表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したけど、ここガチで中世ヨーロッパだった件。  作者: みっちーザッキー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/22

第9話『血と泥 ― 最初の死』

灰の村を離れた三人は、

“信仰”ではなく“国家”という巨大な力の中に踏み込んでいく。


祈りの時代は終わった。

しかし、秩序の時代もまた、容赦なく人を削っていく。


今回はその象徴として、

悠真が この世界で初めて「死」と真正面から向き合う 回。


では、本編をどうぞ。


夜明けの霧の向こう――

ルヴァンの城壁は、まるで灰を固めて作った山脈のようにそびえていた。


高さは家三軒分、幅は馬車がすれ違えるほど。

その足元には、人が作った“第二の街”が広がっていた。


焦げた荷車、裂けた天幕、血のついた布。

矢の刺さったままの盾が土に突き立ち、

行き場を失った人々が、灰色の野営地を作っている。


城門の奥では、さらに大きな火が煙を上げていた。

鍛冶の火、窯の火、調理の火――

灰の村とは桁違いの“熱”だ。


悠真はその光景に息を呑んだ。


(ここは……都市じゃない。

 もう戦争に飲まれた“巨大な工場”だ)


ナタリーが短く言う。

「入るわよ。遅れたら列から外れる」


列――国家が作った“新しい祈り”だった。



■ 行軍列の中で


夜明けの霧の中、列がぎしぎしと軋むように動き始めた。


十名の人足、二十名の荷運び、そして傷病兵。

弱い者から順に抜け落ちる。


兵士が怒鳴った。

「倒れた者は運ぶな! 列を止めるな!」


前方で男が崩れた。

痙攣し、白目を向き、泥の中でもがいている。


リナが叫ぶ。

「まだ息があります! 手当を――!」


兵士は冷たく言い捨てた。

「関わるな。今のこいつは“荷”だ」


倒れた者が積まれる荷車の匂いは、

鉄と血と、もう少しで死ぬ肉の匂いが混じっていた。


悠真は唇を噛んだ。

(人は……こんな扱いをされるのか)


木札が破り捨てられる音が響く。

帳簿からその男の名が消える――

“生きた証”を剥がされる瞬間だった。



■ ミシェルの死


列の後方で、乾いた悲鳴が上がった。


振り返ると、

昨日まで隣にいた若い補助兵――ミシェルが胸を押さえて倒れていた。


矢が刺さっていた。

折れた矢じりは黒く、血は泥に吸われていく。


リナが震える声で言う。

「こんな……街道で? 戦場じゃなくて……?」


ベルナールが静かに答えた。

「逃げ遅れた敵の伏兵だ。

 戦は、前も後ろも関係ない」


ミシェルは震える唇で言った。

「ぼ、僕……まだ……」


悠真は彼の手を握る。

その温度が、指の中で消えていく。


ミシェルの木札が、兵の手で破られた。


その瞬間、ナタリーが呟いた。


「――『あなたがたの髪の毛までも一本残らず数えられている』

 『恐れるな。あなたがたは多くの雀より、はるかにまさっている』」


兵士が鼻で笑う。

「神が数えてようが、帳簿から名が消えたら同じだ」


ナタリーは睨む。

「帳簿は人が書く。でも、命は……神が見てる」


ベルナールが続けた。

「どちらでもいい。

 問題は“立てるかどうか”だ。立てぬ者は死ぬ」


その現実が、冷たく列を締めつける。



■ 最後の場面 ― 悠真の初めての「記録」


夕暮れ。

ルヴァンの外郭で、悠真は膝をつき紙を開いた。


血で濡れた手で、震える筆を持つ。


『ミシェル・ロワ

 年十五

 胸部に狩猟矢

 死因:失血』


ナタリーが静かに見守る。


「……書ける?」

「書きます。

 生きた証を、誰かが残さないと……」


リナが涙を拭きながら言った。

「ミシェルさん……笑ってくれてたのに……」


ベルナールが焚き火越しに言った。

「それでいい。

 “生かすために書く”と言ったな。

 なら、死も書け。

 書く者だけが、灰の上で立てる」


悠真は筆を強く握りしめた。


(これが……俺の“最初の死”だ)


火が揺れ、血の匂いと灰の匂いが風に混ざる。


その夜、悠真は初めて――

現実を記録する人間に変わった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


第9話では、

•ルヴァンの“戦争都市化”

•国家が作る“行軍列という支配”

•そして悠真が初めて記録する「死」


を中心に描きました。


ここから悠真は、

ただ“生き延びる者”ではなく、


人の生と死を書き留める存在(記録者)

へと変わっていきます。


【史実補足】


◾️「行軍中の死者処理」について


徴発で集められた農民・流民・罪人は、

軍の正式な構成員ではなく “補助労働力(人足)” として扱われた。


そのため…


■ 倒れた者は「救助」ではなく「排除」の対象


・医療班は正式兵にしかつかない

・人足は “代わりがいくらでもいる” という前提

・列を止めることが最大のタブー


歴史書では、倒れた者は

「corps jetés(投げ捨てられた体)」

と記されることがあり、

回収すらされなかった例が多い。


今回9話で描いた「列から外す=死者扱い」は、

史実として正確。




② “狩猟矢”による襲撃


中世ヨーロッパでは、

正規軍が持つ軍用矢とは別に、


■ 村の民兵・猟師が持つ


“短い狩猟矢(broadhead)” が一般的だった。


特徴:

・先端が三枚刃で肉に食い込む

・殺傷力は低いが「抜けない」

・毒草を塗る地域もある

・鉄不足で木製のままの矢も存在


行軍している補助隊列は、

盗賊化した敗残兵や農民の奇襲をよく受けており、

歴史的に**“民間矢での死者”**は非常に多い。


ミシェルの死因として非常にリアル。



③ 軍隊内の“雑役階層”


中世軍の中には明確な階層があった。

1.正規兵

2.傭兵

3.軍属(鍛冶・医療・写字)

4.従軍売春婦・奴隷

5.そして最下層が 人足(荷運び・掘削・運搬)


人足は “死んでも補充が効く” とみなされ、

合同墓地すら作られないことも多かった。


悠真が見た「列の小さな死」は、

まさにこの階層差の象徴。



④ 聖書が現場兵士を正当化する理由


ナタリーが引用した聖句:


「一羽の雀さえ、あなたがたの父のお許しがなければ

地に落ちることはない。」

(マタイ 10:29–31)


これは当時の兵士にも非常に都合がよく使われた。


なぜか?


・死も、倒れることも、神の計画

・殺す側も、殺される側も「神が数えている」

・罪悪感を軽減できる

・軍司祭が兵士を安心させるための常套句


つまり、


“神の摂理だから仕方がない”


という 残酷な正当化 にも使われていた。


第9話で兵士が理屈ぽく反論したのは、

この歴史的背景そのまま。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ