8-5・地平線が無い世界
夜が明けると同時に起きて、西の都市・セイに向かう。
「真田さん、とにかく平原を急いで抜けるよ!」
「うんっ!」
歩幅の狭い真田さんが僕の早足に合わせるのはキツいだろうけど、僕が荷物を全部持つ代わりに頑張って付いてきてもらう。
「森に入ったら少しペースを落とすから、今は我慢して!」
この世界は、森や山で地平線が見えないことはあるが、平原には地平線が無い。正確に言えば、もの凄く離れれば視覚的には地面と空が交わるんだけど、地面に丸みが無いので地平線が凄まじく遠い。
「なんにも無い平原にいると、10㎞離れたくらいじゃ町から丸見えなんだ」
「どういうことなの?この世界の人は目が良いってこと?」
「ここが地球とは別の場所ってこと!」
この世界に来た直後は、「ここは地球のどこか」と思っていた。それなら、僕の目線だと4㎞くらい先は地球の丸みに隠れて地平線になる。でも、この世界では5㎞以上離れた場所も見えてしまう。
「今までは、そんなのどうでも良いって思ってたんだけど、
見付からないように逃げるなら、ちゃんと考えなきゃって思ってね」
雑学好きの知識が、こんな所で活かされるとは思っていなかった。
「あたし、そんなの全然気にしてなかった」
昨日の夜、眠れなかったおかげで、色々考えて気付きました。爆睡していたら、もっと悠長にしていたと思います。ちなみに、地平線のこと以外にも、真田さんには説明できないような余計なことをいっぱい考えてしまいました。
「尊人くん偉い!」
「なんかごめん」
「なんで謝るの?」
「なんとなく」
森に入った。振り返って、追っ手が来ていないことを確認する。
「疲れた?少し休む?」
「尊人くんに荷物を持ってもらったから大丈夫!
これくらいの距離なら、いつも走ってるよ」
「そっか。ならもうちょっと進もう」
「東京のスカイツリーは?」
「ん?急になに?」
「さっきの地平線の話。スカイツリーに昇ったら何m先まで見えるの?」
「ああ、その話?スカイツリーの高さって何mだっけ?」
「よく解んない。1000mくらいかな?」
「1000mの高さなら・・・・・・
え~~と、120㎞くらい先まで見えるかな」
「何で解るの?」
「公式が頭の中に入ってるんだよね。
数字が細かいと書いて計算しなきゃ解らないけど、数字が単純だから暗算でね」
「さすがっ!尊人くん、数学が強いもんね」
「数学ってより雑学・・・かな
でも、スカイツリーは1000mも無いと思う」
鞄から小さい斧を引っ張り出して、枝葉を払い落としながら、あえて道から少し外れた木々の間を歩く。これで、秘境者狩りが向かってきたとしても身を隠せる。
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ちゃんとした道を歩いていないので、ペースは遅い。だけど、この選択は正解だった。
「なんか近付いてきたみたいっ!」
複数の馬の蹄が地面を打つ音と鎧が擦れる音が、来た方向から慌ただしく聞こえてくる。
「隠れよう!」
僕達は、道から更に離れて、茂みに身を隠した。しばらくすると、青い鎧と青いマントの10人くらいが、馬に乗って通過していった。
「黒マントじゃないね」
「オブシディア騎士団とは違う騎士団・・・かな?」
青マントの騎士達は、ペイイスの村に駐屯しているのを何度か見た。
「確か、東の都市の騎士団・・・だね。
なんで、こんな所にいるんだろう?」
「秘境狩りとは違う目的かな?」
「・・・解んない。
でも、東の都市も秘境者狩りはしてるはずだよ。柴田くんが言ってた」
僕達に気付かずに通過していったので、音が遠ざかるのを確認してから再び歩く。
僕達を指名手配してるのは、北の都市のオブシディア騎士団だ。なら、青い騎士団に遭遇してもスルーされるのかな?それとも、別都市に所属する騎士団にも、手配書が廻っているのかな?
「尊人くん、また来たっ!」
「隠れようっ!」
再び同じ方向から、騎士団が移動する音が聞こえる。街道から20mくらい離れた茂みに身を隠して様子を見ていたら、また青い騎士団が進行してきた。今度は、騎兵だけではなく、騎士団の中央には質素な幌を被った馬車もいる。
「お姫様の乗る馬車を守ってるのかな?」
「お姫様って、あんな汚い馬車に乗るの?もっと可愛い馬車に乗るんじゃない?」
「そうなの?僕、お姫様に会ったこと無いから解んない」
「あたしもよく解んないけど、シンデレラの馬車みたいなの」
「・・・カボチャの馬車?」
確かにシンデレラも昔のヨーロッパに魔法が存在する話だけど、この世界の設定と混ぜるのは違う気がする。
「あれっ?」
馬車の隣を走っていた青騎士が号令を掛けて、集団の進行を止めた。空中に手を翳して、何かを確認してから、僕達が隠れている方向に視線を向ける。
「えっ?バレてる?」
「・・・てゆーか、あの人って?」
僕達は、集団の中央で馬に乗っている青い騎士を知っている。立派な格好をしていたから直ぐには気付けなかったけど、クラスメイトの目黒くんだ。
安堵をした僕は、立ち上がって存在をアピールするつもりだった。だけど、真田さんが僕の手を掴んで止める。
「待って、尊人くん。なんかヤバいかも。
目黒くん・・・黒い目をしている」
「えっ?・・・真田さん?」
見たら真田さんは怯えた顔をしていた。
「そこに2人いるんだろ!?出てこいよ!」
隠れているのに、目黒くんにはバレている。




