↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀貨一枚から始まる物流革命 ~剣を持たない運び屋、世界の流れを支配する~  作者: 紅茶伝
二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/60

第十七話 大橋契約と銀貨八十七枚


 王都へ戻ってから、一ヶ月が過ぎていた


 雨季は完全に抜け、崩れていた旧街道も少しずつ元の流れを取り戻し始めている


 最初の頃みたいな“復旧直後だけの高額依頼”は減った


 だがその代わり、レインたちは確実に仕事を増やしていた


 危険地帯を避ける迂回路の選定


 荷崩れしやすい区間での軽量搬送


 夜間しか通れない補給路の管理


 そういう、“普通の運び屋が嫌がる細かい仕事”を積み重ね続けた結果、少しずつ名前が広がっていた


 無茶を通す運び屋ではなく、通せる道を見つける運び屋として


 だから最近では、商会側から直接声が掛かることも増えている


 その結果として


 宿の机へ並ぶ銀貨は、とうとう八十七枚まで増えていた


 ミナは椅子へ座ったまま、机の銀貨をぼんやり見つめる


「……いや、増えすぎだろ」


 銀貨八十七枚


 最初に銀貨十五枚で死にそうになっていた頃を思えば、もう笑うしかない額だった


 しかもミナに払う薬代等を差し引いてもこれだけ残っている


 レインは帳簿へ数字を書き込みながら、小さく頷く


「予定より七日早いですね」


「アンタの“予定”怖ぇんだよほんと」


 ミナは深く息を吐く


 ここ最近のレインは、ほとんど毎日街道情報を更新していた


 どこの橋が修復されたか


 どこの商会が護衛を増やしたか


 どこの宿場で荷滞留が起きているか


 全部帳簿へ書き込んでいる


 最初は意味が分からなかった


 だが今のミナには少し分かる


 レインは“荷”を見ているんじゃない


 流れを見ている


 王都の物流がどこで詰まり、どこで金になるかを読んでいるのだ


 その時だった


 宿の入口が静かに開く


 入ってきたのは、一人の男だった


 黒い外套


 だが灰狼商会みたいな威圧感はない


 むしろ妙に静かだった


 宿の空気が少し変わる


 古参の運び屋たちが、男の顔を見た瞬間だけ口を閉じた


 ミナが小さく眉を寄せる


「……誰だ?」


「王都中央運搬管理局」


 レインが先に答えた


 ミナが固まる


「なんで分かんだよ」


「外套の留め具です」


 男の胸元には、歯車と橋を組み合わせた紋章が刻まれていた


 王都中央運搬管理局


 王都の大型物流路と橋梁契約を管理している部署だ


 つまり。


 個人運び屋が普通は関わらない場所だった


 男は宿を見回したあと、真っ直ぐレインの机へ歩いてくる


「運び屋レインか」


「そうですが」


「依頼だ」


 宿の空気が止まる


 管理局から直接依頼が来ること自体が異常だった


 男は小さな契約板を机へ置いた


 青白い魔法陣が浮かび上がる


 そして表示された報酬額を見た瞬間、ミナが固まった


「……は?」


 銀貨五十八枚


 宿の運び屋たちもざわつく


 普通じゃない


 個人運び屋へ投げる額じゃなかった


 男は静かに続ける


「東部大橋補給契約だ

 三日以内に物資を通したい」


 ミナが顔をしかめる


「東部大橋って、まだ封鎖中じゃ……」


「だから誰も受けない」


 男は淡々と答える


「橋自体は落ちていない

 だが中央支柱が歪んでいるせいで、大型搬送車を通すと崩落の可能性がある」


 つまり。


 大型商会が動けない


 だから止まっている


 だが男はそこで、レインを見る


「だが、お前は旧街道を通した」


 宿の空気が静かになる


「崩落地形での荷重分散と搬送判断が出来るなら、通せる可能性がある」


 ミナは反射的にレインを見る


 普通なら断る


 実際、銀貨五十八枚という額自体が、“危険すぎるから誰もやらない”証拠だった


 だが


 レインはもう橋の構造を考えていた


「支柱歪みは中央だけですか」


「北側二本」


「通行制限幅は?」


「片側のみ通行可能」


「橋板交換は?」


「応急補修済み」


 質問が速い


 管理局の男も少し目を細める


 ミナはそこでようやく理解した


 レインは最初から、“通れるかどうか”を計算している


 怖がっていない


 可能か不可能かを見ている


 男が去ったあと、ミナは思わず聞いた


「……お前、行けんのか?」


 レインは帳簿へ橋の構造を書き込みながら、小さく頷く


「大型搬送車は無理です」


「うん」


「重量が集中するので」


 そこまでは分かる問題はその先だった


 レインは続ける


「でも、今の荷車なら通せます」


 ミナが止まる


 レインは橋の絵へ線を書き込む


「橋が崩れるのは、荷重が一点へ集中するからです

 なら荷を分散させればいい」


「……分散?」


「橋の中央だけ、人力搬送へ切り替えます」


 ミナの目が開く


 大型商会は、“大型搬送車で通れないから無理”と判断した


 だがレインは違った


 最初から、“大型搬送車を使わなければいい”で考えている


「橋へ掛かる重量を減らし、荷車と人力を分けて通す

 支柱へ負荷を集中させなければ崩れません」


 ミナは数秒黙ったあと、呆れたみたいに笑った


「……だからお前だけ受けられるのか」


 レインは静かに契約板を見る


 銀貨五十八枚


 成功すれば、とうとう鉄骨運搬車へ手が届く


 そしてその瞬間


 個人運び屋だったレインたちは、次の段階へ進むことになるのだろう

ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!

もしよかったら感想などいただけると、とっても嬉しいです…!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。