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ULTOR‐ウルトル‐  作者: ばくだんハラミ
アメリトリア王国編
32/47

第29詩・騎士団基地


 朝食はフィンの店で買ったデカいパンと赤色のスープ。


 トマトらしい匂いはせず何の材料が使われているかわからなかったが、食べないのも申し訳ないという気持ちで口にしてみたところ何故かビーフシチューのような味がした。

 ただ美味しければなんでも食べるので、時人はあまり気にせずそのまま食べ続け、最後に手を合わせる。

 レヴィはこっそりスープだけは口にしなかった。


 食事を終えると三人は家を出て空を見上げる。雲なき晴天に思わず頬が緩んだ。

 ぽかぽかしてて良い春の暖かさだとその時までは思っていたが、ニーズがドラゴンへ変形したその時に強い風が吹き、この街へ来た時の風の冷たさを思い出す。


 またあれを味わうのか、と少し嫌な気持ちになりながらレヴィと共にニーズの背中へ乗った。


「さあ、レッツゴー!!」


 またもやレヴィの掛け声に合わせて、ニーズは思い切り翼を広げ、後ろ脚で地面を蹴る。当然、あのときと同じ状態になった。


 空中移動がゆっくりになった頃、時人は落ち着いて景色を眺めた。慣れない高度に少し不安を抱きつつ、美しい街を見る。


「……あ、あそこって……」


「あのときの広場よ」


 ベリアルが降りてきた広場は、すっかり元通りになっていた。以前より人は減ったように感じて少し寂しい雰囲気だ。


 ふと、見覚えの無い黒いドラゴンがこちらに向かっているのに気が付く。乳房のようなものが二つあり、時人は内心驚いた。

 見知らぬドラゴンに、ニーズは知った名を呼んだ。


「ファヴニール姉ちゃん!」


「……ニーズ。次の仕事だ」


 それは確かに、ドラゴンの街に来たときに聞いたファヴニールの声だった。

 ドラゴンの姿はニーズより一回りも二回りも大きく、優美で威厳があり、近くにいるだけでとても緊張した。


 ファヴニールの言葉に、ニーズが反応する。


「ああ~オレ、レヴィ達を騎士団のとこまで送るんスけど」


「悪いが急用だ。フタリにはここからは徒歩か馬車を利用して行ってほしい。我は8秒待つ。過ぎたら鱗一枚だ。では数えるぞ」


「えっ、ちょ、ちょっとぉ!?」


 ニーズは急激に降下した。


「フタリともほんとごめんなさいッス! レヴィ、降りれるッスか!?」


「ああもう、仕事なら仕方ないわね! トキト、アタシに掴まって!」


「へ? わっ、うわああ!?」


 レヴィは時人の腕を引っ張り、ニーズから飛び降りた。地上からはまだ10mほど距離があり、普通に飛び降りては危険な高さだ。

 しかしレヴィはニッ、と笑みを見せる。


「トキト、魔力はこういうときにも使えるのよ」


 次の瞬間、暖かな風が時人の頬を優しく撫でる。レヴィと時人の身体は風を纏い、ゆっくりと地上へ降下していった。

 繋がった腕からレヴィの魔力が自身の身体を覆っているのが、感覚でわかる。


 地上に両足がつき、見上げるとそこには既にニーズとファヴニールの姿はなくなっていた。


「……ありがとう、レヴィ」


「いいのよこのくらい! ……それより、ごめんなさいね」


「いや謝ることなんて──」


「こんな降り方したらそりゃ目立つものね!!」


「えっ…………へ?」


 気付くと、街の住人が物珍しそうに時人とレヴィの周りを囲っていた。

 一人の男性が一言、口にしてしまう。


「なあ、あれ……神の堕とし子じゃないか?」


 その言葉と共にデカい歓声と驚愕の声が街中に響いた。


「あの御方が神の堕とし子か!」

「眠っていたときより随分健康そうだ」

「隣にいるのは? もしやドラゴンか?」

「空から降りてくるなんて、ああやはり、神の子に違いないのだ!」

「確か名はトキト様だろう?」

「ああ、トキト様だ!」

「神の子よ! 我らの未来に希望を──」


 騒がしい住人達の声に、白い馬車に乗っていた一人の男が視線を向ける。


(トキト様? まさか、あの子が……)


 白い馬車と共に男は街中へと入っていく。


 一方でレヴィは、


「……まずいわ、早くここから離れましょ!」


「ああ、うん!」


 時人の安全の為にもあまり騒ぎにしたくないため、時人の手を引っ張り、人気の少ない路地裏へと走っていった。


「どこに行くんだ!?」

「お待ち下さい! できれば話を……!」

「私の子どもを抱いてくれないかしら!?」

「ドラゴンめ、勝手に連れていくんじゃねぇ!」


 住人は時人達の後を追ってくる。

 しかしレヴィのあまりの足の早さに時人は言葉通りに浮き足立ち、住人が追い付くことはなかった。複雑に入り組んだ街中でどうにか撒いた。


「……ふぅ、大変だったわね。トキトだいじょ──」


「ふふ、見つけたわ」


「わ!?」


 白い馬車を背に男は、赤ん坊を相手にするように、時人を両手で持ち上げた。


「貴方が噂のトキトちゃんね? 私は十二臣将が一人、"2番目"のドゥ・アエよ。監獄で顔を見かけたかしら?」


「ど、どうも──」

(この人、声も雰囲気もムーシュさん達とは違う──絶対にオネェだ!?)


 ドゥ・アエ。

 そう名乗ったのは王子のような格好をし、褐色肌と深い色の金髪、そして緑のメッシュが特徴的なたくましい男だった。


 慌ててレヴィが二人の間に入る。


「ちょっと! トキトを降ろしなさいよ!」


「あらぁ。別に取って食べたりしないわよ。私、本命がいるもの」


 そう言いながらドゥ・アエは時人を降ろす。レヴィはそれでもドゥ・アエに噛みつくように怒った。


「聞いてないわよそんなこと! トキト、大丈夫? 痛いところない?」


「オ、オレは全然大丈夫……走って? ちょっと疲れたくらいで……あの、この人って……」


「十二臣将っていう、フィン・フラーテルの犬の一人で騎士団のお偉いさんよ。詳しくは知らないけど」


「まあ、犬だなんて口の悪い子ね。本当の意味で噛みついちゃいたい」


「妙なこと言わないで! なんなのよ貴方! いったい何の用!?」


 ドゥ・アエに威嚇するレヴィ。それを見て、時人は困った顔でレヴィの前へ出た。


「レヴィ。オレ達これから騎士団の基地に向かうんだから、喧嘩はよした方がいいんじゃないかな」


「そ、それは……」


「あら、目的地は騎士団基地(ウチ)なのね。私も今から向かうところだから、良ければ馬車に乗せてあげるわ。というより乗せてあげようと思って貴方達を追ってきたの」


「え?」


 驚いた表情の二人に、ドゥ・アエは優しく微笑んだ。


「トキトちゃんがいるだけで住人がああなっちゃうんだもの。強くて立場のある大人が護ってあげないとね?」




「なあ、あの馬車の中にいるのトキト様じゃないか?」

「え、ほんとか? って、ちょ──」


 馬車を見た住人は目を丸くした。


「ありゃドゥ・アエ様の馬車じゃねぇか!?」

「本当だ! あの白い馬はドゥ・アエ様の……よく見ろ、ドゥ・アエ様がトキト様と御同行してらっしゃる!」

「ありゃ、近付けねぇなあ……」

「近付こうとも思いませんよ。失礼の無いよう、気を付けないと」


 街の住人はドゥ・アエの馬車に向けて会釈をしたり、敬礼をして騒がない範囲で見届けた。


「……御同行してるのはアタシもなんだけど」


 と、レヴィは一人不貞腐れる。


 そういえば。とドゥ・アエが話を振った。


「貴方達は何の用事があって騎士団基地に向かおうとしたの?」


 問いに時人が答える。


「オレ、剣術を習いたいんです。参考になる人がいればいいな、とか、その、鍛練を見学させてもらおうかと思って……」


「ふぅん? そういうのは事前に連絡をもらうものだけど、まあトキトちゃんなら良いでしょうね。私が話を通しておくわ」


「あっ、す、すみません。そうですよね、アポ取るのが普通ですよね……」


「なによ」


 レヴィは不満気な表情で会話に介入した。


「事前に連絡なんかなくたって中くらい見せなさいよね。見られて困るものでもあるってのかしら。フェリ・フラーテルの事だからあるのでしょうけどね!」


「マナー、常識の話よ。急用でもない限り、部外者を入れることなんて出来ないわ」


「ふーん! 人間の常識なんてし~らない!」


「トキトちゃんは人間でしょ」


「トキトのこと"ちゃん"付けしないで! なんなのよその距離感! キィー!」


「ふっ、ふふ、あっははは!」


「なあに笑ってんのよー!」


 ドゥ・アエの子どものようにあどけない笑い声は、馬車の外まで響いていった。


 AM 9:35。

 騎士団基地の門を潜る。

 白い馬車が止まり、降ると、時人は んーっと背伸びをした。その様子は外にいる見張りや建物の中から視線を集め、時人は静かに俯いた。


「トキト、長い間 馬車に乗ってたから疲れたでしょ? 大丈夫?」


「ああ~うん、ちょっと腰(とお尻)が痛いけど大丈夫だよ。ありがとう」


「ふふ、大丈夫ならいいのよ。それで、これからどうし──あっ」


「?」


 白い馬車の元へ近付く影。視線を寄越すと見知った姿が見えた。


「む。アンリと共に来たわけではないのか、ドゥ・アエ」


 姿を見せたのはフェリ・フラーテルだった。フェリに名を呼ばれると、ドゥ・アエは思い切り彼へ飛び付いた。


「フェリちゃ~ん!! 出迎えに来てくれたのー!?」


「くっつくな。それで? なぜその二人を連れてきた」


 冷たい視線が時人とレヴィに向けられた。レヴィは威嚇するように時人の前へ出る。フェリの問いにはドゥ・アエが答えた。


「団員の鍛練を見学したいのですって、主に剣術を」


「フン、裏庭にいる野良猫喧嘩でも見せておけ。それと、報告書を提出しておくように。貴様は毎度忘れがちだからな」


「ごめんなさーい。それは良いのだけど、ところでなんでアンリちゃん? 会う約束してたの?」


「約束はしていないが、前日の夜に、朝10時頃に来るとウーン・デキムを通して連絡があったのでな」


「そうなの。楽しみで予定より早く出てきちゃったのね」


「馬鹿を言うな。入る前に追い出す為に、だ。奴のことだから餓鬼に会わせてくれだのなんだの要求してくるに違いないからな」


「ふぅん……ま、事情は把握したわ。私は二人を中にいれちゃうけど、それは良いのかしら?」


 ドゥ・アエがそう言うと、フェリは指を上に向けてもっと近付くようにジェスチャーした。ドゥ・アエが顔を近付けるとフェリは二人に聞こえないほどの声で話を始めた。


 話が終わるとドゥ・アエは、


「了解」


 と小さく返事をして身を引いた。次に時人とレヴィの方へと振り向くと、穏やかな笑みを見せる。


「二人とも待たせちゃったわね。見ていいとこは限られちゃうけど案内するわ、私についてきて」


「は、はいっ! ありがとうございます」


「ふーん……」

(なーんか怪しいわね……)


 白い馬車は兵士に任せ、レヴィは怪訝な表情のまま時人に続いてドゥ・アエの背中を追った。


 着いていった先から、悲鳴のような雄叫びが響く。もう少し歩いていくと、木剣を持った大人達が木剣を交えて訓練しているのが見えた。


「……すごい……」


「女の人も結構いるのねぇ……」


「ふふ、ビックリした? 勇ましく見えるでしょう。でも彼らは一般から騎士を希望したまだまだ未熟の訓練生達なの」


「えっ、そうなんですか!?」


 ドゥ・アエの言葉にレヴィは不思議そうな顔をする。


「騎士って一般人がなれるもの? 貴方達って貴族だから騎士なんでしょ? 他は兵士じゃない?」


「?? 騎士と兵士って違うの?」


「王に仕え、領土や民を所有している貴族が騎士。報酬を条件に闘うのが一般市民の兵士や傭兵って聞いてるわ?」


「そうなの? レヴィ、詳しいね」


「でも、ニーズお兄様の言葉だから不安になってきた……」


 あのニーズさんがそんな知的なことを、と言いかけたが流石に口にしなかった。

 レヴィの疑問に、ようやくドゥ・アエが答える。


「一般市民でも、兵士からでも傭兵からでも、お金、あるいは実力さえあれば騎士にはなれるものよ。なるまでの道のりは長いけど、少しでも戦場で役に立ってもらうためにこうして騎士団が面倒を見てるの」


「……そう、なんですね…………あの……」


「なあに?」


「監獄にいた子ども達の事なんですけど、あの子達も騎士になるためにこういった訓練を?」


「…………そうねぇ。その筈だけど、私は担当じゃないから訓練の様子をまだ見たことないのよね」


「そう、ですか…………すみません。なんか……」


「……………………」


 時人は訓練所の様子へ視線を向けた。自分より大きな身体が剣を振るい、闘い続ける様子を、ただ見ていた。


(……これでオレは何か学べるんだろうか。オレがしたいこと…………エタ達はどうしてるかな……)


 集中して見ていられない。時人はただ、時間を消費するように訓練の様子を見る。

 ドゥ・アエは、やっぱり、と声を漏らした。


「?」


「……気になっちゃうわよね、仕方ないわよねぇ……うーん…………向こうの裏庭で野良猫の喧嘩でも見に行ってみたらどうかしら?」


 そう言ってドゥ・アエは裏庭の方角を指差した。


「? あ、あの……」


「ああそうだった! 私、報告書を書かないと! それじゃあ二人とも、ばいば~い。飽きたらいつでも門から出てって大丈夫よ~」


「え!? ちょ、ちょっと、ドゥ・アエさん!?」


 彼は振り向くことなく、あっという間に行ってしまった。


「…………行っちゃった」


「……ねぇトキト。野良猫の喧嘩ってどんな感じなのかしら?」


「え? あー……そう、だなあ……威嚇しあってるのは見たことがあるけど、人が近付くと逃げるから……」


「でもここの野良猫はよく目撃されてるみたいだし、逃げないかも?」


「…………レヴィ、猫が気になるの?」


「えっ! そういうわけじゃ、ないのだけど……剣の鍛練よね! そっち見に来たわけだし!」


「……いや、見に行こうか、猫」


「へっ!?」


 オレもちょっと気になるし。とドゥ・アエが指を差していた方向へと二人は歩いていった。

 近付くとだんだんと猫の叫ぶような声が聞こえてきた。威嚇しあっているのだ。

 裏庭と思われる草むらの中、猫数十匹がいたるところで殴りあっていた。


「!?!?」


「えーーー!? なにこれすごーい! 見て見てトキト、猫がいっぱいよ! 小さくてかわいいわね!」


「……かわ…………」


 繰り出されるアッパー、爪の攻撃、牙を見せての威嚇、飛び付きからの噛みつき、取っ組み合ってゴロゴロと転がっていく猫達。

 激しいキャッツバトルに時人はただ口を開けて見ていた。

 その中の誰一匹、人間が来ていることに気付いてないようだ。


 ただただその様子を見ていると、猫の声のなかに、人のような声が聞こえてくる。


「ごめんねー……通してね……ごめ、君たちなんでそんなに喧嘩して……あうっ、僕の髪は食べれないよぉ」


(……もしかして、人がいる……?)


 冷静になって、キョロキョロと辺りを見渡す。しかし声の主の居場所がわからず、レヴィへ声をかけた。


「ほんと? ……確かに人の声が聞こえるわね…………あっ、トキト、そこを見て!」


「え?」


 レヴィが指をさした方向を見る。そこにはただの草むらで何もない。しかしそのことが、この草むらの中では異変だった。


 キャッツバトルは裏庭のあらゆるところで繰り広げられている。猫達は殴り合い、時には喧嘩相手ではない猫とぶつかり、ヤンキーのようにぶつかった相手と喧嘩を始める。もはや猫の喧嘩とは思えない大暴れっぷりだ。


 だというのに唯一、そこだけに猫がいない。転がっていくこともない。しかもよくよく見れば人が横になって入れるほどの広さだ。


「…………」


 時人はごくり、と唾を呑んでそこへと向かう。猫の流れパンチは予想以上に痛く、途中ズボンが破られながらも、そこに辿り着こうとする。ここでもまた異変に気付く。


(……位置が動いてる……)


 もうこれ以上、猫達の間を通って攻撃を受けたくない時人は、ようやく大きな声をあげた。


「あの! 何者ですか!?」


「!!」


 気付いたのか、ガサガサと草むらが揺れる。

 不思議なもので、何もなかった場所から、だんだんと人の姿が浮き上がってきた。


「──あ」


「やあトキト。それにレヴィ。二人してどうしてここに?」


 姿を見せたのはアンリ・ユーストゥスだった。

 二人の声が裏庭に鳴り響く。


「貴方こそどうしてここに!?!?」

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