10-3・ホーマン公の屋敷
夕食の後、準備をしてもらった寝室に案内される。12畳くらいの部屋に、ちゃんとした布団の大きいベッドが1つ。3人並んで横になれる大きさのベッドだけど、さすがにそれはマズい。
「好きに使って良いぞ」
「ありがとう、智人。
真田さんと安藤さんでベッドを使いなよ。僕は床で良いからさ」
床なら受け入れてもらえるだろうか?真田さんはともかく安藤さんからは「同室は許さん」「廊下で寝ろ」と言われそうだ。
「何言ってんだ尊人?ここは、君専用の部屋だぞ」
「はぁぁっっっ!!?」×3
僕&真田さん&安藤さんが、同時に驚嘆の声を上げる。
「安藤と真田には別室を用意してある。
尊人が『同室が良い』って希望するなら手配するけどさ」
「も、もちろん・・・希望しません」
「はははっ!相部屋じゃ、気に入った子を見付けても連れ込めないもんな」
「連れ込まないよっ!」
智人には感謝しっぱなしだけど、その配慮だけは余計なお世話です。
「尊人くん、あとで遊びに来るね!」
「なんだ、ローティーンのクセに夜這いか?最近のガキはマセてんな」
「あたしはハイティーン!安藤と同い年!」
安藤さんが茶化して真田さんがツッコミを入れ、僕を部屋に残して別の部屋に案内されていった。
「あ、あの・・・『夜這い』を否定しなよ」
お風呂には、真田さん達に先に入ってもらうことにした。ベッドに座って荷物を置く。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
仰向けになって天井を眺める。広すぎる部屋にポツンと1人。落ち着かない。そう言えば、この世界に来てから1人で寝たこと無かった。女の子を連れ込む気は無いけど、1人は寂しい。
うとうととしていたら、扉がノックされて真田さんが顔を出した。
「お風呂、いいよ~」
「はいっ」
一発で目が覚める。公約通りに遊びに来たのかと思って緊張してしまったが違った。
修学旅行で真田さんが部屋に遊びに来た時は、男子がいっぱい居た。それでも緊張して話せなかったのに、1対1になったら何を話せば良いのか全然解らない。昨日と一昨日は偶発的に同室で寝たのに、部屋が分かれて「遊びに来る」と言われると変に警戒してしまうのは何でだろう?
そんなことを考えながら入浴を終えて、部屋に戻ってベッドに寝転がる。緊張をしていたら、扉がノックされたので飛び起きる。顔を出したのは智人だった。
「尊人、起きてるか?」
「智人っ!?」
「なんだその動揺した顔は?」
「・・・べ、別に動揺なんて」
「出てこいよ。サロンで少し話そう」
「うん」
真田さんが遊びに来るわけが無い。僕は少し安心をして、智人の要求に応じる。
大広間の隣に在って、大広間より二廻りくらい狭い部屋(それでも充分広い)で、幾つもの椅子が雑然と置いてある。智人は、この部屋を「サロン」と表現した。
「公爵夫人専用の社交場だ」
「そんな部屋を勝手に使っていいの?」
「夫人が寝室に籠もった後なら、好きに使えるんだ。紅茶飲むか?」
「いや・・・寝る前だから遠慮しとく」
「なんだ?おもらしの心配か?尊人はお子ちゃまか?」
「違うよっ!」
そんな、未就学児みたいな理由で水分を控えているわけではありません。慣れない屋敷で、夜、部屋から遠いトイレに1人で行くのが怖いだけです。
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昼間の馬車の中では、転移後の智人の経緯を教えてもらった。智人は、ホーマン公爵に才能を買われ、シリーガルさん&バクニーさんの護衛、及び、西都市周辺の治安維持の仕事をしている。
サロンでは、「昼間の続き」と言って、智人を取り巻く環境を説明してくれた。
「内地の都市くらいは把握してるか?」
「地図で見た程度だけどね」
この世界は、帝都テーレベールを中心に、北の都市ノス、南の都市サウザン、東の都市アーズマ、西の都市セイ、東西南北の都市を中継する北東の村ペイイス、南東の村トンナン、南西の村ミナーシャ、北西の村ウェスホクから成り立っている(数十人~数百人規模の小さい村は各地に点在)。
現在の帝皇はカイーライ・アング。シリーガルさんとバクニーさんの父、ディーブ・ホーマンは帝皇の信頼が厚く、帝国の宰相に就いている。だが、それを妬む政敵が、たびたびディーブ公の排除を企てている。
「それが、北の都市ノスのゴヨク・ゴククア公爵。ホーマン公の政敵だ」
現在の帝国は、ディーブ・ホーマンが信仰するゴツゴー教の考え方=ゴツゴー主義が方針だ。しかし、ゴククア公は自分が信仰するハメツ教の考え方=ハメツ主義で帝国を塗り替えたいと考えている。
「ゴツゴー主義ってどんな主義なの?」
「あるがままの自然体で生き、
発生したことは都合が良い方向で受け止める考え方だ」
「ハメツ主義は?」
「外地への武力遠征を強行する考え方だ」
「もう少しマシは信仰は無いの?」
「無い!」
「・・・・・・・・・・・・・・無いんだね」
ゴツゴー主義とは、言わば自然崇拝。農業を中心とした政権運営。ハメツ主義はリスクを覚悟して未開の外地に踏み込み、新たな土地を支配して国を豊にする政権運営。
外地には、まだ見ぬ資源や文明があるかもしれないが、内地では比較にならないほど強いモンスターも存在する。だから、外地には各都市が無理の無い範囲で前線基地を作って、少しずつ進出しているのが現状だ。
「冒険者が公的に雇われてやってる仕事だね」
「ん?知ってたのか?」
「なんとなく聞いただけ。
ペイイスの村では生活費を稼ぐ為に、冒険者見習いみたいなことしてたからね」
この世界は剣と魔法の世界。力量に個人差はあるが、各都市の騎士団の総合武力はそれほど変わらない。優秀な冒険者を傭兵に招き入れたとしても、力の均衡を崩すほどの差は生じない。
「政治における主義主張による対立は、古くからあった。
公爵達が持つ武力が拮抗している状況では、あからさまな衝突は無かった」
しかし、この世界に単純な武力とは違う力が出現したことで、均衡が崩れ始めた。
「どんな力だと思う?」
「もしかして現実世界の・・・・・その結果がヒキョー者狩り?」
「そうだ。使い方次第では剣や魔法の力を覆す富醒。
だから、各騎士団は、秘境者を味方に引き入れる為に躍起になっているんだ」
僕の特殊能力が使い方次第でどうにかなるとは思えない。だけど、真田さんのピークエクスペリエンスなら、剣の達人を無力化できる。柴田くんのブーストなら相手が迎撃態勢になる前に懐に飛び込める。どちらも、戦略的に使えば敵軍のエースを叩けるのだ。
「東の都市アーズマの挙動も怪しかったのだが、
今日のサファイ騎士団の動きでハッキリしたようだな」
「・・・え?どういうこと?」
「目黒はそそのかされて調子に乗って踊らされていただけ。
サファイ騎士団の目的は、ホーマン旗下に加わった俺を叩くのが狙いだった。
北の都市ノスと、東の都市アーズマは、手を組んでいるってことだ」
ヒキョー者狩りの目的、冒険者の存在意義、外地とは何なのか、これまでの漠然としていた知識や経験が繋がってきた。僕達は、この国の権力闘争に巻き込まれているのだ。
「俺達は、この世界のバランスブレーカー・・・ゲームチェンジャー・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ぶっちゃけ、この国がどう発展しようが、どう武力衝突をしようが、僕にはどうでも良い。この国の人が戦争で死ぬのは可哀想だけど、他人の心配をしている余裕なんて無い。せいぜいで、ブラークさんと、シリーガルさん&バクニーさんには、敵対しないで仲良くしてほしいって思うくらいだ。
僕は、ヒキョー者狩りから逃れて、仲間達を集め、現実世界に帰りたい。
「俺達には、この世界に変革をもたらす資格があるんだ!」
「・・・・・・・・・・」
何故、智人が熱く語って、この国に入れ込んでいるのかが解らない。
僕達は、この世界ではなく、現実世界で生きなきゃならない。
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