12-1・魔力発揮のコツ
気持ちを切り替え、思案の末、バクニーさん達に「軽微な魔力に干渉するアイテムとは?」と聞いて、道具屋から魔法の松明を2本買ってきた。
夕食後に真田さんと一緒に庭に出て、松明を一本ずつ持つ。
「だいぶ雑な勉強会になっちゃったね」
「あたしは尊人くんの案、結構良いと思ったよ。
魔力が何なのか解らないまま、
バクニーちゃん達に教えてもらうよりはマシでしょ」
言うまでもなく、僕達は、今から松明でチャンバラをするわけではない。軽微な魔力に干渉するアイテム=魔法の松明を持って何でも良いから手当たり次第に念じる。それで火が点いたなら、その時に「何を念じてどんな行動をしたか?」を省みる。その「何を念じてどんな行動をしたか?」の中に、魔力発揮に繋がるヒントがあるはずだ。
「先に火を点けた方が勝ちね」
「えぇっ?なんか賭けるつもりなの?」
「負けた方が勝った方の肩をマッサージっ!」
「えぇぇっっ!!!?」
「よ~~~いっ!」
僕は「鼻の下を伸ばしてイソイソと真田さんの肩を揉む僕」を妄想してしまう。
ボンッ!
「スター・・・・・と?・・・・・・・・・・・・・はぁ?」
真田さんがスタートの合図を言い終わる前に、僕の持ってる松明の先端に火が灯されてしまった。これ、僕の勝ち?それともフライングで僕の負け?
「み、尊人くんが魔力使ったってこと・・・だよね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「凄いじゃん!どうやって火を点けたの?」
「・・・わ、わかんない」
「特別な何かを念じたとか?」
「・・・わ、わかんない」
松明に火を点ける意志が無いのに火が点いちゃったので、僕にも説明できません。強いて言えば「真田さんに対して、ちょっとイヤラシいことを考えた」なんだけど、もちろん言えるわけがありません。
「あたしの松明でもう一回試してみてよ!
今のが偶然じゃなくって、こっちにもちゃんと火を点けられたら、
この勝負は尊人くんの勝ちでいいよ」
真田さんが松明を差し出したので、「ちょっと待って」と止めて気持ちを落ち着かせる。「卑猥なことを考えれば火が点くよ」とは説明したくないので、次は「魔力を発する」をちゃんと意識して松明に火を点けなければならない。
「じゃ・・・貸して」
気持ちが落ち着いたので、真田さんの松明を受け取って握り締める。声が聞こえたので屋敷側を眺めたら、窓の内側で智人とシリーガルさんが会話をしていた。
「あっ!今日はシリーガルさんを煽って徳川くんに嗾けちゃった。
だから、今日も尊人くんのところに徳川くんは来ないと思うよ」
「・・・へ?」
智人が「バクニーさんは受け身」で「シリーガルさんは積極的」と自慢していたことを思い出す。
「やべっ!」
ボンッ!
まだ何も念じていないのに、松明に火が灯されてしまった。真田さん、ワザと僕を卑猥な妄想に導いていない?
「早っ!尊人くん、完璧にコツを掴んでるじゃん!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「どうやって火を点けるの?」
「・・・わ、わかんない」
「特別な呼吸法とか?」
「・・・わ、わかんない」
コツは解りました。強いて言うなら呼吸は若干荒くなります。
「尊人くんがこんなに早くクリアするとは思ってなかった」
それは褒めてるの?それとも「僕にはできるわけが無いと思ってた」と貶してる?ちなみに僕自身の感想は後者ね。
「松明、もっと買っておけば良かったね」
道具屋から松明を50本買ってきて、全てに火を灯す自信があります。しかし、上手に説明をする自信は一切ありません。
「まだ、道具屋さんやってるかな?もう一回、買いに行かない?」
「う、うん・・・いいよ」
怖くて松明に触れたくない。買って戻って来るまでの道中で点火をしてしまいそうだ。
「でも、買うのは真田さんの松明だけにしようね」
「うわぁ~・・・尊人くんは、もう松明で練習する必要無いって感じ?
あたし見下されてるぅ~~~~!」
「そんなことないってばぁ」
その後、魔法の松明を1本購入してきて真田さんが頑張ったけど、火を灯すことはできなかった。
「んん~~~・・・悔しぃ~~!!なんであたしはできないのぉ~~~~!!?」
当たり前なんだろうけど、真田さんむくれてる。僕には「真田さんはマセてる言動をするけど思考が健全」ってことが解りました。
「ねぇねぇ、尊人くんなら、バクニーさん達みたく、
手でモヤモヤ(質量のある空気)作れるんじゃない?」
作れるかもしれない。でも作る為に卑猥な妄想をしなきゃなので、チョットやりたくない。
「今はやめとく・・・。
でもその代わりに『どうやったら火が点いたか』を頭の中で整理して、
明日にはちゃんと説明できるようにするね」
「絶対だよっ!」
拗ね気味の真田さんの御機嫌を取りつつ、その日は解散をして、それぞれの部屋に戻った。ただし、僕は直ぐには寝ない。明日、真っ当な説明をできるように、掌で圧縮空気を作る練習をする。
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朝食後、バクニーさんの前で、掌の間に魔力を作って見てもらう。
「どうですか?できてます?」
昨日は、自室に戻ってから魔力の完成までに4時間くらいかかった。魔法の松明への点火がアッサリとできたので、魔力発生も簡単にクリアすると思ったけど、考えが甘かった。真田さんに「アドバイスする」と約束してなくて、これが僕1人の課題だったら、途中で諦めたかもしれない。
「お見事ですわ、ミコト様」
結果は合格!まだ基本をクリアしただけなんだけど安堵をした。
「尊人くんすご~い!どうやってやるのぉ~?」
真田さんにアドバイスする前に魔力を見せびらかしたのは、僕のささやかなプライド。魔力の発生に理屈を絡めて分析する過程で気付いてしまった。悔しいけど、真田さんがコツを覚えた時点で、僕は真田さんの足元にも及ばなくなる。だから、今だけは格好を付けたかった。
「魔力に必要なのはね、集中力なんだ」
「集中なら、あたしもしてたと思うんだけど・・・」
「ただの集中じゃないんだよね」
昨日の僕は、妄想がスイッチになって魔法の松明を灯した。でも、自室に戻って同じ過程を踏んでも、手の平の間のモヤモヤ(魔力)を発生させることはできなかった。
そこで僕は、「何故できたのか?」を順序立てて考えた。卑猥な妄想をすれば魔法が使えるなんて有り得ない。ならば、何が作用したのか?最初に辿り着いたのはアドレナリンの放出だった・・・と言うか、他には思い付かなかった。
だから、筋トレをして(僕、部屋で何やってんだろ?)アドレナリンが出やすい状況にしてから手の平の間のモヤモヤ(魔力)を試してみたけど、発生させることができなかった。
ちょっとイライラしちゃったけど「約束」が有ったので、もう一度、落ち着いて分析することにした。だけど、分析をする必要は無かった。落ち着いただけで、手の平の間のモヤモヤ(魔力)を作れるようになった。
「ただの集中じゃなくて、超集中。真田さんなら得意でしょ?」
「超集中?」
アドレナリンが出ているだけじゃダメ。僕が魔法の松明の点火できたのは、松明が軽微な魔力に反応する構造だから、「アドレナリンを出して慌てて押さえる」っていう疑似条件に誤反応をしたんだと思う。もちろんそれでは、魔力の継続発生なんてできるわけが無い。
「魔力維持に必要な条件は、アドレナリンをコントロールした状態。
経験がある真田さんなら、もう解るよね?」
「それって・・・ゾーン?」
「そう・・・ゾーン、もしくは、ピークエクスペリエンス」
僕の仮説が合っていれば、特殊能力によって意識的にピークエクスペリエンスを発動できる真田さんは、魔法との相性が非常に良いことになる。
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