10-2・生きた心地
西の都市・セイは、ディーブ・ホーマン公爵に統治をされ、帝都に次いで栄えている。つまり、この世界で2番目に大きな都市。
「もう日が暮れる。町の案内は明日してやるよ。今日はゆっくり休んでくれ」
日没の時間なんだけど、外出している人は多い。町の賑わいは北都市と同等。あくまでも“印象”なんだけど、ノスと比べると、空気は穏やかに感じる。まぁ、ノスについては観光してないし、早急に町外れに移動した&早朝に発ったから、「よく解らない」って表現が正しいんだけどね。
「チート様だ!」 「チート様!」 「チート様!」 「チート様万歳!」
町行く人々が足を止めて、智人に手を振る。智人は「英雄チート様」として手を振って対応する。
「す、すごい人気者なんだね」
「はははっ・・・俺としては普通にしたいんだけどな、この有様さ。
この町では、ノンビリと散歩をすることもできない」
智人は、「困惑」を口にしているが、満更でもない表情をしている。
「あの子とあの子な・・・俺にベタ惚れ」
「・・・へぇ。すごいね」
片方の黒長髪の子は、雰囲気が櫻花ちゃんに似てた気がする。
「今、織田櫻花のこと考えてただろ?」
「・・・えっ?なんでわかった?」
「さっきの町娘、ちょっとだけ織田に似てるよな」
「・・・う、うん」
「安心しろ。別人だ。親友の片想いしてる子には手を出さねーよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
智人の遊び相手が櫻花ちゃんではないって安心が半分、おーちゃんはどこにいるんだろうって不安が半分。トモに遊ばれてるのは嫌だけど、トモの保護下にいてくれれば安心なのに・・・と都合の良いことを考えてしまう。
「あれが、俺が世話になっているホーマン公爵の屋敷だ」
「うわぁぁっっ!」
屋敷と言われても、到着したわけではなく、立派な門のずっと奥にある。お城?博物館?「屋敷」って家のことだよね?窓の数から察するに、天井の高い2階建てで、物見用の塔屋は3階建て。ノスの町で最初に泊まろうとしたお城みたいな宿の5倍くらい広い。
「ホーマン公爵って王様なの?」
「尊人・・・アタマ大丈夫か?公爵は公爵だ。
王様・・・と言うか、モーソーワールドで一番偉い帝皇は帝都にいる」
これまで護衛をしてくれた騎兵は門の前で止まり、別の軽装備の騎兵が護衛に付いて、2乗の馬車は門を通過する。門から屋敷までメッチャ遠い。
綺麗に手入れされた芝生と生垣とか、鮮やかな花畑とか、人型や動物の石像は権力の象徴。小さな川(堀)は敵の侵入を防ぐ為、道の途中に池があるのは敵を真っ直ぐに侵入させない為の工夫かな?何もかもが僕の想像を上回っている。
「庭園の大きさは40ヘクタールくらいかな?」
「へくたーる?」
授業で習った単位だけどピンと来ない。
「もう一廻りくらい小さくて良いから自分の屋敷を持ちたいんだけどさ、
ホーマンは俺を手元に置きたいらしくて、許してくれないんだ」
「ああ・・・そうなんだ?」
智人は「明日は町を案内する」と言ってくれたけど、家と庭を案内してもらうだけでも2~3日はかかりそうだ。
やがて2乗の馬車は、白壁の巨大な屋敷の前に到着をする。豪華な馬車から降りた真田さんと目が合う。真田さん呆けている。安藤さんは口を開けたまま屋敷を見上げている。・・・まぁ、そりゃそうだろうな。僕も同じ気持ちです。
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中に入ったら、公爵夫人と数人の召使いに出迎えられたので挨拶をする。安藤さんは、片足を引き、ドレスの裾を持って、膝を曲げて、ぎこちなく礼をする。アニメとかで見るお姫様の挨拶だ。馬車の中で御令嬢達に習ったのかな?真田さんは男装してるからお姫様の挨拶をできず、普通にお辞儀をした。
公爵は仕事で帝都テーレベールに行っていて、最初の奥さん(シリーガルさんのお母さん)は数年前に他界しているらしい。今は後妻(バクニーさんのお母さん)のボウィンさんが屋敷を仕切っている。バクニーさんの胸の大きさは、お母さんからの遺伝だね。
「皆様の部屋は、ただいま準備をしております。
先ずは、大切なお客様方を晩餐に御招待させてください」
言われるまま広間に案内される。暖炉が有り、絵画とか剥製とかが並んで、天井から沢山の魔力で光る玉が吊り下げられた大きな部屋。真ん中に20人くらいが同時に並べそうな長テーブルが据えられていて、綺麗なテーブルクロスがかかっている。
「・・・うわぁ、住む世界が違う」
上座を空けてボウィンさん、シリーガルさん、バクニーさんが並んで座り、向かい合わせで智人が座る。僕は女主人から一番離れた末席に座りたかったんだけど、智人と目を合わせたら「隣」と合図されたので、智人の隣に座った。真田さんが僕の隣に、その隣に安藤さんが座る。
なんか良く解らないんだけど、部屋の端っこにいた男の人が、急にギターを弾き始めた。
「この世界にもギターってあったんだ?」
「リュートな」
ぶっちゃけ、この際どっちでも良い。
「尊人が来たから特別だ。毎回、吟遊詩人を呼んでいるわけではない」
しばらくしたら、個々の前にスープと野菜が運ばれてきた。Mサイズ(こ~ゆ~呼称が有るのかは解らないけど)のパイとか、大きい魚とか、肉の塊が大皿で運ばれてきて、目の前で切り分けられて配られる。パイの中身は芋かな?魚に関しては白身ってことしか解らない。肉は牛肉だ。
この世界に来てからは、魚はともかく、牛肉なんて一度も食べていない。食べたのは何の肉かよく解らない干し肉くらいだ。
ご飯(白米じゃないけど)とフルーツの盛り合わせとデザートも出てきた。
「この世界に米なんてあったんだ?」
「帝都・テーレベールと、南の都市・サウザンで栽培されている。
特にサウザンは水が豊かだから、米が良く育つんだ」
物資は、たいていが帝都・テーレベールで止まって消費される。且つ、北の都市・ノスと南の都市・サウザンは、あまり良好な関係ではないので、米がノスに運ばれることは殆ど無いらしい。
「美味いか、尊人?」
「うん」
「今まで、こんなの食えなかったんだろ?」
「うん」
どれも美味しい。死ななくて良かった。生きた心地がする。
・・・だけど・・・だからこそ
「尊人くん・・・泣いてるの?」
真田さんに気付かれてしまった。僕は美味しい料理を食べながら泣いていた。智人に申し訳なくて隠してたけど、バレてしまった。
「なんだなんだ?美味すぎて感動してんのか?」
「・・・うん」
智人の問いを肯定する。でも、ごめん。違うんだ。
なんで僕は、仲間達を置いてペイイスの村を発ったんだろう?なんで、あの時、無理を言って柴田くん達を誘わなかったんだろう?自分の勝手さと気の弱さが嫌になる。
皆で一緒にこの町に来ていれば、柴田くんと綿本さんだって、美味しいご飯を食べられただろうに・・・。みんなで生きた心地を感じられただろうに。
ダメだよ真田さん。頑張って笑ったフリしていたんだから言わないでよ。
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