表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ULTOR‐ウルトル‐  作者: ばくだんハラミ
アメリトリア王国編
31/47

第28詩・時人の進む道

 PM14:00。

 晴天の下、時人は家の庭にレヴィと共にいた。レヴィは木の枝を持ち、ペシッと自分の掌を叩くと胸を張って前に出る。


「魔法の訓練をしましょうか! 今日は魔力を身に纏うわよ!」


「了解です、レヴィ師匠」


「し、ししょ……ふふ、ま、まあ、呼び方は自由でいいわ。えっとね、時人は魔力操作ってしたことある?」


「多分……」


 無い。と言いかけるところで、ふと世界に来たばかりの事を思い出す。信者と思われる方々に言われ知らない誰かを見たとき、ベリアルが地上に来てリデレという少年を抱きかかえながら煙の中を見渡したときのことだ。


「……あるかも。眼の力を使ったときのって魔力操作によるもの……じゃないのかな?」


「眼の力……ああ、あの沢山血が出ちゃった時のね。確かにそうね。アレに関してはあまり詳しい事は聞いてないんだけど……強い魔力を感じたわ。じゃあもしかしたらすぐ取得できるかも。勿論、無理しない範囲でね」


 それじゃあ、とレヴィは時人の前に座る。


「トキトも座って。土汚れとかは気にしない気にしない」


「ああ、わかった。座禅を組むの?」


「ザゼン?あぐらのこと? トキトは初心者だから、リラックスできる体勢がいいかなと思ったの」


 そっか。と時人はレヴィと同じような体勢で地面に座る。


(レヴィ、スカートだけど大丈夫かな……)


 ほんの少し目の前の女の子を意識しながら、視線がいかないように目を背けた。

 レヴィのムッとする。


「トキト、これから集中するのよ!」


「ああ、ごめん」


「もう。まずアタシが手本になるから、ちゃんと見ててよね」


「うん」

(手本……魔力って俺にもちゃんと感じることが出来るのかな……)


 少し心配があったが、次の瞬間、それは杞憂に終わった。レヴィは普通にしているように見えるが、髪は下から風に吹かれたように浮き、周辺の草がゆらゆらと柔らかく揺れる。目には見えないが、肌に何かがピリつくような、普段のレヴィとは違う感覚がした。


(これが……魔力を身に纏うってこと……?)


「ふふん」


 鼻で笑うと同時に、スン、と髪や草の揺れがおさまり、いつものレヴィがそこにはいた。


「どうかしら。身に纏ってるのはわかった?」


「う、うん。なんか凄かったよレヴィ……師匠! あれ、オレにも出来るの?」


「ふふふ、出来るわよ。というより、出来なきゃなの これが出来てから道具の強化とか魔力操作の応用が始まるのよ」


 魔力操作の基礎中の基礎だとレヴィは説明する。


(言語の勉強ばかりで魔法にはろくに触れてないからなあ……エタ達は出来たりするのかなこれ……)


「悩んでても始まらないわよ。アタシのを参考に挑戦開始! イメージしやすいよう、目を閉じていいわ」


「うん……しゅ……集中、イメージ……」


 目を閉じ、辺りは暗闇に。千里眼を使用した時のように、全身に集中する。目には見えない、気のようなものを想像しながら時人は顔を顰めた。

 囁くようにレヴィの声が聞こえる。


「音を聞いて、意識して。響いてくるものを感じとるの」

「触れる空気を意識して。その空気がそれ以上触れてこないように、肌の表面に膜を張るようにイメージするの」


 レヴィの言葉通り、時人は意識を高める。しかし、レヴィのような現象は起きない。

 レヴィが次々と言葉をかけるが、時人に変化は訪れなかった。


「と、トキト。3分ずつやっていきましょ。あんまり長くやると集中が切れちゃうものね」


「ああ、うん……ごめん。上手く出来なくて……」


「謝らないでいいの 絶対アタシの説明不足だわ。生まれた頃からやってたから詳しく説明するってことが出来てなかったのよ」

「あのね。魔力は生命エネルギーのようなもので、常に放出されて常に使われているの。それは知ってる?」


「えっと、アンリさんからエネルギーだとは聞いてるけど……そこまでは聞いてないかも」


「そうなのね。まずトキトがしないといけないのはその放出されていく魔力を自分に留めることね」


「放出されていく魔力、か……わかった。頑張ってみる」

(全然わからないけど、やってみるしかない!)


「ええ、応援してる!」



 ────二時間半後。



「あのね、トキト。物凄く言い出し辛くて長い間やらせちゃったんだけど、その、えっとね…………トキト…………」




「魔力操作が絶望的に下手だわ!!!!」




 時人は、ガーン! と効果音が頭上に飛び出たような表情で酷くショックを受けた。あわててレヴィがフォローをする。


「あっ、あのね! きっとまだ魔法に触れる経験と知識が少ないのが原因なんだと思うわ? どうしても難しければ体を鍛えて自分を護れるようになれば良いし、アタシもついてるからトキトを護るわよ!」


「師匠……………………ううん、ありがとうレヴィ。でもオレは……自分の身は自分で護れるようにはしたいよ。ベリアルのときみたいに、ただレヴィが傷付くのを見るだけなのは嫌なんだ」


「……トキト……」



「──それじゃ、強くならなきゃね」



「!」


 声の方へ振り向くと、パン屋の経営をしている男、フィンが大きな袋を抱えてそこにいた。


「やあ、お邪魔だったかな?」


「フィンさん! どうしてここに? 店のほうは?」


「閉めたよ、僕は8時間しか働かないもんでね」


「そ、そうなんですね」


「それはそれとして、今日はトキトくんという人手がいてくれたお陰でいつもより楽できたよ。そのことでありがとうと今後もよろしくという形で今夜ご馳走しようと思うんだ。良いかな?」


「それは──」


 時人はレヴィと顔を見合わせ、同時に笑みを見せた。


「もちろん!!」


***


 一方その頃、アメリカ王国宮殿の扉に寄りかかる男が一人。アンリ・ユーストゥスだ。

 アンリは子ども達を連れ去られて以来からずっと宮殿の前で立ち止まっていた。


「どうして通してくれないんだ……」


 デイヴィッド国王からの面会拒否。加えて宮殿に入ることすら何故か許されず、風呂にも入らずアンリはずっとここにいる。


「アンリ様……」


 一人の使用人が声をかけてきた。


「もうすぐ夜になります。4月とはいえ夜は冷えますよ。どうか、今日はもうお帰りください」


「それなら大丈夫さ。僕には精霊がいるからね、夜でもそれなりに暖かいよ」


「いえ、いいえ。アンリ様」


 使用人は両手を重ね、深々く頭を下げた。


「貴方様はこの国の、世界の英雄であられる。だというのにこのように、王の許可が降りるまで、いつまでも外でお過ごしになられるつもりでしょう。私達はそれがとても辛いのです」

「戦争を終わらせ、犯罪を減少させ、身寄りの無い者たちへ寄り添ってきた貴方様がどうしてこのような仕打ちを受けているのかは私にも解りかねます。ですがどうか、御自身の立場を振り返り、今日のところはもうお帰りください」


「…………」


「私だけではなく、他の者も心配なさっています。ボロボロの姿を見せ、人々を不安にさせるのは貴方様の本意ではございませんでしょう?」


「……………………わかった。そこまで言わせてすまないね……今日は下がろう」


「アンリ様……!」


「でも、明日もまた来るよ。僕はまだ納得できてない」


 アンリはそういって使用人と宮殿に背を向ける。しかしすぐに、宮殿へ向かってくる馬車にピタリ、と足を止めた。

 馬車もまた、宮殿の入り口に人がいるのを確認してゆっくりと止まっていく。

 中に入っていた人物の一人である青年は、止まった馬車に不思議に思い、ドアを開け御者へと声をかけようとする。その時、扉の前にいるアンリに気が付いた。


「アンリ様……先輩、アンリ様がいらっしゃいますよ」


 馬車に乗ってきたのは騎士団十二臣将が一人"11番目"のウーン・デキムと後輩騎士の男二人。

 ウーン・デキムはドゥオ・デキムの双子の弟であり、顔は瓜二つ。姉とは違い落ち着きがある青年だ。


「ああ。アンリ様がいらっしゃるから扉が開けられないのか……んっ」


 ガシッ、と開けたドアにアンリの手がしがみつく。アンリは「やあ」と笑顔で声をかけると断りもなく馬車に乗り込んだ。


「宮殿に入るんだろう? ボクも同行させておくれよ」


「……いやいやいやっ! 流石に困りますよ。ねぇ先輩!」


「ええ。申し訳ございませんが、アンリ様を乗せて宮殿に入っては命令違反として処罰を受けかねませんから。どうか降りて、扉から離れて頂けると幸いです」


「やっぱりダメだよねぇ」


 じゃあ。とアンリは言葉を続ける。


「フェリに伝言は頼んでもいいかな?」


「! ……ええ、そのくらいなら」

(なんか、意外だ……宮殿に入れない理由を答えさせられると思ったが、アンリ様ってそんなにフェリ団長と関わりが深いのか?)


「ありがとう。伝言内容だけどただのアポだよ。明日の朝10時頃に突撃するから待っててほしいとね」


「とっ、突撃、ですか……?」


「会いに行くってことさ、喧嘩しにいくわけじゃない。それじゃあ、足を止めてごめんよ。話を聞いてくれてありがとうね。お疲れ様」


 アンリはそれだけ言うと大人しく馬車から降り、その場から去っていった。

 アンリの姿が見えなくなると、ウーンの頬に冷や汗が垂れる。


「……明日は荒れそうだな……」


 宮殿の扉は開き、馬車を招き入れていった。


***


「剣術ですか?」


 リビングにて、時人は棒つきの謎の肉を片手に問い返した。

 魔力操作に向かないであれば剣術から先に習うのはどうかとフィンに提案されたのだ。


「ああ。せっかく良い剣も持ってるんだ。使わなきゃ勿体無いと思うね」


 確かに、と考えながら時人は肉を頬張る。見た目は明るく、味は鶏肉に近くて時人の舌にはよく合った。三口ほど食べ進めると「でも」と話を続ける。


「剣術といっても教えてくれる方がいないと無理ですよね。まず体も鍛えないとだろうし……オレの身体、とにかく細いので」


 横からレヴィが不思議そうな顔をした。


「そうかしら? 普通だと思うけど……」


「起きたばっかの時よりは良い感じに肉がついてきたけど、剣術を習うならもっとがっしりしてないとできないと思うんだ」


 右腕を挙げて見せる時人に、フィンは穏やかに微笑む。


「剣術ならやはり人間に習うのがいいと思う。明日はレヴィちゃんと共に騎士団を覗きに行きな、ニーズくんに送ってもらってね」


「えっ、良いんですか? でも明日も仕事は……」


「いいのいいの。レヴィちゃんだってたまに手伝いに来る程度だし、今更今更」


「……」


 フィンにそう言われ、レヴィは恥ずかしそうに俯いた。


「……レヴィ、明日一緒に騎士団に同行してもらっていいかな?」


 声をかけられ驚いた声をあげた後、レヴィは両手を拳にして前へ出した。


「も、勿論よ!寧ろ、あそこにはフィン・フラーテルもいるし、トキトを一人で行かせられないもの!」


 そうと決まれば、とレヴィは立ち上がる。


「今日はたくさん食べてエネルギーを蓄えなきゃね!アタシ肉を追加してくるわ!!」


 レヴィは張り切った様子でキッチンへと向かっていく。その背中を、時人は少し心配そうに見つめていた。


(レヴィはどうしてあんなにフィン団長のことが嫌いなんだろ……前に聞いたけど、本当にアレだけの理由で……?)


 もやもやとしたものが、時人の心に残る。



 翌日。

 時人は朝の7時頃に目を覚ますと、洗面台へと顔を洗いに向かった。


(歯ブラシと歯磨き粉がちゃんと用意されてて助かるなあ……ん、トラキアって書いてある……トラキア製ってことかな)


 ここはアメリカなのに。と疑問に思いながら洗面台との用を終え、部屋へ戻り出掛ける準備をする。


 ふと、部屋の中の花へ視線を寄越すと、メッセージカードにある文字に気が付いた。


(トラキア……アキレス・A・アエ……なんて読むんだこれ……………………ああ、そっか)


 この家に来た時のことを思い出す。

 ザッハークはトラキアの皇帝から花を贈られていると話に聞いていた。


(その皇帝がアキレスって方なの……か。じゃあ歯磨き粉も贈られ……いや、寧ろザッハークさんが敢えて選んだのかな。もしかしたら他にもトラキア製のものあるかも)


 トラキア製であることが妙に気になり、部屋を探索しようとしたその時、家のインターホンが鳴る。次に聞こえたのはレヴィの声だ。


「トキトー! 起きてるー!?」


 大きな声で返事をしながら、時人は急ぎ足で階段を降り、玄関へと出た。


「おはようレヴィ!」


「おはよっ。ニーズお兄様が朝ごはん用意してくれてるから、うちで食べましょ」


「うんっ! ニーズさんいつ帰ってきてたの?」


「うーん、深夜じゃないかしら。いつも五月蝿いけど帰ってくるときは何故かいつも静かだから、気付かないのよね」


「そっか。レヴィを起こさないようにしてるのかも」


「普段からそのくらい気を使ってくれると良いんだけど」


 ニーズの性格上、それは難しいだろう。と少し知った気で、


(でも、明るいだけのヒトじゃないんだなあ……)


 そんなことを思いながら時人はレヴィの家へと入っていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ