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ULTOR‐ウルトル‐  作者: ばくだんハラミ
アメリトリア王国編
40/47

第37詩・騎士団長のやり方


 アメリカ騎士団・本部基地。

 団長であるフェリ・フラーテルは子ども達の訓練中に突如介入し、教育担当の御付きである騎士にある二人を呼ばせる。


「エタ、それとカウムを呼んで来い」


「!!」


 エタはネックウォーマーのような魔法道具をギュッと握り、カウムは薄く微笑みながら子ども達の中を抜けてフェリの元へ。その姿を見ていた、リームスは眉間に皺を寄せた。


(なんであの二人だけ団長に呼ばれるんだ? まさか抜擢されるんじゃないだろうな? カウムは元々身体能力がオレ達より高い……から、まだわかるが……なんで、エタが呼ばれる! アイツ、まさか媚でもうったのか。それともヤバい犯罪者だから、とか……? …………オレは?)


 一筋の汗が頬を撫でる。

 フェリはエタとカウムの前に立つと、リームスが耳をふさぎたくなるような発言をする。


「貴様らは選ばれた」


(!? クソッ……! まさか、団長自らが選んだんじゃないだろうな……!?)


「カウム、貴様を選んだのは十二臣将の9番目、ノウェムだ。今すぐ支度してこい、西の基地へ異動する」


「十二臣将が、ボクを……ですか?」


「ああ」


「……!!」


 カウムは嬉しそうに笑みを浮かべ、横に立つエタを見た。

 リームスはカウムと似たことを考える。


(カウムが十二臣将の……9番目にスカウトされたってことか……!? じゃあ、エタは……いや、カウムで9番目ならせいぜい、どっかの地方基地への異動か……? はは、もしかしたら騎士団じゃないかもな……)


「エタはこのまま俺についてこい。荷物は部下に運ばせる、わかったな?」


「え……」


(……はっ?)


 今、なんて? とつい聞き返したくなるほどの発言に、それを聞いていた者は近くにいた騎士含めて目を丸くした。フェリは相手の反応など気にせず、ということだ。行くぞ、とさっさと振り返る。


「……待ってください」


 フェリの歩を止めたのはカウムだった。


「普通、逆ではありませんか? エタは貴方に選ばれるような人材じゃない、見ての通りボクよりも華奢で力はないし、訓練中だって……監獄でも何か目立った成績じゃなかった! どちらかといえば足手まといの出来損ない、そうでしょう!?」


 その言葉にリームスは、そうだ! と頭を縦に振る。しかしフェリはただ一言、


「俺の判断に口答えする気か、()()()()()風情が」


「ッ……ふふ、エタは、大量殺人鬼ですけど?」


「————だとしたら貴様の言葉は嘘になるな」


「……はい?」


「子ども一人が村を滅ぼしたのならば、相応の力が無ければできぬ。貴様じゃ無理だ。……だが、貴様らにとってエタは化物なのだろう? 他の餓鬼が言っているのを見たぞ、良い事じゃないか。化物と呼ばれるほどの存在が人間の教育で強くなるというのは」


 フェリがそこまで言うと、ああ、とカウムは納得したかのように声を漏らした。


「……ボクは、()()()ですか。エタだけ連れて行くと周りの子ども達が不審がるから……一人だけ特別扱いしないようにボクを呼んだんでしょう……?」


「勝手に妄想していろ。俺は貴様にこれ以上消費する時間は無い。行くぞ、エタ」


 一人、さっさと歩を進めて行ってしまうフェリの背中を、エタはカウムを横目に急ぎ足で追いかけた。

 取り残されたカウムは、小さく舌打ちをする。

 一部始終を見ていたリームスは訓練から離れて壁に背を付けた。当然、教育担当者であるドゥオ・デキムが目を光らせる。


「こ、こらあ~! そこのキミ、訓練に戻ってください!」


「…………嫌です」


「ななな!? じょ、上官に逆らうのですか!?」


「………………」


 リームスはそのまま座り込み、膝に頭を埋める。


「……オレが、憧れた騎士団の、団長が……アレ、かよ……」


***


 エタが連れてこられた場所は、団長の部屋だ。

 見たところまず大きなテーブルや一人用のソファーが2つ、勲章が飾られた棚などがあり、清潔で高級感のあり、どこか“自室感”のある部屋に、エタはゴクリ、と唾を飲み込む。フェリはエタに椅子に座るよう促すと、問いを投げた。


「紅茶でいいか」


「え、あ、あの……その」


「……紅茶は飲めるか」


 その問いに、エタは小さく返事をした。


「飲んだこと、ありません……」


「そうだったか。珈琲はどうだ。言っておくが緑茶やジュースといった類は無いぞ。水は……天然水ならあるが、カフェイン中毒予防用だ、気軽に飲ませたいものではない」


「…………」


「困ると黙る癖でもあるのか? 言いたいことがあるなら言ってみるべきだ。ああ、何かしらは飲めよ」


(う……)

「…………」


 長い沈黙が続く。


(あんまり、問い詰められると、逆に困るんだよなぁ……)


「……エタ、三分だ」


「えっ?」


「俺がお前に飲めるものを聞いてから三分経った」


「…………」

(ああ、嫌だ……だから何か、まで言えよ。性格悪いよなコイツ……)

「…………あ、の……」


 恐る恐る、震え声で質問をした。


「……牛乳はありますか?」


「…………珈琲牛乳なら」


(え、そういうの飲むんだ……)

「じゃあ、珈琲牛乳でお願いしたいです……」


「いいだろう、座って待っていろ」


 フェリは部屋にある、入って来た扉とは別の扉の向こう側へといった。ちらり、と中の様子が見える。どうやら台所は別室のようだ。

 初めて来る場所、それも騎士団団長の部屋ということだけあって、エタは落ち着かない様子で椅子に座る。しかし、すぐに立ってしまう。エタはそっと、足音をたてずに倒れた写真立てに近づいた。


(部屋の中のものはどれも綺麗に整頓されてるのに、なんでこれだけ倒れてるんだ? 団長、気付いてないのか? ……直したほうが良い、よな。普通……俺が倒したと思われたくないし……)


 エタは写真立てを持ち上げる。

 写真に写っているのはフェリ・フラーテルと車椅子に座った見知らぬ女性だ。その写真をジッとみて、あることに気が付くと同時に扉が開く。珈琲牛乳の入ったコップとクッキーといった菓子類を皿に乗せた丸いトレイを運んできたフェリの目が鋭く光る。


「……座って待っていろと言わなかったか?」


「あ、す、すみませ……あの、写真が倒れてて……」


 フェリはトレイを机の上に置き、エタの目の前まで来ると写真立てを伏せた。


「これはわざとこうしている、他はともかく、これには触れるな」


「はい、すみません……」

(わざと……? なんでだ……だって……)


 エタはフェリの左手を見る。手袋をしているが、それでも“ある”というのは認識できた。

 写真でもそうだ、写っていた女性とフェリ・フラーテルの左手の薬指には指輪がある。


(……結婚相手じゃねぇのか? この人が結婚してるってあんま想像つかないが……)


「エタ、座ってアレでも口にしながらこの部屋で待っていろ、俺は先に残った仕事を片付けてくる。くつろいで構わん、あまりにも暇なら右の扉から隣の部屋に行くと良い、小さいが俺の書庫だ。好きに読め」


(え、仕事終わらせてないのに俺のところに来たのか!? ああいや、団長だし忙しいのか……)

「わかりました……」

(……つぅか、ずっと喋らないでいたの罪悪感が……くそ、なんかむかつく……)


 フェリが部屋から姿を消すと、エタはゆっくりと再び椅子に腰をおろした。そして、深いため息をつく。


「…………居心地がわりぃ……」




 ゆっくりとクッキーを頬張り、甘い珈琲牛乳をゆっくりと飲む。時間をかけてくつろいでる風に装うが、フェリが部屋を出てから約30分、思いのほか戻ってこない。


(……まあ、ここ広いからな……)


 その後、20分ほど待つが戻ってくる様子がない。もう菓子も飲むものもなくなっていたエタは部屋をうろつき始めた。


(そういや、ショコがどうとか言ってたよな。右の扉……ここか?)


 エタはドアノブを捻り、少し開けた隙間から部屋を見渡す。どうやら誰もいないようで、代わりに大量の本棚が図書館のように並んでいた。


(ここが……ショコ? ああ、書物か……好きに読めって言ってたけど……)


 手前にあった本から、なんとなく手に取ってみる。


(『世界の終末』……? 『ゾロアスター』……なんだこれ、何が書いてあるのか全く理解できねぇ……)


 もっと何か、自分でも読めそうなものはないかと部屋の中を回る。すると絵本だけが入った本棚が見つかった。本棚の中で上から三段の棚だけ本数が少なく、思わずそこの本を見ていく。


(団長って絵本とか読むのか……『ぼくネコなんです』『ばくだんころりん』『ガリとガラ』『ひゃくまんかいいきたイヌ』……読む気にはならねぇけど……なんでこんな本が……)」


 絵本の本棚の横を見ると、そこは数学に関する本でいっぱいだった。


(差がすげぇな……数学……算数よりちょっと難しいやつだよな、まだ習ったことねぇけど……)


 分厚い本を手にし、床に座って本を開く。何が書いてあるのかエタには全く理解できなかったが、数字と記号の羅列や曲線を見ながら、エタは呟いた。


「なんか……良い……」


「ほう、数学に興味をもつか」


 背後で突然、フェリ・フラーテルが姿を現した。驚いてつい跳ね上がるエタを見て、フェリは意地悪な笑みを浮かべる。


「クク、貴様は人の気配には敏感だと思っていたのだがな」


「う…………」


「しかし、数学に興味を示すのは良い事だぞ。俺も教え甲斐があるというもの」


「? おしえ、がい……?」


 フェリはエタの開いていた本を取り上げ、ああ、と返事をした。


「今日から俺が貴様を教育する。貴様に今必要なのは体力でも戦闘技術でもない、身体を使いこなすための知識とどこに出しても恥ずかしくない教養だ」


「……!? ッ??」


「わからんか。俺の傍に置いてやるということだ」


 膝をつき、エタの耳元で小さく囁く。


「俺と共にいれば父親に会える機会もあるぞ。元軍人の息子、エタ・ウェーナートルよ」


***


 医務室にて、ピンクに染まった髪に、赤と黄金の小さな冠をかぶった女の子は、十二臣将の3番目・トレースの膝の上に乗って足をバタバタと動かした。


「はあ……」


「あら、()()、どうしたのため息なんてついて」


「先生と呼べ、()()()()。いや、なんだ……お前はどう思う。フェリ・フラーテルのやり方を」


「んん……? なんの話???」


「…………知らないのであればいい、さて、そろそろ退いてくれ我が娘よ。19にもなって父親の膝の上に乗るものではないぞ」


「ええーー! やだあ、久しぶりに会ったのにぃ~! 別にいいでしょう!?」


 トレースはクイーンを持ち上げ、強制的に膝から退かした。


「君はもう少し、十二臣将の“5番目”である自覚を持つことだ」


「い~や~あ! その他人行儀! だいたい、親子の絆に立場なんて関係ないもん!!」


「我が儘はほどほどにな。今日は仕事で本部に来たのだろう、ほら、荷物を持って――――」


 トレースは自分の娘、クイーンのカバンを持ち上げ持たせようとするも、一瞬目を離した隙に娘の姿はそこになく、医務室の扉が開きっ放しであった。


「…………はあ~……」


 医務室に再び、大きなため息が零れた。


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