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転生したけど、ここガチで中世ヨーロッパだった件。  作者: みっちーザッキー


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8/22

第8話 徴発 ― 血の契約

灰の村を離れ、三人は“国家”という新しい支配の中へ踏み込む。

神の沈黙のあとに残ったのは、命令と帳簿。

信仰の代わりに秩序が、祈りの代わりに“列”が人を縛る時代――。


それでも悠真たちは、その中で

“人として生きる方法” を探そうとしていた。


今回は、国家と戦争の入り口となる回。

彼らが初めて“列の中の命”と向き合う場面である。


それでは本編をどうぞ。


■ 行軍列 ― 神に代わる秩序


夜明けの空は灰色に曇り、冷えた風が街道の霜を砕く。


「十名の人足、前へ!」


兵士の怒声が響くたび、列がぎしぎしと一歩ずつ進む。

鎖が鳴り、足音が泥を叩く。


悠真は列の中、肩に荷袋をかけて歩いていた。

腰を締める縄が重い。

――まるで、この世界そのものが自分を縛っているようだった。


背後でリナが咳を漏らす。


「……寒くて、足の感覚がないです」


ナタリーは迷いなくマントを外し、リナの肩にかけた。


「生き延びるのよ。立ってる限り、まだ生きてる」


その言葉に、悠真はふと

“誰かを支える” という姿勢の奥で、エマの影を感じた。


(……似てるな、あいつに)


その直後、列の先で若い男が崩れ落ちた。

荷車が止まり、兵が無表情で男を掴んで放り投げる。


「おい、彼はまだ息を――!」


悠真が声を張るが、隣の兵が遮った。


「戻る奴はいねぇ。あれはもう“荷”だ」


鉄の匂いを含んだ風が冷たく吹く。

荷車の上で、別の体がかすかに動く。


リナが震える声を出す。


「……生きてる人を運ぶなんて……」


ナタリーは唇を噛みしめた。

だがその横顔には微かな迷いがあった。


「これが秩序よ。倒れた者が“いる”と、列が止まるから」


悠真は拳を握りながら、横目でナタリーを見た。


(優しいのに……自分を縛る鎖が多すぎる)


その姿が一瞬、エマと重なった。


(同じだ……人のために自分を削るところが)


名簿の紙が破られ、倒れた男の名が消される。

その乾いた音が、列の残酷さを告げていた。



■ 昼の列 ― 信仰なき赦し


昼。

白く霞む空の下、鎖の音が静寂を裂く。


ナタリーが歩きながら呟いた。


「祈りは罪を赦す。でも秩序は“数”で人を赦すのね」


悠真はうなずく。


「国家って、そういう“神”なのかもしれません」


そこへ黒衣の影が近づく。


ベルナール・ド・マレン。

かつて悠真を焼こうとした異端審問官。

今は軍の神父として列に同行していた。


「審問官が兵の列に?」


「神は沈黙した。だから今は、人が神を演じる」


「……命令が信仰になったわけですか」


ベルナールの目が細まる。


「どちらにせよ、誰かが“信じたふり”をしなければ列は崩れる」


リナがそっと言う。


「……信じたふりでもいい。誰かを救えるなら」


その言葉にベルナールも珍しく頬を緩めた。


だがナタリーは、その会話を横で聞きながら

横目で悠真を見る。


(……この異国の青年は、なぜこんな言葉を知っているの?

 どこかで聞いたような……誰かの声に似ている……)


胸の奥で、小さな既視感が灯った。



■ 焚き火 ― “生かすために書く”


夕刻。

焚き火が赤く揺れる中、ナタリーが灰を指でつまんだ。


「灰って、不思議ね。燃えた証なのに……まだ温かい」


悠真は火を見ながら言う。


「火も、人間も同じですよ。

 燃え尽きても……意味が残るなら、それは生きてる」


ベルナールは静かに笑い、紙と筆を差し出した。


「なら書け。“生かすために”な」


悠真は震える手で筆を取り、紙に刻む。


――『生かすために書く』


焚き火の光が文字を照らした。


ナタリーはその様子を見つめ、胸の奥がざわつく。


(……誰かを救いたいと言いながら、

 こんなふうに自分を削る人を……私は知っている)


エマの横顔が、過去の光景が

ナタリーの記憶の底をかすめる。


「あなた……どこかで……」


小さく呟いたその声は、焚き火にかき消された。


国家が神に取って代わり、

秩序が祈りを支配し始めた世界。


それでも悠真たちは

「人の火」 を探している。


ナタリーの優しさ。

リナの純粋さ。

ベルナールの皮肉と信仰。


それぞれ異なる形で、まだ息をしている。


次回、第9話「血と泥 ― 最初の死」

“生かすために書く”その手で、悠真は初めて“死を記録”する。

信じるとは何か――その問いが、再び燃え上がる。




【史実補足】


● 従軍労働徴発(corvée militaire)

13世紀フランスでは、農民・罪人・流民を強制的に徴発して

人足として戦場へ送った。


● 倒れた者の扱い

・医療班は正式兵のみ

・人足は“代わりがいくらでもいる”とされた

・倒れた者は救助されず、列を乱すため排除

・帳簿から名が抹消=“死者扱い”


● 国家の始まり

信仰が弱まると、“命令”と“帳簿”が人を動かす新たな支配となった。

これが近代国家の原型ともいわれる。


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