9-2・非情のルール
「無様だなぁ、源は。
柴田の方が、もうちょっとマシに歯向かってきたぞ。
まぁ・・・マシだからって、サファイ騎士団に敵うわけがねーんだけどさ」
しがみついていた青騎士から引き剥がされ、槍の石突きを撃ち込まれて地面を転がる。
「がはぁっ!」
許せない、許せない、許せない!
「めぐろぉぉぉっっっっっっ!!!」
許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!
僕がザコ扱いされてるのなんてどうでも良い。目黒くんの行為の全てが許せない!
「君だけはっっっ!!!」
剣を握り締め、再び裏切り者に突っ掛かる!
だけど、護衛の青騎士に返り討ちにされ、弾き飛ばされて大木の幹に激突して、無数の槍が僕の目の前で寸止めされる。いつの間にか5人の青騎士に囲まれ、「少しでも動いたら串刺しにする」と言わんばかりに、槍を突き付けられていた。
「無力って醜いな。許せないから何だっての?」
目黒くんが、僕を囲んでいる青騎士達の間から、黒い目で見下ろしている。
「痛いっ!離してっ!・・・尊人くんっ!」
真田さんは僕ばかり気にして逃げなかった所為で、青騎士に掴まってしまった。僕は、真田さんを守れず、柴田くんの仇も討てず、何もできないまま詰んだ。
真田さんが目黒くんの馬前に引っ張り出される。
「真田ぁ~!俺の部下になれ。優遇してやるぞ」
「絶対にイヤっ!誰が目黒の部下なんかにっ!!」
「あっそう・・・なら脱落決定だよ」
「脱落で良いもん!」
「腹立つなぁ~・・・。まぁいいや。
真田の処分は、源を公開処刑した後でな!」
「・・・えっ?ちょっと待ってよ、目黒。
あたしが拒否してんのに、なんで尊人くんなの?」
いつも高飛車な安藤さんが降参した理由を理解した。目の前で柴田くんと綿本さんが命を奪われて、抗う気持ちをヘシ折られたんだ。目黒くんは、今から僕を使って真田さんを同じ立場に追い込もうとしている。
「酷いよ目黒くん・・・何でこんなことを?」
脱落を受け入れていた僕の、最後の抵抗だ。目黒くんを冷酷に走らせた理由くらいは知りたい。
「源さ、やっぱバカなんだな。
このデスゲームの攻略法・・・気付いてないのか?」
「・・・デス・・・ゲーム?」
「モーソーワールドに転移したのは、クラスの奴と、他のクラスの数人と、先生。
全部で51人による多数決で、リアルに帰るかどうかを決める」
常識的に考えれば、「現実世界に帰りたい」が多数になる。全員を集合させて多数決を取らなくても、「現実世界に帰りたい」派の26人を集めて意見を集約させれば、この異世界転移は終わる。
だけど、中には「現実世界なんて下らない」「この世界で一旗揚げたい」と願う者もいる。
「モーソーワールド永住を願っても、クソ真面目な多数派の意見に踏み潰される。
不公平だよな。・・・だったらさ、少数派はどうすれば良いと思う?
ここまで説明してやれば、理解力の乏しい源でも解るだろ?」
「・・・帰りたい派を・・・説得する」
その先は、怖くて言えなかった。
現実世界肯定派を説得して、この世界の肯定派にする。もしくは、現実世界肯定派を多数決の総数から排除する。仮にこの世界の肯定派が15人なら、現実世界肯定派が14人以下になるまで減らす。
「それが、この命懸けのゲームの仕様だ」
現実世界肯定派を纏めた代表者1人だけが願いを叶えられる。願いを叶える代表者になる為に、現実世界肯定派同士で潰し合いが発生する。圧倒的に有利なはずの現実世界肯定派が最も脆い。それが隠されたルール。現実世界への帰還は、「人数を集めればなんとかなる」ような簡単な話ではない。
「だからって・・・仲間達を躊躇いなく殺すなんて・・・」
僕には、仲間を裏切る行為を「ゲーム」で済ます目黒くんの感情は、多分、永久に理解できない。
「バカ言うなよ。躊躇うに決まってんだろ。
だから柴田のことは勧誘した。だけどアイツは拒否をした。
受け入れてくれないなら、排除するしかないだろ」
この世界を肯定する者ほど、この世界をすんなり受け入れて馴染む。現実世界への帰還を望む者は、いつまでも馴染めずに戸惑い続ける。その差が、この世界での成長の差に繋がる。日を追うごとに、この世界の肯定派の方が力を付け、やがては現実世界肯定派を蹂躙する。
今の僕が、目黒くんに蹂躙されかけているように・・・。
「・・・そんなの・・・現実から逃げてるだけじゃん」
「口の利き方に気をつけろっ!」
目黒くんが、腰にぶら下げていた水筒を僕にぶつける。
「バカはバカのまま・・・か。話にならねーな。
俺さ、前から源のこと、気に入らなかったんだ。
クソ真面目なだけで、不器用で要領が悪くて、何をやっても下手クソなのにさ、
なんか知らねーけど、クラスの奴等にアテにされてんの」
「なんの話?」
「徳川くらいしか友達がいねー根暗のクセしてさ、
柴田や吉見や楠木みたいなカースト1軍が、源を対等に扱う。
明らかにバスケ部のお荷物なのに、バスケ部トップの津田が源を認めている。
オマエの悪口言うの、遠藤と加藤と安藤くらい。意味が解んねーよ」
なんの逆恨みだろう?僕は目黒くんが言うような人気者ではない。僕には全く自覚が無い。
「源は要らねーから、徳川の話題で釣って追い出したのにさ・・・
何故か、真田みたいな陽キャが付いて行きやがった。
自分が人気者にでもなったつもりか?
カースト底辺なんだから、底辺らしくしてろっての」
1つだけ反論をするなら、僕はスクールカーストなんてどうでも良いと思ってる。底辺にいる自覚はあるけど、底辺が恥ずかしいとは思っていない。無理してカーストの上の方にしがみつく方が格好悪いと思っている。
目立つのは苦手。柴田くんや櫻花ちゃんみたく、ちゃんとした実力があって上位にいるのは格好良い。でも僕にはそんな才覚は無いんだから、無理して格好付けても意味が無い。
「一応、聞いといてやるよ。
源はどっち派だ?リアルに帰りたいのか?モーソーワールドに残りたいか?」
「僕は・・・帰りたい」
皆で帰らなきゃ、既に脱落をした人達は現実世界でも失われてしまう。柴田くん達を見捨てる選択肢なんて、僕には無い。
「んっ!りょーかいっ!!
真田は!?どうなんだ!?」
「帰りたいに決まってるでしょ!」
「あっ、そう・・・オープン」
目黒くんが「接触者数」を確認したら、目黒くんの目の前に「3」が表示された。
「多数決の結果を表示しろ」
目黒くんの呼び掛けで目黒くん本人の「1」が追加されて、「帰還2:滞在2」が表示される。
「まぁ・・・見るまでもなく解ってんだけどさ・・・。
良く見てろよ、真田。今から、帰還派を一票減らすぞ~~!」
目黒くんが、槍の穂先を僕に向けている青騎士達に「やれ」と指示を出す。




