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13-4・ホブゴブリン戦

「真田さん、逃げようっ!」

「えっ?なんで?」

「いいから早くっ!」

「でも剣と荷物がっ!」


 荷物袋と真田さんの剣は、戦闘開始前に立っていた場所に置きっぱなし。だけど、回収に行く時間が惜しい。


「嫌な予感しかしないんだっ!」


 真田さんの手を掴んで引っ張り、ゴブリンがいる方向の反対側に逃げる!緊張で、僕の手の平は汗でベッタリになっている。掴まれてる真田さんは「気持ち悪い」って感じているかもしれない。でも、その苦情はあとで聞くから・・・放置した荷物は後日回収するから・・・今は僕の要求に従ってほしい。


「・・・あっ!」


 僕の嫌な予感は当たっていた。そして、僕の判断は間違えていた。

 逃げ出した方向に、僕よりも背の高い怪物が立っている。立ち止まって生唾を飲み、ゴブリンよりも凶悪な顔を見上げる。


「ホブ・・・ゴブリン・・・だ」


 同種族の別個体ってことくらいは解っている。でも、あの姿形は忘れられるわけがない。力石先生は、アレに殺された。僕は、アイツに「この世界の恐ろしさ」を体験させられた。


「レンタル発動・・・リターン」


 真田さんの手を握ったまま、いつでも現実世界に逃げられるように、特殊能力(レンタル)を発動させてリターンを待機モードにする。


「真田さん・・・僕から離れないで」

「うん」


 掴んでいる手から、真田さんの硬直が伝わる。真田さんも緊張しているのが解る。僕1人だったら悲鳴を上げて逃げていただろう。身1つなら無事に逃げられる可能性は高い。でも、真田さんを守るって決めたんだ。守れなくて悔しかったんだ。

 自分で決めたことから逃げたくない。それをやってしまったら「人としてダメ」になってしまう気がする。


「絶対に死なせないから、僕を信じて」

「うん」


 ホブゴブリンの接近を警戒しながら、ゆっくりと平原の方向に移動する。ホブゴブリンは横移動をしながら少しずつ間合いを詰めてくる。囲まれていれば、平原への脱出はできない。その時はリターンを発動させる。だけど、ゴブリンが仲間を呼んでから、そんなに時間が経っていない。多分、まだ包囲はされていない。


「慌てないで・・・ホブゴブリンの動きに集中して・・・」


 10分くらいなんだろうけど、凄く長く感じる時間が経過して、木々の間から平原が視界に入る。ここからなら、一直線に平原まで抜けられる。


「走れっ!」 


 真田さんの腕を引っ張り、枝葉を押し通って平原に脱出!睨み合いの均衡が崩れ、ホブゴブリンが雄叫びを上げて接近をしてきた!


「僕が防ぐっ!その間に町まで逃げてっ!!」


 30mくらい走ったところで掴んでいた手を離して真田さんの体を押す!真田さんの脚力と体力があれば、西都市(セイ)まで走り抜ける!あとは、僕が可能な限りの時間を稼げば済むだけ!


「尊人くんっ!」


 振り返り、盾を正面に翳して、森から出て来たホブゴブリンに向かって勢い良く突進をする!

 ホブゴブリンの全体が見えるようになって初めて解った!奴は革の鎧を装備して、先端にトゲトゲ鉄球の突いた棒=モーニングスターを持っている!

 あんな鎧を着ていたら、隙間を狙わなきゃダメージを通せない。あんな重そうな武器で殴られたら、一発で潰されてしまいそうだ。


「わぁぁっっっっっっっっ!!!」


 逆上しているわけではない。リターンで逃げるのが正解ってことくらいは解っている。でも、黒騎士から逃げて、青騎士に負けて、智人(トモ)に助けてもらって泣いて・・・そんな情け無い姿ばかり見せたくない。

 力石先生の仇を討ちたい。柴田くんの勇気が欲しい。柴田くんは「ホブゴブリンと戦いたい」と言っていたけど、その機会を得られなかった。僕が勝てれば、柴田くんなら絶対に勝てたはず。それを証明したい。


「逃げるばっかりなんて嫌だっっ!!

 僕はっっ!!強くなりたいんだっっっっっっっ!!!」


 渾身のシールドアタックを放った!・・・が、ホブゴブリンが振り抜いたモーニングスターが盾に着弾して弾き飛ばされ、地面を転がる!

 だけど、奴の強さは知っている。この程度じゃ驚かない。初日の交戦では、怒り任せに振った剣の一撃をアッサリと弾かれた。


「弾き飛ばされただけっ!ダメージは受けていないっ!」


 直ぐに体勢を立て直して剣と盾を構える。盾を握ってる手がジンジンと痺れる。でも、盾を持つ握力は残っている。


「まだまだ戦える!」


 ホブゴブリンは大きな体格とパワーでゴブリンを牛耳ってるだけ。力によるゴリ押しだけで、知能は高くない。魔法の類いは使えない。盾を使って致命傷を受けないように戦えば、必ず隙を見付けられるはず。


「えっ!?」


 背後から音がして、振り返った僕は青ざめる。肝心なことを忘れていた。敵はホブゴブリン1人だけではない。奴を呼んだゴブリンもいた。ホブゴブリンに意識を集中しすぎて、ゴブリンの接近を許してしまった。


「くっ!」


 慌てて剣を振るって牽制する!切っ先がゴブリンが振り下ろした斧とぶつかって、小柄なゴブリンを弾き飛ばした!


「ガルルルッ!」


 だが今度は、ホブゴブリンへの警戒を怠っていた!接近してきたホブゴブリンが振り下ろしたモーニングスターを辛うじて盾で防ぐ!だけど、痺れた片手で持っていた為、衝撃で盾を叩き落とされてしまった!ホブゴブリンが、防御力を失った僕を見下ろしながら、モーニングスターを振り上げ、両手で柄を掴む!


「ヤバいっ!」


 僕の満足に振れない剣の技術だと、盾無しでは戦い抜けない。ホブゴブリンの一撃で、剣を弾き飛ばされ、頭を砕かれる・・・そんな終焉が脳裏を過ぎる。

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