10-1・西の御令嬢
街道に戻り、西都市に向けて2時間くらい歩いたら広場があり、小洒落たテントが立っていた。テントの脇には4頭立ての豪華な馬車が1乗と、2頭立ての質素な荷馬車が1乗駐まっている。
「・・・待ち伏せ?」
僕は警戒をしたが、智人が「心配無用」と言ってテントを覗き込む。
「シリーガル、バクニー、喜んでくれ。大切な友人と無事に合流できた」
智人に呼ばれて、テントの中から2人の若い女性が出てきた。
「この人達は?」
「俺が世話になっている公爵の御令嬢・・・と言うか俺の恋人だ」
「恋人?」
智人に彼女ができたことに驚いたが、それ以上に、姉妹に二股をかけていて姉妹は公認していることに驚いた。
「シリーガル、バクニー、彼が源尊人。俺の親友だ」
「初めまして、源尊人です」
2人の女性が、ロングドレスの裾を持って、恭しく礼をしながら自己紹介をしてくれた。「シリーガル」と名乗ったスリムな体格の女性は、僕より少し年上だろうか?「バクニー」と言う名の胸が強調されたドレスを着ている女性は、僕と同い年くらいに思える。
「そちらのご婦人は?ミナモトミコト様の恋人ですか?
それとも、そちらの殿方の恋人?」
姉がシリーガルさんかな?シリーガルさん、ちょっと失礼。真田さんは「殿方」じゃなくて「女の子」だよ。
「あらやだ、お姉様ったら、失礼ですわ。
手前の方は、男装をしていますが、男性ではなく女性ですよ。
でも、奥のご婦人は恋人でしょうけど、
手前のお嬢様は恋人と呼ぶには幼すぎますわね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
姉がシリーガルさんで、妹がバクニーさんかな?バクニーさん、もの凄く失礼。「奥のご婦人」は安藤さんのことなんだろうけど、恋人ではない。「手前の幼すぎるお嬢さん」は真田さんのことだろうけど、僕と同い年だ。もちろん、恋人ではない。
「真田早璃です」 「安藤です」
真田さん達は疲労で反論する気力が無いらしく、軽い会釈で挨拶を返した。
「バクニー達が、『少しでも早く尊人に会いたい』って言ってな、
『どうしても付いてくる』って聞かないんで、ここで待機をしてもらったんだ」
道理で初対面なのに愛想良く接してくるわけだ。智人が僕のことを話してたんだね。
「疲れただろ。ここから先は、ノスの町まで馬車に乗ってくれ」
「ああ・・・うん、ありがとう」
屋根&扉付の豪華な馬車は4人乗りくらいだろうか?
「尊人は俺と一緒にコーチに乗ってくれ」
「こーち?」
「こっちの(豪華な)馬車だ」
「ああ・・・うん・・・」
僕は、真田さん達をチラ見した後、智人に目配せをする。
「智人・・・僕は荷馬車に乗せてもらっても良いかな?」
シリーガルさんとバクニーさんが徒歩や荷馬車ってことは無いだろう。つまり、僕は豪華な馬車に乗せてもらった時点で定員になって、真田さんと安藤さんは乗れない。智人の配慮はありがたいけど、真田さん達に申し訳ない。
「遠慮すんな。コーチの方が乗り心地が良いぞ」
「いや・・・遠慮じゃなくて・・・
僕が座る予定だった席には、真田さんか安藤さんに座ってほしい」
「ああ、なるほど、そういうことか。結局は『遠慮』じゃん」
「まぁ・・・そう・・・だね」
「了解した。安藤と真田はバクニー達と一緒にコーチに乗ってくれ
俺は尊人と一緒に荷馬車に乗る」
智人の申し出に、シリーガルさんとバクニーさんが驚く。
「チート様。貴方ほどの御方が、荷馬車だなんて・・・不相応ですわ」
「兵達に示しが付きませんわ。御自身の御身分をお考えください」
なるほど・・・バクニーさん達は、遠回しに「真田さんや安藤さんは荷馬車が相応しい」「僕が荷馬車に乗るのは兵達に示しがつく」と言ってるわけね。まぁ、正解だろうけど。
「はははっ・・・か弱い女性を丁寧に扱う。それだって英雄の嗜みさ」
「あぁんっ!さすがはチート様、ごもっともですわ」
「お優しいのですね、チート様」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
なにこの「チート様が絶対」「チート様万歳」の女の子達。初対面の感想としては不適切なんだろうけど、なんか意志の無い人形みたいで、ちょっと怖い。
「シリーガルとバクニーは、コーチでお嬢さん方をもてなしてやってくれ」
「かしこまりました」
安藤さんは「お言葉に甘えて」と言ってサッサと豪華な馬車に乗ったけど、真田さんは申し訳無さそうにしている。
「あたしも荷馬車で良いんだけど・・・」
「せっかくだから乗せてもらいなよ。お姫様の馬車、乗ってみたかったんでしょ」
「そうなんだけど・・・尊人くん、いつも優しいね」
「優しいのは僕じゃなくて智人だよ。お礼なら智人に言ってね」
「・・・う、うん」
真田さんには豪華な馬車に乗ってもらい、僕は智人と一緒に荷馬車に乗って、白騎兵達に守られ、後から運転手だけが乗ったチャリオットは付いてきて、西の都市・セイへと向かう。
「それでな、西の侯爵の~~~~~~~~~~~~~~」
「へぇ~」
道中では、智人が転移後の経緯や、バクニーさん達との関係について話してくれたけど、まだ脳内が混乱中の僕は、ちゃんと聞けていなかった。理解できたのは「智人がすごい」ってことだけ。
「○○○○すると『男らしくしなきゃ』って自覚が湧くぞ」
「・・・・・・ん?」
「尊人は真田や安藤と“やった”のか?織田櫻花一筋だよな?」
「・・・はぁ!?」
なんか急に解りやすい身近な話になった。「○○○○」に入る文字は、高校2年生の僕等にとっては、多分、甘美な響きを持つカタカナ4文字(まぁ、経験済みの人もいるだろうけど)。
「智人・・・経験したの?相手は誰?」
「おいおい、だいぶ話が戻ったぞ。さっき言っただろ。
バクニーとシリーガル。あとは町娘数人だ」
「尊人もさっさとドーテー捨てろ。町に着いたら、何人か紹介してやる」
「い・・・いや・・・遠慮しとく」
「やっぱ、織田一筋かよ?」
「・・・・・・・・・・・う、うん」
「やれやれ、相変わらず生真面目だねぇ。
もう少し気楽に生きた方が良いんじゃね?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・う、うん」
智人は、わざと下世話の話題をして僕を和ませてくれているのかな?
でも、僕はまだ、死にかけたことや、青騎士の惨殺と目黒くんの断末魔、柴田くん達が脱落した事実が頭の中から離れない。智人の気遣いに、ちゃんと対応できないのが申し訳ない。
「見えてきたぞ!あれが我が町だ!」
智人に促されて進行方向を見る。ノスの町と同じくらいの大きさだろうか?広い穀倉地に囲まれ、町全体が高い石壁で覆われていて、塀よりも高くて綺麗な建物が幾つも並び、それすら「低い」と錯覚するような一際大きな白い塔が存在感を発揮している。
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