8-4・脱出と安堵
懐中電灯のような小さい灯り1つを頼りにして、当て木で維持された狭い通路を2時間くらい歩いた。
「行き止まり・・・これ、扉かな?」
出口は草と木の蓋で偽装した小さな横穴だった。「非力な真田さんを押し上げながら井戸を昇る」だったら詰んでいたかもしれないので、横穴から外の光が差した時は安堵をした。
「外だぁ~~~!」
草が鬱蒼と生い茂った斜面の中腹に出る。見渡す限り、木、木、木。ブラークさんが言ってた「ノスの町とウェスホクの村の間にある森」に脱出できたのだ。
「街道はどっちだろう?」
この国の成り立ちを学ぶ気は全く無い。だけど過去には各都市が争っていて、偉い人を脱出させる為に今の抜け道を作ったってことくらいは解る。
脱出路の出口が街道の真横にあって通行する人にバレているとか、街道から遠すぎて怖いモンスターが闊歩するような場所では本末転倒。つまり、この出口は、街道から近すぎず遠すぎない場所にあるはずだ。
「道は・・・あれかな?」
斜面の上の方、5分くらい登った先に「拓けてるっぽい場所」がありそうだ。魔法の地図で「それが街道だ」と確認する。
「とりあえず、5分で良いから休ませてもらって良い?」
僕が少し拓けた勾配の緩い斜面を見付けて腰を下ろすと、真田さんは無言で隣に座った。いつもならお喋りな真田さんだけど、ここに辿り着くまでは必要以上の会話はしていない。秘境者狩りが怖くて雑談をする余裕が無かったんだろうけど、表情が冴えないのは別の理由がある。
「ごめんね、真田さん。僕がミスった」
隠し通路を抜けるまでは、僕自身が、この件に触れる余裕が無かった。やっと少しだけ気持ちに余裕ができたので、先に謝っておく。
「・・・え?」
「制服を超高値で売って、楽をして贅沢な生活・・・
そんなチートがOKなら、みんなやってるよね。
でも、誰もやってない。これが答えだったんだ」
「・・・なんで尊人くんが謝るの?」
「だって、僕、真田さんより3日も早くこの世界に来たんだもん。
ブラークさんからヒントももらってたんだもん。
それなのに気付けなくて、止める発想が無くて、
一緒に制服売って、調子に乗って・・・だから、ごめんなさい」
真田さん、目に涙を浮かべたけど、指で拭って笑ってくれた。
「尊人くん、優しいね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
僕、優しくないよ。だから「優しい」って評価されると恥ずかしくなる。
宿から逃げる時の真田さんも涙ぐんでいた。本当に優しい人なら、きっと優しい言葉で安心させてあげられる。でも、あの時の僕にはできなかった。ここに来るまで、ずっと不安にさせっぱなしだった。その件も謝りたいけど、なんて言えば上手に謝れるのか解らない。
「ねぇ、真田さん。
次の村は、朝早く発たなきゃだから、安いところに素泊まりにするけどさ・・・
セイの町に行ったら、1回くらい豪華なところに泊まってみよっか?」
大金が入った直後、真田さんが「お城みたいな宿に泊まれる」と提案した時に、僕は「安宿のままで良い」と却下した。ブラークさんは「高い宿から虱潰しに探してる」と言ってたから、お城みたいな宿に移ってたら、きっと狩られていただろう。
ただの結果論。選択ミスだらけの僕だけど、ここの判断だけは「我ながらグッジョブ!」と自負している。
「急にどうしたの?」
「僕達頑張ってるから、たまにはご褒美」
「尊人くんっぽくない」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
真田さんに喜んでほしくて提案したのに、即座に却下されてしまった。女の子の気持ち、解んないよ。「ケチ臭い」のが「僕らしい」ってことなのかな?
「ちょっとくらい魔法も覚えなきゃだね」
「うん。僕もそう思った」
ブラークさんが提供してくれた“魔力で光る玉”は普通に市販をされている。玉に魔法で細工がされていて、表面を指で弾くと、中に込められた魔力が反応をして光りを発する(消灯の際も指で弾く)。魔力を充填しておけば何度でも使用可能だけど、僕は魔力を操ることができない。ちなみに、電化製品みたく故障するかは解らない。
「魔法と言えば、すごい火を出して攻撃するとか、相手を凍らせるとか、
そんなのばっかりイメージしてたから、僕には使えるわけ無いって思ってた。
でも、そ~ゆ~のじゃ無くて・・・ね」
水だって、適当な井戸や川で汲んだ物を簡易的な魔法で浄化すれば、飲み水にできる。
「生活に必要な簡単な魔法くらいは覚えておきたいね」
「風を操って空を飛んで・・・みたいな。そんな魔法あるのか解んないけど」
「制服買ったお金があれば、魔法の本を買えるかな?
ペイイスの村に戻ったらさ、みんなで魔法の勉強しようよ!」
「うんっ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「尊人くん、今の発言、死亡フラグっぽい」
「僕もそう思っちゃった」
真田さん、少し気持ちが落ち着いたみたい。いつもの“お喋り”に戻ってくれたので嬉しい。
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日暮れが迫る頃になって、僕達はウェスホクの村に到着する。
黒マントを羽織った人を何人か見かけたけど、僕等を気にする素振りは無い。
「尊人くんの恩人さんと同じマントだよね?」
「うん、オブシディア騎士団の人だね。でも大丈夫みたい」
ブラークさんが口約通りに情報伝達を送らせてくれたらしく、慌ただしく秘境者狩りをする黒騎士は存在しなかった。
「明日になったら、あたしたちを探し回るのかな?」
「今日は早く寝て、明日は明るくなったらすぐに出発しなきゃだね」
所持金には余裕があるし、物価はペイイスの村と同程度。「高い宿から虱潰し」を警戒して郊外の安いボロ宿を選び、2部屋を借りるつもりだった。
「1人で居るところを襲われたら怖い。一緒の部屋で良い?」
「・・・う、うん」
そりゃそうだよね。怖い思いをしたんだもんね。こ~ゆ~のに気付いてあげられない自分自身が嫌になる。
「また・・・寝付けそうにないな」
真田さんの希望で、2人部屋を借りることにした。宿屋の女主、僕達を、どんな目で見たかな?真田さん男装してるから、男友達と勘違いしてくれたかな?恋人同士じゃないからね。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・マジか?」
部屋には大っきいベッドが一個しか無かった。恋人同士と勘違いしやがった。
「部屋、変えてもらお」
「この部屋で良いよ。
2人部屋がこれしか空いてなくて、1人部屋2つになるって言われたら困るし」
「ああ・・・そうですか」
もちろん地獄でした。真田さんと何かをして大変だったって意味じゃないよ。「飛び跳ねれば抱きつける」とか「手を伸ばせば届く」なんて次元ではない。寝返りを打ったら目の前に真田さんが寝ている。怖い思いをして疲れたみたいで、寝息を立てている。
こ~ゆ~時って、不安になってる女子をギューってして安心させてあげるべきなのかな?解んないよ。でもきっと違うんだろうな。
「ね、眠れるわけないじゃん」
この状況を智人や櫻花ちゃんが知ったら驚くね。でも、僕が一番驚いています。「健康的な男子」の資格が暴れて、脳ミソがブッ壊れそうだ。
真田さんに背を向けて、ベッドの端っこギリギリで寝ていたら下に落ちた。仕方が無いので、団体部屋の空きベッドから藁で編んだシーツを一組借りてきて、包まって床で眠りました。
朝起きたら、真田さんに「気を遣わせてごめん」と謝られたので、特に謝る理由は思い浮かばないけど、僕も「こちらこそごめん」と謝っておいた。
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初日の早璃は尊人以上に緊張をして眠れなかった。だから、朝早くから起きて動いていた。二日目の早璃は疲れ果てていた&尊人への信頼が増したので熟睡できた。




