくなったのなら、その上を流してしまえばいい
やがて管理局の男は、小さく息を吐いた
「……人を集める」
その瞬間だった
止まっていた王都物流が、少しずつ動き始めたのは
消防士の方々をみて思い付きましたかっこいいですよね
ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!
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