第十八話 東部大橋と銀貨八十七枚
東部大橋は、王都東側の物流を支える巨大搬送路だった
橋の長さは数百メートル
中央部は川幅そのものが広く、橋の真ん中へ立てば風に押される感覚があるほど高い
だからこそ、この橋が止まる影響は大きかった
今も橋の手前には、荷を積んだ搬送車が何十台も並んでいる
荷台へ積まれているのは、止めれば困るものばかりだった
王都で不足し始めた保存食料はもちろん、工房区で加工待ちになっている金属材や、時間が経てば品質が落ちる薬草類まで混ざっているせいで、商会員たちは誰も落ち着いていない
この橋が止まれば、その後ろ全部が止まる
だから空気そのものが焦っていた
「……これ全部止まってんのか」
ミナが呟く
管理局の男が低く頷いた
「東側物流の半分だ」
橋の中央付近を見る
大型搬送車が無理に入ったせいで、中央支柱が沈み込み、橋板まで歪み始めている
人だけなら通れる
だが荷を持った瞬間、危険度が跳ね上がる
しかも橋が長すぎる
人力で担いで往復するには距離がありすぎた
つまり、頑張って運ぶでは物流量が足りない
だから王都全体が詰まり始めている
レインは黙って橋を見ていた
風で揺れる封鎖布
橋の両端へ立つ巨大な固定柱
そして側面へ走る補強索
その時だった
レインの視線が止まる
「……契約を変更してください」
管理局の男が眉を寄せる
「変更?」
「成功報酬を追加します」
ミナが横を見る
まだ方法すら話していない
なのにレインは、先に契約を動かそうとしていた
管理局の男もそれに気付いたのだろう
「……お前、通す方法があるのか」
「あります」
レインは即答した
「ただし今回の依頼だけでは終わりません」
橋を見る
止まった物流
詰まり続けている搬送車
そして、この先も増え続ける荷
「一度流れを再開すれば、他商会も使うことになります」
つまり
今回だけの仕事じゃない
橋が完全復旧するまで、この方法そのものが物流路になる
管理局の男は数秒黙ったあと、低く聞いた
「……条件は」
「橋使用契約料の三割」
周囲の空気が変わる
商会員たちがざわついた
「三割だと?」
「正気か……?」
だがレインは変わらない
「物流が止まれば王都側の損失はもっと大きい
違いますか」
管理局の男はレインを見る
試している目だった
「失敗したら?」
「受け取りません」
「成功したら?」
「橋復旧までの搬送契約三割を頂きます」
ミナはそこでようやく理解した
レインは高額依頼を受けようとしているんじゃない、止まった物流そのものへ噛みに行っている
だから契約規模が違う
管理局の男はしばらく黙っていたが、やがて小さく息を吐いた
「……いいだろう」
契約板が光る
魔法陣が展開され、新しい契約条件が刻まれていく
橋使用契約料三割
期間は東部大橋完全復旧まで
周囲の商会員たちが騒めき始める
灰狼商会の男ですら、僅かに表情を変えていた
レインはそこで初めて橋を見る
数百メートルの巨大橋
沈み込んだ中央支柱
止まった物流
そして橋の外側へ伸びる補強索
全部を確認したあと、静かに口を開く
「橋を“渡る”必要はありません」
ミナが嫌そうな顔になる
「お前、その言い方した時絶対ヤバいこと考えてるよな」
だがレインは真面目だった
「物資だけ流します」
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