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ULTOR‐ウルトル‐  作者: ばくだんハラミ
アメリトリア王国編
29/47

第26詩・ドラゴンのパン屋


 ドラゴン達が拠点としている街は建物が少なく、広々として見えた。障害物があまり無いからか、子どものドラゴンはそのままの姿で飛び回り、また点々とある大きな立形水飲水栓を使って水浴びを楽しんでいる。

 その中には時人に興味津々だったマラクとオルフェの姿もあった。


 レヴィの話によるとマラクとオルフェは兄妹で、二頭とも1歳と3ヶ月だという。ドラゴンは個体差が激しく、いつ喋れるようになるのか、人型になれるかどうかはわからないらしい。


「アタシは3年でやっと言葉を話せるようになって、同時に人の形にもなれるようになったわ。ドラゴンの中では遅い方ね」


「人の形になろうとするのがまず凄いな……そういえば監獄にいたムーシュって人も体格を変えていたけど、魔法ならそういうことって出来て当然なの?」


「え? 人が? それは……どうかしら。姿を変えるって見た感じよりずっと大変なのよ。アタシだって今のとは違う人間の姿になれと言われたらきっとできないもの」


「そうなの?」


「ええ。基本的に魂に合った体しか作れないの。作れたとしたらそれは見た目だけじゃかしら。実際に変化した者になっているわけじゃなくて、変化した者になっているように見せているだけの、アタシ達のとは根本的に違う魔法を使っていると思うわ」


 レヴィの言葉に、えっと、と時人は首を傾げた。


「変化と変装の違いのようなものよ。猫が犬に変化したらそれは猫の魂をもった犬だけど、猫が犬に変装したら犬に見えるだけの猫でしょう」


 前者がドラゴン、後者がきっとムーシュさん。とレヴィは言葉を付け加える。


「実際会ってないからわからないけど、背丈だって魂に左右されるから基本的には変えられないものね」


「そっか……」


 そういえば、とムーシュとの会話を振り返る。

「あまりにも背が低すぎる故、姉様と共にいる者として恥のないよう姿を変えていたのだ」

 そう言っていた。


(……そう見えるようにしていただけ……)


「どちらにしろ、そんな魔法よく使えるわよね。魔法使いってみんな若いんでしょう? とんでもない知識量と技量を持っているんでしょうねぇ」


「……?」

(ムーシュさんって、やっぱりただ者じゃないのかな……)


「あっ。見て見てトキト!」


 突然、レヴィが空に舞った煙を指差す。どうやらその煙は煙突から出ているようだ。


「あの煙が出てるところはね、マラクとオルフェのご両親が働いてるお店なの。アタシはよくそこでお手伝いさせてもらっててね、子どもドラゴン用のパンを作っているところなのよ」


「パンを? 凄いな」


「まあ、アタシは基本的に皿洗いとかなんだけど……」


「食器を洗うのも立派な仕事だよレヴィ。注文が多いときなんかは、キッチンスタッフだけじゃ洗い物に手が回らない時もあるし、そうじゃなくても誰かが洗ってくれるというだけで大助かりな筈だ」


「そ、そうかしら? ……ふふ。トキトって不思議ね。この世界のことを知らないようで、色々確信をもって言えるんだもの」


「う……そ、それは、前の経験というか……」


 目をそらし、話題を探しながら煙を見つめた。そしてふと、時人はあるワードに反応を示す。


「…………仕事」


「えっ?」


「いや、その……オレ……オレも仕事したいなあって……そう、仕事! 何か仕事したい!」


 ぶわっと、感情がこみあげた。


「オレ、この世界に来てからろくに働いてないのに食っては寝、食っては寝……監獄(ガーデン)では一応、掃除や勉強があったからまだ良かったけど……」


「えぇ……? トキトってほんとに不思議ね……食べて寝るだけの生活は羨ましいけどなあ」


「いやいやいや、そんないいもんじゃないんだよレヴィ。やることないと、やることないってだけでだんだん辛くなってくるから、虚無感が半端じゃないから! ……暇ってオレにとっては地獄そのものなんだ」


「…………ふふっ」


 じゃあ、そうね。とレヴィは時人の前に立つ。


「一緒に皿洗いしてくれる?実は一人じゃ大変なの」


「……!! 勿論っ……ああでも、まず、採用されるかわからないけど……」


「大丈夫よっ、堅苦しい面接なんて無いし! アタシも採用とかじゃなくて本当にお手伝いみたいな感じだから……子供達には無料でパンを食べさせてて、あんまり職場って感じもしないわ」


「そうなの? それって大赤字じゃないか? 食材とか機材はもしかして自分達で作ってる?」


「赤字? ……はよくわかんないけど、そうね。パンといってもドラゴン用だから、人とは作り方が違うと思うわ」


「ドラゴン用……」

(さっきも聞いたけど、犬用みたいな? ……あれ。ってことはドラゴンって普段、人間とは食べ物違うのかな。肉食って感じはするし、肉はなんでも食べそうだけど……)


 時人はそんなことを考えながらレヴィの後をついていった。


 辿り着いたのは煙突の家。時人の住んでいる家の倍以上広く、パンの良い匂いが充満していた。ガラス窓の向こうには商品と思われる大きなパンが並べられていた。


 そう、とても大きな、直径1mほどのパンだ。


「…………ドラゴン用って……サイズのこと……?」


「ふふ、トキトも食べてみる?」


「味はどうだかわからないけど、どんなに美味しくても食べきれる気はしないかな……」


『———ふふぅ』


 レヴィと言葉を交わしていると、地面から女性の微笑むような声が聞こえた。時人はあたりを見渡し声の主を捜した。しかし自分たちを見ている女性はどこにもいない。

 キョロキョロとしている時人を見ながらレヴィは思わず笑いをこぼす。


「レヴィも聞こえた?」


「ふふ、ええ。声の主は目の前にいるわよ」


「?」


 レヴィにそう言われ目の前を見る。しかし目の前にあるのはパン屋の家だ。ガラスの向こう側を見てもヒトやドラゴンの姿はどこにもない。


「誰もいないけど……」


「う~ん、下といったほうが正しかったかしら……ねぇ、グイベル姉様」


 グイベル姉様。レヴィがそう名前を呼ぶと目の前の家が地面と共にぐらぐらと揺らぐ。


「っ! 地震!?」


『違います、違うのですよ』


 地面から声が聞こえた次の瞬間、家の下からドラゴンが顔を見せる。そのドラゴンの頭はレヴィと時人ふたりの身体より大きく、ニーズよりも蛇のような顔付きをしていた。驚いた時人は情けない声を出しながら尻もちをついた。


「!? ……!?!?」


「おや、すみませんね。驚かせるつもりはありませんでした」


 グイベルと思わしき女性のドラゴンは、大丈夫ですか、と声をかけながら時人を一舐めした。


「アマクサ・トキトくんですよね。地面の中にいたから聞こえていました。私はグイベル。マラクとオルフェのお母さんなのですよ」


「あ、あ、え、えっと……はじめまして……」


 尻もちをついたままの時人にレヴィは手を差しのばす。


「トキト、大丈夫? ごめんなさい。どんな反応するのか楽しみで黙っていたけど、この家はグイベル姉様の身体で出来ているのよ。いつもは土の中にいるの」


「そっ、そんな……そんなこともできるの!?」


 時人の疑問にグイベルが答える。


「そんなに難しいことではないのです。単純に、私の鱗を素材に家を建てただけですから」


「鱗を素材にって……皮を剥がされているようなものじゃ……?」


「どちらかといえば髪の毛ですね。ま、痛いときもありますけど、子どもたちの住処を作ろうと思って試したら面白いことになったのですよ。背中に家のあるドラゴンってレアものって感じしませんか?」


「それは……しますけど……」

(楽観的というかなんというか……軽いな、このヒト……)

「背中がそうだと苦労しませんか?」


「心配無用です。これがきっと、私の在り方、個性ですから」


 そう言いながらグイベルは体を起こす。家がぐぐっと地面から離れ、グイベルのお腹が土の中から見えてきた。どうやら手足のあるドラゴンではないようだ。


「それと土の中から聞いていました。うちの子がご迷惑をすみません。それと、うちでお手伝いですが、好きにしていいですよ。ただ来るのであれば朝は早めに来てくれると嬉しいです」


「いいんですか? ……あの、お手伝いとなると、家の中に?」


「入って貰って構いません。ああでも、皿洗いなんかは必然的に外でやることになります。マラク達のお皿は大きいので店の中で洗うスペースが無いのですよ」


(……色々聞きたいことはあるけど、)

「…………わかりました。ありがとうございます、その、旦那さんはどちらに……?」


「彼なら――――」


「ここにいるよ」


 時人たちの背後から見覚えのない牛サイズの生き物を片手で担いでいる男性がそう声をかけてきた。


「妻が顔を出しているから何事かと思えば、レヴィちゃんと噂のアマクサ・トキトくんか。僕の名前はフィン。これからよろしくね」


「はいっ、よろしくお願いいたします!」

(なんか、ちゃんとしたヒトだ……)


「うん。真面目ないい子だね。そうだ、これからヘルハウンドの肉を使ったサンドウィッチを作るんだけど食べていかないかい?」


「へるはうんどって……」


 これだよ、とフィンは担いでいた生き物を目の前に見せる。それは犬の頭を二つ持った魔獣だ。恐らく死んでいるが血生臭くはなく、まるで人形のように見えた。


「……この魔獣を食べるんですか?」


「うん。結構おいしいから、大丈夫だよ。レヴィちゃんも昔よく食べてたし」


 そう言われ、レヴィは視線を逸らす。


「あ、あの時は元の姿とか見たことなかったし……というか! ヘルハウンドは美味しいけど、貴重なんじゃないの? 地獄から来てるんでしょ?」


「いいのいいの。捕ったもん勝ちだよ。さ、フタリとも上がって上がって。すぐ準備するからさ」


 フィンはヘルハウンドを担ぎ、家の中へと入っていった。時人とレヴィは微妙な表情のまま続いて家の中へと入っていく。家の中に入るとパンの香りが漂い、時人の心が躍った。

 どれも見たことのない巨大なパンだが、これからここで何か手伝いが出来るのだと思うとわくわくした。


「レヴィちゃんはトキトくんに店内を案内してあげて。その間、僕は肉を解体してくるよ」


 そう言ってフィンは奥の部屋へと姿を消した。


「よーしそれじゃあトキト、まずどこから知りたい?」


「トイレかな」


 ―――――暫く、その場に沈黙が続いた。


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