9-3・英雄降臨
「尊人くんっっっっっ!!!」
真田さんの叫び声が聞こえる。柴田くんと綿本さんは付き合ってたんだっけ?だから綿本さんは柴田くんに殉じたのかな?真田さんはどうするんだろう?僕に殉じる理由なんて無いんだから、降伏すんのかな?生き残って欲しいけど、気持ちが折れた真田さんも見たくない。
「僕、何を考えてんだろ?」
今から死ぬ僕には、真田さんのその後を見ることなんて不可能なのにね。守ることができなくてごめんね。
痛いのかな?柴田くんや綿本さんは痛かったのかな?それとも一瞬なのかな?僕は、何の抵抗もできずに、その時を待っていた。
「させねーよ」
突風が吹き荒れ、僕を貫こうとしていた槍が止まる。
「・・・・・・・え?」
次の瞬間には、周りの大木が次々と倒れてきた!僕を囲んでいた青騎士達が後退をする!
「なに?」
倒れた大木が青騎士との間の遮蔽になったおかげで、僕はフリーになった。
「やれやれ・・・ギリギリセーフだな!」
道の中央に3頭の軍馬に繋がれたチャリオット。その両翼に白い鎧と白いマントの騎兵が計4騎。チャリオットには、掌を翳した彼が立っていた。
「迎えに来てやったぞ、尊人!」
「智人っ!?」
騎士の服を着て白マントを羽織り、見慣れたいつもの親友とは違う印象を受ける。だが、間違いは無い。
「トモ・・・か。懐かしい呼び名だな。
今の俺はな、何の因果か『西の英雄・チート』と名乗っている!」
その白い騎士は、徳川智人だ!
「やっぱり、西の英雄って智人のことだったんだね!?
でも、なんでここに!?」
「情報が入ったんだ。
尊人がペイイスの村からノスの町に向かってるってな。
それなら、全任務を放棄して迎えに来るのは当然だろ」
目黒くんが智人を睨み付けた!
「チートっ!」
智人は、僕に向けて穏やかに微笑んだ後、目黒くんを睨み付ける!
「やぁ、目黒。相変わらずカスだな。
見知った顔は真田と安藤。
誰が味方で、誰が敵なのかは解らないが・・・それは後から確かめよう。
とりあえず、目黒が敵ってのは間違いないよな」
目黒くんは、しばらくは智人を睨んでいたけど、急に笑みを浮かべる。仲間に会えた喜びの笑みではない。黒い目をしたドス黒い笑みだ。
「チート!餌に釣られてくれて嬉しいよ!」
「ん?何のことだ!?」
「源がペイイスの村からノスの町に向かってるって情報な、
バラ蒔いたのは俺なんだよ!」
「何の為に?」
「決まってんだろ!西の英雄とかって名乗ってるオマエを誘き出す為だ!
源がオマエと合流する前に狩られても、俺は痛くも痒くもない。
合流しても、ヘタレが追加されただけなら、オマエの戦力は変わらない。
オマエが誘き出されてくれればベスト。・・・そういうことだ!」
僕の所為で智人が危険に晒されている?謝ろうとしたけど、智人は「大丈夫」って目をしてくれた。
「なるほどな。先程、目黒を『相変わらずカス』と表現したけど訂正しよう。
見事なくらいにカスっぷりに磨きがかかったな」
「俺はノーリスク・ハイリターンの賭けをして勝ったってことだ!」
「なんか色々と能書きを垂れてたみたいだけどさ、今のが遺言で良いか?」
「いつまでもイキってんなよ!オマエはもう詰んでんだよっ!」
「『詰んでる』って言うのは、俺が君の伏兵に気付いていないって意味か?」
智人は背後に向けてヒラリと掌を翳す。
「富醒イメージ!アヌビス!!
・・・永遠なる眠りへの誘い!」
木陰に隠れて銃型の弓を構えていた3人の青騎士の前に真っ黒で半透明の狼が出現!咆哮を上げながら突進をして、青騎士達の体を通過した!
変な表現になんだけど「体当たりをする」ではなく、間違いなく「通り抜けた」のだ。
「・・・ぐぁぁ」
途端に、3人の青騎士は卒倒する。
「サファイ騎士団の先駆け・・・
俺を挟み討つ伏兵にするつもりだったんだろうけどさ。
目黒って、一緒にゲームやってた時から、騙し討ちばっかりだったよな。
俺が君の卑劣な魂胆に気付かないとでも思っていたのか?」
僕は智人の後に弓兵が隠れていたことすら気付かなかった。そう言えば、目黒くんと接触する前に、10人くらいの青騎士がノスに向かって街道を走っていた。彼等は、目黒くんが智人を追い詰める為に準備した別働隊だったんだ?
「チートっ!何をしやがった!?」
「ただの即死攻撃さ。
君の本隊は君を除いて10人。別働隊は3人脱落して残り7人。
俺が正面10人を相手にして、護衛の4人に後の7人を任せても楽勝だけど、
周りに木が生い茂った狭い場所で戦ったら、
お嬢様方(真田&安藤)に危害を及ぼす可能性が高い。
どうする?戦場を広い平原に移す要求を飲んでくれるなら、
俺の衛士達には手出しをさせず、1対17でも構わないぞ」
「ムカ付くっ!サファイ騎士団を舐めるなっ!
俺だって真田や安藤が巻き添えで潰れるのは望んでいない!
チートの要望・・・受け入れてやるよ!」
「ふふっ・・・感謝する」
智人が家来の白騎士と一緒に地図を見て、付近の平原を提示する。
「街道から離れる・・・道中でモンスターと遭遇する可能性があるな。
おい、オマエは尊人の、オマエは真田の護衛をしろ」
「はいっ!」×2
「オマエとチャリオットは、この場で待機だ」
「はいっ!」
「おい、目黒!安藤くらいなら、サファイ騎士団で守れるんだろ?
不安なら、俺の部下を廻してやるが?」
「サファイ騎士団をバカにするなっ!」
「了解。なら安藤は任す」
白騎士2人が僕と真田さんを守る為に寄ってきた。智人の先導で街道から森に踏み込み、枝葉を掻き分けて近くの平原を目指す。
「尊人くん、怪我は無い?」
真田さんが寄って来て、僕を労ってくれる。優しい言葉が辛い。
「・・・・・うん」
あまり喋りたくない。あまり話しかけてほしくない。自分が情けなくて顔を合わせられない。
「・・・強く・・・なりたい」
絶望を免れた安心が半分。もう半分は悔しかった。智人はメチャクチャ格好良い。目黒くんは僕ではどうにも成らないほどの武力を持っている。
「力が・・・ほしい」
僕は真田さんを守れなかった。僕を信頼して一緒に来てくれたのに、何もできずに危険に晒してしまった。悔しくて仕方が無い。




