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ULTOR‐ウルトル‐  作者: ばくだんハラミ
アメリトリア王国編
35/47

第32詩・ドラゴンにとっての名前

 アメリカ王国騎士団基地・医務室。

 十二臣将の"3番目"トレースは団長、フェリ・フラーテルに向かってため息をついた。


「酷い提案だ。まだ15歳の子どもにデケムの相手をさせようなどと、死んでしまうかもしれん」


「本当にそう思いますか?」


「……なに?」


 フェリは先日見た時人の顔を思い出す。


「勝算が無いなら俺は提案などしませんよ」


 その言葉を聞いたトレースは、目を丸くしてから、再びため息をついた。


「……もし私が予想している事であれば、君は相当性格が悪い」


「俺の性格が悪いのは生まれつきでしょう。それで、先生から見てエタはどうです」


 トレースは自身の机の上にあるファイルを手にし、そこからエタのカルテを取り出した。


「父親譲りか、あるいは……才能はあるし、覚えも悪くない。精神面に難はあるが、そこは定期的なメンタルケアでなんとかなるだろう」


「そうですか……暫くそちらに預けます。頼みましたよ、先生。では、俺は仕事に戻ります」


 そう言ってフェリが医務室を出る手前、トレースはただ一言呟いた。


「ああ。お大事に、フェリ・フラーテル」


***


 AM 8:30。

 先日歩いた道をレヴィと共に走り始めたが、1時間半ほどで時人は足を止めた。


「ぜっ……ハアッ…………ハーッ…………もっ! ……ハァーッ……ムリ……」


 6時間半歩けた道も、走るとすぐに息があがり、時人の疲労を回復しようと足には激痛が起きはじめる。

 時人は寧ろ、よく1時間半も森の中を走り続けられたと自分の身体を褒めたいほどだった。


「トキト、大丈夫? 休憩しようか?」


「……気を、つかわせてごめん……暫く歩いても良いかな、足が、ハァ、回復したら……走るから……っ」


「勿論良いわよ。トキトはほんとに真面目ね。竜王は見てないから、座って休んじゃっても良いのに」


 そう言ったレヴィに、時人は歩きながら視線を向けた。


「あー……なんて、いうか…………オレから助けを求めておいて、あと、しかも、その、昨日はザッハークさんの時間を……オレに使わせたのに、応えないのは良くないかなと、思って……」

(それでもキツいもんはキツいから歩くんだけど……)


「そういう考え方がもう真面目。良いところだと思うけどね」


「はは、ありがとうレヴィ……そういえば、関係ない話。前から思ってた事があるんだけど……」


「なあに?」


「レヴィってザッハークさんのこと竜王って呼んでるよな。それ、名前で呼ばないのはなんでだろうって」


 そう問われ、レヴィは目を丸くし意外な反応を見せた。


「そっ、それは……えーと…………何て言ったら良いのかしら……」


 戸惑う姿に、触れてはいけない部分だったかと、時人はドキリとする。


「……聞かないほうが良かったかな?」


「どう、かしら。でも説明した方が良いとも思うの。ドラゴンにとっても大切なことだもの、家族に隠し事は良くないわ?」


 だから、とレヴィは説明を始める。


「あのね、根本から話しちゃうけどどうか聞いてね。アタシ達にとって名前って、とってもと~っても大事なの。存在意義そのものといっても過言じゃないわ? 名前から自分の本質や、何をして生きるのかを教えてもらえるものなの」

「例えばアタシの名前は、海を意味するリヴァイアサン。別名レヴィアタンから頂いたものよ。でも…………」


「でも?」


「……竜王は、ちょっと違うのよね。なんていうか、頂いた名前じゃなくて借りてる感じ。多分、多分だけど本名じゃないわ。ドラゴンはみんなそれを感じ取ってる」


「……だから、名前で呼ばない?」


「そうね。仮に偽名だとしても人間なら呼ぶのでしょうけど、アタシ達は真名と二つ名しか受け入れない、受け入れられない。偽名では、その存在を認められないもの」


 俯き気味に悲しい表情を見せる。

 時人にはレヴィの話していることを全て理解できるわけではないが、ドラゴンにとっての価値観に少しでも近づきたいと感じた。


「……質問ばっかでゴメン。その……竜王は名前で呼ばれない理由を知ってる?」


「誰かが言ったかどうかはわからないけど、気付いてるでしょうね。あの御方もドラゴンだし、20年も名前で呼ばれなければ流石にね」


「ああ、そっか。そうだよな……」


 なんだか凄い話を聞いてしまったような、と時人は複雑な表情で歩くスピードを上げようとしたその時、ねぇ。とレヴィが声をかけた。


「トキトはどうしてトキトっていうの? 人間のほとんども名前に意味をつけるものでしょう?」


「時人の意味? それは……」


 ええっと、と声を漏らしながら過去を思い返す。

 

 小学生の頃。親につけられた名前の意味を親に聞いて作文にし、参観日に発表する授業があったのを覚えている。そしてその時、親はどちらも来てくれなかったことも。

 しかし――――


「……ごめん、覚えてない。漢字を覚えるときに、時の人と書いてトキトと読むって覚えならあるんだけど……」


「まあ、素敵じゃない。トキトは一億年も前からここに来たから、時間を渡って来た人だもの。時の人。ピッタリだと思うわ」


「それは……確かに、そうかも」

(時の人……時を渡る人、か……)


「人間もドラゴンと同じように名前に相応しい人生を歩んでいくのかもしれないわね。そう考えたら、これから先がちょっとドキドキ」


「……だね。その、色々とありがとうレヴィ……そろそろ走ろっか?」


「ええ! 片道半分まであと少しよ、頑張りましょ!」


「片道半分まで、かあ……」


 苦い笑みを浮かべ、二人はそのまま険しくなっていく道を走って行った。


***


 一方その頃。

 トラキア大帝国・国防省。

 皇帝であるアキレス・A・アエテルヌスは赤い華一輪を非常に丁寧に保管しつつ愛でていた。それを見た皇帝の側近、否、ペットのドラゴンである女性・ラードゥンが呆れた声で話しかける。


「皇帝さあ……ブリタンニアから何を採ってきたのかと思ったら、まさかの薔薇かよ。赤い薔薇はもう竜王に贈らなかったっけ?」


「お前の目は節穴かラードゥン。これは薔薇じゃない、ミドルミスト・レッドだ。かなり希少な華だよ、ようやく見つけたんだ」


「ミドル……なんだって? はあ、いや、花の名前なんかいいや。覚えても意味無いし聞いてもわかんないし」


 おいおい、と今度はアキレスが呆れた声を漏らした。


「ドラゴンであるお前がそれでいいのか。竜は名を何より大事にするものだろう」


「はあ? なんで知ってんの……つーか、何よりじゃないから。財宝のが好きなやつばっかだしぃ、竜王もそっち派でしょ。だから真名答えないんだよアイツ」


「言葉には気を付けろラードゥン。俺はともかく、我が妃を侮辱することは赦さんぞ」


「妃じゃないじゃん。フラレてんじゃん。いい加減諦めたら? てかやめといたら? 偽名な上、勝手にドラゴンの王になってる毒竜とケッコンとか絶対ロクな目に遭わないでしょ」


「……」


 ラードゥンの言葉にアキレスは薄い笑みを浮かべる。


「……なに? キモいんですけど」


「キモいは言い過ぎだろう。いやなに、偽名であることを第一に気にしている辺り、やはり名を大切に想っているのだなと思ってな。ラードゥンの名は黄金の林檎を護るドラゴンが由来だよな」


「違うって。黄金の林檎を護れなかった、役目も果たせなかった蜂の巣毒々ドラゴンだよ。詳しくは聞いてないけど、あの女もひっどい名前付けるよね。せめてヘラクレスなら格好ついたんだけど」


「……そこまでいうか。己が母に対して酷い言い様だ、確か名はティアマトだったか?」


 ティアマト。

 20年前、5年ほど地球に君臨した最も気高き女王竜。

 ザッハークやファヴニールを除いた、この地球にいるドラゴンの多くはそのティアマトの子であり、ラードゥンもその一頭であった。


「やめてよねー、あの女は女神の名前で呼ばれる器じゃ無い。異界で子ども産むだけ産んで、地球に来たら意味もなく人間と殺し合わせて、自分は勝手に死んでやがるの。超ムカつく。これでムカつかない奴いる?」

「……いるか。アメリカに残ってる奴等はだいたいあの女を尊敬してそー、うざ。レヴィなんかはこっち来てから産まれてるからまだわかるけど、ニーズとかまじありえない。『母ちゃんをソンケーしない子どもなんていないッスよ!』とか言いそう、キモ」


「途中からただの暴言になっているな。ま、理由はなんであれお前が俺の下に居るのは有り難い…………と、なんだか俺達。いつも話しながら話題が変わっていってる気がするな」


「んー? 別にいいんじゃない。お喋りが続くのは仲が良い証拠でしょ。自分で言っててキモいけど、てか話戻しちゃうけど」


 それさ、とラードゥンはミドルミスト・レッドを指差した。


「もしかしてすぐ渡しに行く感じ? まだまだやることあるんだけど、パーティーまで待てない?」


「今すぐ会いに行きたいのは山々だが……流石に無理だな」


(ほっ……)


「よって5日後だ。5日後の朝に出発する」


「……はあ?」


「別に、お前はここに残って良いぞ。俺にはイカロスがあるしな」


「イカロスってアンタ専用の戦闘機みたいなやつだっけ。あんなのでアメリカ行ったら誤解されるでしょ、つーか皇帝が一人で行動するなっての。船使いなよ、費用馬鹿になんないけどさ」


「私用に使うと支持率に影響出そうだな」


「じゃあパーティーまで待ったらあ?」


「いや、行くと決めたからには行く。事前にデイヴィッド国王に伝えておけばイカロスでも問題ないだろう。お前も来るか?」


「やだよ、あんなの一度だって乗りたくない。ワイバーンより速いんだもん、意味わかんない」


「ふむ。じゃあやはり一人で行くか。防具(アイギス)があれば天使や魔物に遭遇しても平気だろう。心配せず待ってろよ」


「……なんかさあ、今行くみたいな雰囲気だしてるけど5日後だよね?」


「ああ、そうだとも。だが何事も早めに伝えておくに越したことはない」


 よし、とアキレスは立ち上がる。


「アレを再開するか。逸早く、我が国の最終兵器を完成させなければな」


 ──この後、すぐにトラキア大帝国からアメリカ王国へ伝達があり、5日後にアキレスがやってくると竜王の耳に届く。

 ザッハークは複雑な表情をしながら、鉢をひとつ用意した。


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